寄稿・インタビュー
インド現地紙への上川外務大臣寄稿
「日本とインド:新たな解決策を「共創」していくパートナー」
本日、私は外務大臣就任後、初めてインドを訪問します。日印友好議員連盟に所属し、かねてからインドとの関係を推進してきた者として、インドの皆様にお会いし、躍動するインドを体感できることを心から楽しみにしています。
日本とインドとの間には、6世紀の仏教伝来から始まる歴史的な紐帯を有しています。また、私の地元である静岡県とも深い繋がりがあります。例えば静岡は、緑茶の名産地ですが、19世紀後半に静岡で茶業を営んだ多田元吉は、インドで紅茶の製造技術を学び、日本に持ち帰り紅茶を製造、また、その技術を緑茶製造にも応用したと言います。
こうした深い縁で結ばれた日印両国は、2014年に「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」を立ち上げ、それ以後の10年で幅広い分野にわたり関係を飛躍的に強化してきました。これまでの10年の取組を通じて、私は、日印両国には、今後、更なる協力の可能性が具体的に広がっていると確信しています。そうした確信をもとに、今後は、これまで積み重ねてきた両国関係の幅を広げ、具体的な案件形成とともに、主に4つの分野において関係をより一層深めていきたいと思っています。
第一に、防衛・安全保障分野について、今回の訪問では、約2年ぶり、第3回目となる日印外務・防衛閣僚会合(「2+2」)が開催されます。日本の自衛隊とインド軍による陸・海・空全ての軍種での共同訓練の実施、防衛装備・技術協力の促進に向けた取組など、近年、両国間の安全保障分野での協力は著しく進展しています。今回の「2+2」を通じて、両国間で戦略環境の認識を共有し、こうした取組を一層進めていく機会としたいと思います。ジャイシャンカル外務大臣やシン国防大臣との間で実りある議論を行うことを楽しみにしています。
第二に、経済分野では、日印の旗艦プロジェクトである高速鉄道事業、モディ首相が重視する北東部の開発、そして北東部をベンガル湾と結ぶ産業バリューチェーン構想といった具体的な協力を着実に進めてきています。また、2022年に首脳間で打ち出した5年間で官民合わせて5兆円の投融資の実現目標に向けても、日印両国でしっかりと取り組んでいきます。こうした協力の実績をベースに、今後は、GXやDX等の新たな分野での協力や、投資・ビジネス環境整備を進め、日印関係を次なるステージへと引き上げていきます。
第三に、両国国民のつながりは国と国との関係の基盤であり、今後両国間の人的交流の裾野を大きく広げていきたいと思っております。2023年度に実施していた「日印観光交流年」については、本年3月の日印外相間戦略対話の場で、本年度も継続することを発表しました。9月から10月には、「Japan Month」として、インド国内で各種イベントが集中的に開催される予定であるとともに、東京においても「India Month」として同様の取組が行われる予定です。こうした取組を通じて、両国の相互交流が一層増進することを期待しています。
そして第四に、近年日本政府が強く推進し、私のライフワークでもある「女性・平和・安全保障(WPS)」分野でも、インドとの協力を進めていきたいと思います。WPSは、危機下における女性など脆弱な立場の人々の「保護」に取り組みつつ、女性自身が指導的立場で「予防」や「人道・復興支援」に「参画」することで、より持続可能な平和に近づくことができるとの考え方です。インドはこれまでPKOに多くの女性隊員を派遣している国の一つであり、先月、東京で私が主催し、ジャイシャンカル外務大臣にも参加いただいた日米豪印外相会合においても、災害リスク削減への適用を含めWPSアジェンダへの貢献に共にコミットしたばかりです。こうしたインドとの間でWPSに関していかにして協力を具体化していくか、検討していきたいと思います。
日印両国は、こうした二国間における取組に加え、多国間の枠組みを含め国際社会においても連携を深めています。先月の日米豪印外相会合では、力又は威圧による一方的な現状変更の試みへの反対や、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けた確固たるコミットメントを改めて確認したところです。
長い歴史的紐帯と民主主義という共通の土台の基に築き上げられた日印両国の友好関係は、唯一無二のものです。世界が様々な課題に直面し、歴史の転換点に立つ今、日印両国は、新たな解決策を「共創」していくパートナーとして、インド太平洋、ひいては世界の平和と安定に大きな貢献をすることが求められています。今回の私のインド訪問がそうした日印関係に新たなページを刻み、両国のパートナーシップの一層の深化へとつながることを、心から願ってやみません。