寄稿・インタビュー

令和6年5月3日

 スリランカの皆様、こんにちは。私個人として初めてとなるスリランカ訪問に際し、ご挨拶申し上げます。私の地元静岡は緑茶の名産地であり、緑茶の国から紅茶の国を訪れる機会を得られたことを大変嬉しく思っています。

 日本とスリランカは、長い友好関係の中で、常に互いを理解し、手を差し伸べてきました。第二次世界大戦後のサンフランシスコ講和会議で、故ジャヤワルダナ元大統領は、日本への深い理解の下、そのスピーチの中でブッダの言葉を引用しつつ日本の国際社会への復帰を後押ししました。一方で、日本は、明石康氏を筆頭に、スリランカの平和構築、復旧・復興の努力を支援し、2003年には「スリランカ復興開発に関する東京会議」を主催しました。本年1月の能登半島地震に際しましては、日本に住むスリランカ人が現地を訪れ、カレーの炊き出しを行い被災された方々を激励したことは広く報じられました。

 このような「縁」で繋がった我々が、経済危機に直面する現在のスリランカを助けることは、友人として当然のことです。また、インド洋の要衝に位置するスリランカが安定を回復し、経済的な発展の道に戻ることは、インド太平洋地域全体の安定と繁栄のためにも不可欠です。日本は、ウィクラマシンハ大統領のリーダーシップの下、スリランカが債務問題への対応及び経済危機を克服するための改革を真剣に進めていることを高く評価しており、このようなスリランカ政府の取組を力強くサポートしております。一昨年のデフォルト以後の危機的な状況を受けて、日本は、スリランカのニーズに寄り添う形で、食料やディーゼル燃料等の緊急人道支援を含む累計1億1,100万ドルの無償資金協力を実施しました。また、債務問題については、日本は、インド、フランスとともに債権国会合を立ち上げ債務再編の議論をリードしてきており、現在まで大きな進展を見せていることをうれしく思います。

 今後は、スリランカが債務再編を行い、デフォルト状態から脱却することが最優先です。また、現在スリランカが進めている様々な改革は、いずれもスリランカ経済が再び成長の軌道に乗るためには不可欠なものです。日本は、スリランカがこれらの努力を通じ、遠からず目下の危機から脱却することを確信しております。我々としても、債務再編の進展に引き続き協力していくとともに、債務再編に関する合意がなされた際には、既存の円借款事業を早期に再開させ、スリランカの発展を一層後押ししていく考えです。

 「互いを理解し、助け合う」-そのような両国関係の基盤となるのが、国民レベルでの活発な文化・人的交流です。スリランカにおいては、今年1月からルーパワーヒニの日本語番組「ようこそ日本へ」が放送開始されるなど、近年、日本語学習熱が高まっていると承知しており、これを契機にスリランカの方々がこれまで以上に日本に親近感を持っていただくことを願っています。また、スリランカとの間では特定技能制度の拡充も進んでおり、今後この制度の活用が一層進むことを期待します。

 日本とスリランカの協力は、両国の間だけで閉じられたものではありません。貿易に依存する海洋国家である両国にとって、平和で繁栄する国際社会は不可欠であり、法の支配に基づき、どの国も公平で公正な環境下で、自国の安定と発展を追求できる国際社会を作っていくことが重要です。日本はそうした国際社会を実現すべく「自由で開かれたインド太平洋」を推進しており、インド洋の中央に位置する海洋国家であるスリランカはその重要なパートナーです。今後も、海洋分野も含め、スリランカとの協力の幅を更に広げていく所存です。そうした国際社会を作っていく中で、環インド洋連合(IORA)も重要であり、議長国スリランカの取組に敬意を表するとともに、積極的に連携していきたいと考えています。

 また、近年日本政府が強く推進し、私のライフワークでもある「女性・平和・安全保障」(WPS)の分野でもスリランカと協力してまいります。WPSは、危機下における女性など脆弱な立場の人々の「保護」に取り組みつつ、女性自身が指導的立場で「予防」や「人道・復興支援」に「参画」することで、より持続可能な平和に近づくことができるとの考え方です。女性大統領及び首相を輩出してきたスリランカにおかれては、このことの重要性はよく理解されていることと思います。スリランカは、G7・WPSパートナーシップ・イニシアティブにおける我が国のパートナー国であり、我が国はスリランカのWPS行動計画の策定を支援するとともに、紛争や災害の影響を受けた地域における女性の経済・社会参画を促進してきました。今後もこの分野において一層連携していく考えです。

 スリランカでは紅茶農園をはじめ多くの職場や学校で、日本で生まれた5S(整理・整頓・清潔・清掃・躾)が取り入れられていると聞いており、スリランカの方々に大変親しみを感じます。私たちの生活の一部になっている緑茶と紅茶も、同じ茶の葉から作られています。こうした両国国民の日常生活に根付く親和性を大事にしつつ、スリランカが経済危機から一刻も早く立ち直り成長の軌道に戻ることができるように、日本の外務大臣として両国関係の一層の発展に向けて力を尽くしていきたいと思います。


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