寄稿・インタビュー

令和8年7月1日

 このたび、ナレンドラ・モディ首相の御招待により、日印年次首脳会談のためニューデリーを訪問できることを嬉しく思います。

 私にとって初となる今回のインド訪問は、日印の首脳が毎年交互にお互いの国を訪れる年次相互訪問が始まって20年の節目に当たります。首脳の頻繁な往来は、強固な2国間関係を一層強固なものとすると同時に、この不透明で複雑な国際社会の問題にどのように対処するか首脳間で率直に話し合う機会となります。昨年8月のモディ首相訪日に続く形で、今回、私がこのバトンを受け継ぐことができることは感慨深いことです。

 日印は2014年に両国関係を「特別戦略的グローバルパートナーシップ」へと引き上げ、安全保障や経済、人材交流など様々な分野での具体的な協力が進展しています。「強いインドは日本の利益であり、強い日本はインドの利益である」とかつて安倍晋三総理が述べたとおり、お互いの強みを活かし、「共に、強く豊かに」なっていくことが、両国の利益にかなうと確信します。

 そして、ここインドは、現在の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の源流が生まれた地です。“The different streams, having their sources in different places, all mingle their water in the sea.”―安倍総理は、インド国会での演説でスワーミー・ヴィヴェーカーナンダ氏の言葉を引用し、太平洋とインド洋を一体としてとらえ、志を同じくする国と協力し、ここに自由と繁栄を追い求めていくことが私たちの責任であると述べました。この目標は、今も色あせることはなく、いまこそ日本とインドが協力してこの目標の実現を希求していくことが強く求められています。

 今回の会談で特に重点を当てたいと考えていることの一つが、両国の戦略関係の強化です。安全保障分野での協力をより深め、不透明な国際情勢に対応していく力をつけていきたいと思います。加えて、脆弱な立場に置かれている国が、他国からの威圧によって選択を強いられることがないよう、力を合わせてこれらの国の自律性と強靱性を高めていかなければならないー5月に私が発表した「進化したFOIP」の考え方の肝はこの点にあります。真に自由で開かれた地域とは、大国だけが自由な地域ではなく、あらゆる国が、自らの意思で未来を選択できること、外部からの威圧に左右されないことーこれこそがFOIPの本質です。

 この考え方は、インドのMAHASAGARイニシアティブと深く共鳴していると思います。モディ首相が掲げたこの理念は、海を覇権の空間ではなく、地域全体の安定と成長を支える共有空間として捉えています。インドは、実際に行動し、地域に安定を提供し、周辺国の強靭性を支えてきた海洋国家です。だからこそ、日本にとってインドは、FOIPを共に実現するための不可欠なパートナーであり、こうした理念に基づく国際秩序を一緒に発展させていきたいと考えます。

 FOIPと、インドが掲げるインド太平洋海洋イニシアティブ(Indo-Pacific Oceans' Initiative、IPOI)、そしてMAHASAGARに基づく協力は既に具現化しています。例えば、アッサムからインド北東部の各地やバングラデシュとの連結性を高め、インド洋へのアクセスを可能とする「産業バリューチェーン構想」がその一つです。日本のODAでドゥブリ・プルバリ橋をはじめとする地域の道路や橋梁、バングラデシュのマタバリ港などのインフラの整備が進むことで、北東部内のみならず、インド各地、また、ASEANやその先の市場へと産業のバリューチェーンが繋がります。ネパールやブータンといった我々の大事な友人もその恩恵を受けるでしょう。

 昨年8月にモディ首相が訪日された際、「今後10年に向けた日印共同ビジョン」を発表しました。このビジョンの実現を目指しながら、この1年で起きた国際情勢を踏まえ、特に喫緊の課題である経済安全保障とエネルギー安全保障、そしてAIを始めとする新興技術の分野でも、具体的な協力を打ち出したいと思います。

 日印両国の歴史的・文化的なつながりを踏まえた文化交流や人的交流も大事です。私の故郷である奈良には、インドに源流を持つ仏教文化が今も鮮やかに残されています。来年の日印国交関係樹立75周年の機会も活用し、このような交流ももり立てていきたいと思います。

 日印関係はいまや、戦略的な方向性を共有する信頼のパートナーシップ(strategically aligned trusted partnership)であります。「共に、強く豊かな」未来を目指して、両国の関係を、未来の世代のためにどのように発展させていくかについて、モディ首相と様々な議論をできることを楽しみにしています。


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