寄稿・インタビュー
1月5日付 デイリー・テレグラフ紙(英)への林駐英大使寄稿
【仮訳】
日中関係が,特に東シナ海を巡って緊張していることは,誰もが知っている。日本は最大の自制を行使してきた。昨年,中国の艦艇が日本の護衛艦に対して火器管制レーダーを照射したとき,それは通常の海軍の実務では戦争行為と見なされ得るものだったが,日本の公船は,事態をさらに危険にさらすリスクを冒すのではなく,回避的な行動をとった。中国の公船は,120年間にわたって平和裏に日本の主権下に置かれてきた尖閣諸島周辺の日本の領海に,繰り返し侵入している。
中国による挑発の更なる証拠は,日本の防空識別圏と重なるように尖閣諸島を包含する,中国政府の一方的な「防空識別区」の宣言に見られる。こうした措置にもかかわらず,日本は対話を呼びかけ続けている。日本は本当に,2日付の本紙で劉暁明駐英中国大使が指摘するような,危険な軍国主義を示していると考えられるだろうか。
若干の事実を説明させていただきたい。過去68年にわたる日本の実績は,その力強い民主主義,人権の尊重(政府を批判しても逮捕されない),平和へのコミットメント(例えば,国連PKOへの多大な貢献),そして途上国を積極的に支援する姿勢を示している。海上自衛隊が公海で近隣国を挑発したことは一度もなく,国連憲章に示された価値規準を遵守してきた。こうした価値規準は日本に非常に深く根付いているので,靖国参拝がそれを打ち消すことはない。
第二次世界大戦中に英国が払った多大なる犠牲の後,とりわけ日英両国は現在,平和の追求という点で緊密な同盟国であり,自由民主主義という基本的価値観を共有している。これは例えば,フィリピンにおける災害救助活動支援のための最近の協力からも明らかである。
過去20年間にわたって軍事費を年率10%以上で増加させてきた国が,隣国を「軍国主義国家」呼ばわりするのは皮肉である。中国の軍事予算は現在世界第2位であり,日本の2倍以上だ。中国の力あるいは脅しによる現状変更の試みは,日本のみならず東シナ海,南シナ海全体の周辺国で懸念を持たれている。
安倍総理は,最近の靖国神社参拝にあたって「恒久平和への誓い」と題する談話を発出した。同談話で安倍総理は,同参拝は,自身の尊崇の念を表し,御英霊に対してご冥福をお祈りし,日本は二度と戦争を起こしてはならないとの誓いを新たにするために行われたと述べている。それ以上でも以下でもない。総理は,決して,戦犯を崇拝するものでも軍国主義を称揚するためでもないと述べている。
安倍総理は,国籍にかかわりなく,戦争で亡くなられた全ての人を慰霊する場所である「鎮霊社」をも訪問した。そのときに安倍総理が明確に述べたように,日本は自由で民主的な国をつくり,過去68年間にわたってひたすらに平和の道を邁進しており,この姿勢を貫くことに一点の曇りもない。
このような靖国参拝を軍国主義の再来とは描写できない。過去においては,日本は多くの国々とりわけアジア諸国の人々に絶大な苦しみをもたらした。日本政府は,この歴史に正面から向かい合うと明確にしてきており,深い後悔の念と心からのお詫びを明らかにしている。安倍政権においてもこの立場は堅持されている。
日英関係の場合でも同様であるが,『The Railway Man』という書籍に描写されているエリック・ロマックスと永瀬隆両氏の会談に見られるように,過去の傷を癒す唯一の方法は和解の追求である。しかし,決定的に重要なことだが,和解は両者が協力しなければ行い得ない。
欧州の場合では,ドイツの指導者の誠実さのみならず,仏,英その他欧州指導者の度量の大きさもまた和解の実現を支援する上で重要であった。中国が根拠のない批判をしつつ,国民に日本不信を植え付けようとするのは有益ではない。中国の靖国に対する立場が一貫していないことに注意するのは重要である。
第二次世界大戦後,日本の総理による靖国神社参拝は60回以上に及んでおり,そのうちの半数が,1978年に14人のA級戦犯も祀られたことが公になった1979年以降のものである。中国は1985年から本件を取り上げるようになり,靖国神社参拝の合計数のうち21回が取り上げられることがなかった。中国はまた,このような参拝後,2008年の日中共同声明において,日本の戦後の平和国家としての歩みについて,その積極的な評価を公式に表明した。日本は5年の間に突然軍国主義に転換したのだろうか。否,それは明らかに異なる。
中国は異なる見解を持っているだろう。それ故に,両国は会って相互理解を探求しなければならない。安倍総理は敬意を持って中国と友好関係を築いていきたいと願っており,中国の首脳に直接自分の考えを説明したいと強く願っていると述べた。
アジアは現在岐路にある。中国には二つの道がある。一つは対話を探求し,法の支配に従う道である。日本は日本側から状況をエスカレートさせるようなことはしないが,他方の道は,軍事競争という悪や緊張状態の高まりを解き放つことにより,地域におけるヴォルデモートの役割を演じる道である。答えは明らかなようである。中国はこれまで両国の首脳による対話の実施を否定してきたが,私は,もはや存在しない70年前の「軍国主義」の霊を呼び出し続けるより,両国の対話が前進することを心から希望する。