報道発表
ミャンマーに対する無償資金協力に関する交換公文の署名
平成25年3月22日
- (1) 本22日(現地時間同日)、ミャンマー連邦共和国の首都ネーピードーにおいて、ミャンマーに対する下記無償資金協力11件(総額204.7億円)に関する交換公文の署名が行われました。これらの協力は、ミャンマーが進める経済改革や国民和解に向けた努力を支援するため、ミャンマーの国民生活の向上支援や持続的経済成長のためのインフラ整備や少数民族地域に対する支援のために行われるものです。
(2) 交換公文の署名は、我が方の沼田幹夫駐ミャンマー大使と下記の署名者との間でそれぞれ行われました。
・キン・サン・イー・ミャンマー国家計画・経済開発副大臣(Dr. Khin San Yee, Deputy Minister for National Planning and Economic Development)(下記2.の6件及び3.(1))
・スリニバサ・ポプリ国連HABITAT上級人間居住専門官(Mr. Srinivasa Popuri, Senior Human Settlements Officer, UN-Habitat Regional Office for Asia and the Pacific)(下記3.(2))
・トイリー・クルバノフUNDPミャンマー事務所長(Mr. Toily Kurbanov, Country Director, UNDP Myanmar)(下記3.(3))
・伊藤礼樹UNHCRミャンマー事務所副代表(Mr. Ayaki Ito, Deputy Representative, UNHCR Myanmar)(下記3.(4))
・カルロス・ヴェローゾWFPヤンゴン事務所長(Mr. Carlos Veloso, Country Director and Representative, WFP Myanmar)(下記3.(5)) - 国民生活の向上支援及び持続的経済成長のためのインフラ整備支援
(1)農業人材育成機関強化計画(The Project for Strengthening Human Development Institutions in Agriculture)(供与限度額10.08億円)
(ア) ミャンマーでは、国民の約6割が農業に従事し、農業部門はGDPの約3割を占める重要な産業です。ミャンマー政府は、農業の近代化を進めていますが、長年の統制経済を始めとする様々な影響により、農業の生産性は低い水準に留まっています。
(イ) 農業灌漑省の技術者養成機関であるイエジン農業大学、同省農業研究局、ヤンゴンの中央農業研究研修センターや蔬菜果樹研究開発センターは、農業の生産性向上のための農業技術の導入・普及のための機関としての役割を果たしていますが、施設・機材の老朽化が著しく、十分な機能を発揮できていません。
(ウ) 本件は、これらの機関における施設や実験・実習機材の整備を行うものです。本件によって、農業技術の研究・実習の質と量が向上し、農家及び消費者のニーズに応えた農業技術の普及が促進され、農業の生産性向上につながることが期待されます。
(2)病院医療機材整備計画(The Project for Improvement of Medical Equipment in Hospitals in Yangon and Mandalay)(供与限度額11.40億円)
(ア) ヤンゴン及びマンダレーはミャンマー北部と南部それぞれのトップレファレル病院を抱え、他の病院では処置不能な重篤患者に対応する役割を担っていますが、両市の総合病院、専門病院は、医療施設や機材の不足、老朽化等の困難に直面し、医療サービスの質が低下しています。またミャンマーは、近隣諸国と比較すると子どもと妊産婦の死亡率が高く、乳児死亡率は1000出生あたり70(2010年)(東南アジア平均は26)、5歳未満児死亡率は1000出生あたり120/102(男/女、2005年)(東南アジア平均は41/32)、妊産婦死亡率は10万出生当たり380(2005年)(東南アジア平均は300)となっています。
(イ) 本件は、ヤンゴン及びマンダレー市内の病院(ヤンゴン中央婦人病院、ヤンゴン小児病院、マンダレー総合病院、マンダレー婦人病院、新マンダレー小児科病院)に医療機材を整備するものです。本件により、本来トップレファレル病院が果たすべき医療サービスの提供が可能となり、特に母子医療のサービス改善に資することが期待されます。
(3)気象観測装置整備計画(The Project for Establishment of Disastrous Weather Monitoring System)(供与限度額38.42億円)
(ア) ミャンマーでは、毎年のようにサイクロンの被害を受け、また大雨による洪水や土砂災害も頻発しています。特に、2008年5月に上陸したサイクロン・ナルギスは、13万8千人を超える死亡・行方不明者を出し、国全体の社会経済活動に甚大な被害を与えました。
(イ) サイクロン監視に最も重要な位置であるベンガル湾沿いのチャオピューにあるミャンマー唯一の気象レーダーシステムは、老朽化により稼働を停止し、ミャンマー政府はサイクロンを直接監視する手段を失っています。また、全国各地の気象観測所での観測も、マニュアル観測であり、データの収集に時間がかかることから、気象局は有効な予警報を行うための迅速な雨量等の把握ができない状況です。気候変動による自然災害の激甚化が懸念される中、適切な災害対策を実施するため、ベンガル湾岸を含め国土の大部分を監視範囲に置くことのできる気象監視網の整備が喫緊の課題となっています。
(ウ) 本件は、ヤンゴン、チャオピュー、マンダレーにおける気象レーダーシステムの整備、全国30カ所における自動気象観測システム(AWS)の整備等により、ミャンマーの気象監視能力を強化するものです。本件により、サイクロンや大雨などの気象災害への対応能力が向上し、気象災害による被害が軽減されることが期待されます。
(エ) なお、本件は、我が国の2013年以降の気候変動対策に関する途上国支援の一環として実施するものです。我が国としては、温室効果ガス排出削減のため、すべての国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築にむけ、ミャンマーと引き続き気候変動分野で連携していきます。
(4)全国空港保安設備整備計画(The Project for Improvement of Nationwide Airport Safety and Security)(供与限度額12.33億円)
(ア) ミャンマーにおける航空需要は年々増加しており、今後経済発展に伴い更に航空分野の重要性が高まることが確実となっていますが、ミャンマーの空港においては、航空機の安全運航に必要な航空保安施設やテロ等を防ぐための空港セキュリティ機材の整備は大きく遅れています。特に、同国の地方空港の多くは未だ十分な無線施設を持たず、低精度の計器飛行や目視による有視界飛行による運航が行われ、天候の急変等の事態に対応することができず、また、セキュリティ検査についても、検査体制が十分ではありません。
(イ) 本事業は、ミャンマーの主要空港(ヤンゴン、マンダレー、ニャンウー、ヘホー、タンダウェおよびダウェー)において、ICAOの安全基準を満たすため、航空交通の安全性向上に関する機材及び空港の保安に関する機材の整備を行うものです。本件により、航空輸送の安全性及び信頼性が向上するとともに、域内の航空交通量増加への対応が可能となることが期待されます。
(5)バルーチャン第二水力発電所補修計画(The Project for Rehabilitation of Baluchaung No.2 Hydropower Plant)(供与限度額66.69億円)
(ア) ミャンマーにおいては、発電施設の老朽化、火力発電のための燃料不足、乾季における水量の低下に伴う水力発電の出力制約等により、慢性的な電力不足に陥っており、最大の電力需要地であるヤンゴンにおいても頻繁に停電が発生し、我が国企業を含む現地の企業や施設の多くが自家発電等によって電力不足に対応している状況です。近年の経済成長により、電力需要は今後も増加することが見込まれ、電力供給設備の更なる拡充とともに、電源構成の74%を占める既存の水力発電所による安定供給を確実に継続していくことが重要な課題となっています。
(イ) バルーチャン第二水力発電所は、総出力168MWを有し、年間発電電力量は全国の総発電電力量の約10%を占め、豊富な水源により年間を通じて安定したベースロード電源の発電所として位置づけられています。他方、同発電所は、1960年に運転を開始して以来の連続稼働運転による機器の劣化、老朽化が進んでおり、同発電所の安全かつ安定的な稼働を維持し、供給不足であるミャンマーの電力事情を更に悪化させることがないようにするため、早急な機器の補修及び更新が必要となっています。
(ウ) 本件は、同発電所の発電設備、変電設備及び水圧鉄管の補修及び更新を行い、原形復旧・機能回復を図るものです。本件により、同発電所の信頼性・安全性が維持され、ミャンマーのベースロード電源である水力発電所による電力供給量の確保に大きく寄与し、主需要地であるヤンゴン及び周辺地域において、社会経済活動に不可欠な電力の供給が安定的に維持されることが期待されます。
(6)ヤンゴン市フェリー整備計画(The Project for Upgrading Ferryboat in Yangon City)(供与限度額11.68億円)
(ア) ヤンゴン中心部とヤンゴン河を挟んだダラー地区を結ぶフェリー航路は、1日平均約32,000人以上が利用しており、特に朝、夕のピーク時には、定員超過が常態化しています。また現在就航しているフェリーは老朽化が進み、いずれも船体の傷みが激しく、浸水も度々発生し、年に3ヶ月間のドック入りが必要となっており、公共輸送を担うフェリーとしては危険な上、安定した運航が困難な状況となっています。本航路は流れも速く、近くにヤンゴン港があり大型船も多いところ、一度事故が起これば大きな被害が発生する可能性があります。ダラー地区は一般の勤労者や低所得者層が多く居住する地域であり、経済発展を続けるヤンゴンの市内交通網の整備の一環としてのフェリーの整備が、重要な課題となっています。
(イ) 本件は、ヤンゴン河渡河のための新規のフェリー3隻を整備するものです。本件により、渡河交通の安全性と信頼性が向上し、ヤンゴンの市内交通の改善と市民の生活環境が改善することが期待されます。 - 少数民族地域に対する支援(総額54.10億円)
ミャンマーには135の民族が居住しており、7割がビルマ族、3割が少数民族と言われています。1948年の独立以降、様々な少数民族グループは政府に対して自治権の拡大、完全独立等を求めて武力闘争を開始しました。その後長年にわたる戦闘により、多くの人々が国内で避難民となったり、隣国に逃れて難民となるとともに、少数民族地域は開発から取り残され、農村等の荒廃が進みました。
1990年代以降、政府は少数民族との和解を進め、2011年に発足した現政権も国民和解の一環として少数民族と精力的に停戦合意・和平協定を進めており、現在まで、カチン族を除くほとんどの民族と基本的な停戦合意に達しています。しかし、カレン州においては依然20万人以上の国内避難民が存在し、10万人以上がタイの難民キャンプで暮らしており、カチン州においては政府と少数民族勢力の戦闘により約8万人の国内避難民が発生し、またラカイン州においては、2012年5月より発生したラカイン族とベンガル系住民との衝突により、約11.5万人の国内避難民が発生していると言われています。
今後は政府と少数民族との間、またはコミュニティ間の信頼関係を醸成するとともに、荒廃した少数民族居住地域を開発し、産業を振興していく必要があります。国内避難民や難民の帰還も、受け皿となるコミュニティと生計手段がなければ進まず、これらを実現するためには国際社会からの支援が不可欠です。我が国は、少数民族地域の開発と平和の定着を促進し、ミャンマーの安定と持続的発展に貢献するため、国際機関とも連携して、少数民族地域に対する下記の支援を実施します。
(1)カレン州道路建設機材整備計画(The Project for Provision of Road Construction and Maintenance Equipment in Kayin State)(供与限度額7.59億円)
(ア) カレン州では、2012年1月にミャンマー国軍とカレン民族同盟との戦闘が終結し、停戦合意に至りました。これにより、大量の難民・国内避難民の帰還・再定住が課題となっていますが、長年の紛争によりカレン州の開発は遅れ、住民にとっての基礎的な生活基盤であり、州内の開発事業に必要な道路整備も不十分な状況です。
(イ) 本件は、カレン州における道路整備のための建設機材を整備するものです。本件により、物流が改善されてカレン州の産業が活性化し、沿道住民の生活が向上するとともに、帰還民の移動や受入れ村の整備のための物資の輸送が円滑化され、難民・国内避難民の帰還や地域の開発が促進されることが期待されます。
(2)少数民族地域におけるコミュニティ開発・復旧計画(UN-HABITAT連携)(The Programme for Development and Rehabilitation of Community in Ethnic Minority Areas)(供与額7億円)
(ア) カチン州、シャン州では多くの国内避難民が発生している他、住宅、道路、公共施設等の基礎インフラが戦闘により荒廃し、劣悪な状況におかれています。また、チン州は、交通アクセスの悪さ等から政府や国際社会の支援が最も入りにくく、ミャンマーの中でも最も貧困率が高い州であり、基礎インフラの整備が極めて遅れています。
(イ) 本件は、国際連合人間居住計画(UN-HABITAT)と連携し、これら3州において橋梁・道路等のコミュニティ・インフラの復旧や、河川水供給システムや雨水収集タンクの設置等水と衛生の改善事業を、住民参加型によって行うものです。本件により、対象地域のコミュニティ・インフラが改善され、約5万世帯(25万人)の生活環境が復旧・改善されるとともに、住民参加型による事業を行うことにより、コミュニティの一体性が強化されることが期待されます。
(3)少数民族地域における地方行政能力、生計及び社会統合向上計画(UNDP連携)(The Programme for Strengthening Local Governance Capacity、 Livelihoods and Social Cohesion in Ethnic Minority Areas)(供与額13億円)
(ア) 少数民族地域においては、国内避難民や難民の帰還に伴い、今後の社会の再統合と安定した発展に向けて、住民の生計手段の確立、適切な住民サービスの提供や地域レベルでの開発事業を実施するための地方自治体の能力向上、再統合されたコミュニティにおける各種の法的手続や紛争の解決及びその過程での弱者の保護等が課題となっています。
(イ) 本件は、国連開発計画(UNDP)と連携し、ラカイン州、カチン州、カヤー州、カレン州、シャン州、チン州において、研修・ワークショップ等による地方政府の行政能力の向上、職業訓練等による地域住民の生計向上支援、法律に関する手続や権利についての住民に対する啓蒙活動等を行うものです。本件により、対象地域の地方自治体の能力が向上し、対象地域の住民約21.5万人の生活が向上するとともに、住民の各種権利が適切に保護され、難民・国内避難民の帰還によって再統合されたコミュニティの強化につながることが期待されます。
(4)少数民族地域における避難民支援計画(UNHCR連携)(The Programme for Assistance to Displaced Persons in Ethnic Minority Areas)(供与額6.51億円)
(ア) ラカイン州やカチン州においては、新たに多くの国内避難民が発生しており、その他の地域においても依然として国境付近には多数の避難民や無国籍者が存在し、これらの人々の人権状況や生活環境の改善のため、適切な保護や更なる人道的支援が求められています。
(イ) 本件は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と連携し、国内避難民や無国籍者が存在するラカイン州、カチン州、カレン州、カヤー州、モン州、シャン州及びタニンダーリ地域において、各地域の状況に応じ、避難民・無国籍者の特定・登録、日用品等の必要物資の支給、教育・保健サービス等の提供支援、緊急時のシェルターの提供等を行うものです。本件によって、対象となる約43万人の人権状況および生活環境が改善され、緊急時には避難者の身体の安全が確保されることが期待されます。特にラカイン州においては、ラカイン族とベンガル系住民の双方にバランスよく支援を行うことにより、生活環境の改善と将来の平和的共存につながることが期待されます。
(5)少数民族地域における食糧支援計画(WFP連携)(The Project of Food Aid in Ethnic Minority Areas)(供与額20億円)
(ア) 少数民族地域においては、紛争や自然災害の被害、経済開発の遅れによる貧困等により、多くの人々が食糧不足や栄養不良に苦しんでいるとともに、基礎的なインフラの整備も遅れ、劣悪な状況にあります。
(イ) 本件は、世界食糧計画(WFP)と連携し、少数民族地域(ラカイン州、チン州、カチン州、シャン州、カヤー州、カレン州、モン州等)において、緊急食糧支援及びフード・フォー・ワーク(労働の対価として食糧を配布するもの)による基礎インフラ整備を行うことで、対象地域住民の生活向上を図り、コミュニティの開発を促進するものです。本件により、対象地域住民約100万人の栄養状態が改善されるとともに、住民参加による基礎的インフラの整備とそれを通じたコミュニティの強化につながることが期待されます。
(参考)ミャンマーは、面積約68万平方キロメートル(日本の約1.8倍)、人口6242万人(2011年IMF推定)、人口1人当たりGDP(国民総所得)は832米ドル(2011年IMF推定)。