寄稿・インタビュー
ワシントン・ポスト紙(米国)への河野外務大臣寄稿
(2018年9月25日)
「世界はミャンマーとバングラデシュを支援すべき」
昨年11月,私は,ラカイン州からの70万人以上の難民が逃れているコックスバザールの難民キャンプを訪れました。1月に,私は,ラカイン州北部を訪れました。これらの二つの訪問で,私は強い印象を受け,ラカイン問題を日本の外交の最重要課題の一つに押し上げる一助となりました。8月には,二度目となるミャンマーとバングラデシュ訪問を行い,それぞれの国の指導者と面会し,今後の方針を協議しました。この難民問題に関するいかなる解決策もこの二カ国の主導によるものでなければなりません。ミャンマーとバングラデシュは,難民の安全,自発的で尊厳ある帰還の実現にコミットしています。私たちは,両国の努力を支え,相互の信頼と協力の醸成を手助けしなければなりません。
今,最も喫緊の課題は,コックスバザールのキャンプの状況を改善することです。私は,数十万の難民を受け入れているバングラデシュの人々と政府の思いやりと寛大さを称えたいと思います。しかしながら,難民を支援するための資金の不足は引き続き大きなものとなっています。今日までに表明されたドナー国による支援は,必要資金の38パーセントしか達していません。地元住民たちは,負担がますます増えているにもかかわらず,自分たちの土地,食料,水といった貴重な資源を難民と共有してくれています。国際社会は,この危機を乗り越えるためのバングラデシュの努力を支援し,資金不足を解消するための援助を増大させる必要があります。
しかしながら,持続的な問題解決の鍵は,難民の早期帰還とラカイン州の平和的な再定住に向けた環境整備を行うことです。ジョン・F・ケネディは著書「勇気ある人々(Profiles in Courage)」で,「真の民主主義は…民衆に信頼を寄せている。その信頼とはすなわち…民衆は,原則を堅持することで自分達が好まない方向に引っ張っていこうとする人物を非難するのではなく,勇気に報い,名誉を尊重し,そしてきっと最後に正しいと認めてくれるという信頼なのだ。」と述べました。ミャンマーの民主主義と人権の長年の擁護者であるアウン・サン・スー・チーは,自身の倫理的原則と,帰還と再定住に必ずしも好意的でない自身の支持者の意見とのバランスをとるという難しさに直面しているのです。問題に迅速に対応していないとアウン・サン・スー・チーを批判することは簡単です。しかし,今,国際社会がしなければならないのは,彼女の政府の努力を支えることなのです。
ミャンマー政府は努力をしてきましたが,もっと行う必要があります。ミャンマー政府は,難民受け入れセンターや住宅などの施設の建設を行ってきましたが,移動の自由を保証し,国籍審査プロセスの道筋を明確に示す必要があります。ミャンマー政府はUNHCRおよびUNDPとの間で,帰還プロセスの成功に不可欠なこれらの国連機関の現地でのプレゼンスを保証するための覚書に署名しました。最新のニーズ評価に基づく国連機関による支援事業が近く開始されます。この問題の多面的な根本原因に対処するため,取組みの手を休めている猶予はありません。そのための包括的処方箋を,故コフィ・アナン博士が率いる委員会が,一年前,ラカイン州助言委員会の報告書の中で示しています。国際社会は,難民の帰還と再定住を可能とするためのこれらのミャンマー政府の努力を手助けしなければなりません。
ラカイン州で何が起きたかを明らかにするために,ミャンマー政府は,二名のミャンマー人と二名の外国人からなる独立調査団を設置しました。アカウンタビリティは,ミャンマー自身のイニシアティブによって担保されるべきです。私たちは,独立調査団が信頼性のある調査を実施することを強く期待しており,そのためにはミャンマー軍からの全面的な協力が必要です。
多くの人々は,ミャンマー政府が必要な方策をしかるべき早さで実施していないとして批判ばかりしています。しかしながら,いま国際社会が行わなければならないのは,批判ではなく,難民の安全,自発的で尊厳ある早期帰還のためのミャンマー政府の努力を忍耐強く支えることです。ラカイン州の平和と安定は,ミャンマーにおける民主主義と人権の定着なしには実現できません。国際社会は,ミャンマーの民主国家への進化を止めることがあってはならないのです。