外務省を知るためのイベント
平成25年度第1回「外務省セミナー『学生と語る』」
概要報告



全体講演および分科会の内容について、アンケートにご協力をいただいた参加者の感想を引用しつつ、紹介します。
1.全体講演


開会挨拶(大臣官房 国内広報室 山下恭徳室長)
「学生と語る」開催趣旨の説明に続き、外務省が発行するわが国唯一の外交専門論壇誌「外交」について紹介した。
基調講演「国際情勢と日本外交」(13時35分~14時35分)
(講師:総合外交政策局総務課 岡野正敬課長)
講演は、参加学生に質問を投げかけながら話しを進める対話形式で始まった。冒頭に外交で追求すべき目的は何かと問いかけ、学生の意見を聴取した上で、日本の国益を守ると同時に、グローバルな利益(人類益あるいは地球益)を広げることも外交の目的であると述べ、日本が守るべき国益は、領土主権、経済的利益等のほかに、ひとりひとりが豊かで安心して住める社会(人間の安全保障の概念)を広めることも重要な国益であると強調した。
続いて、外交とは本質的に「機が熟するのを待って、最大限の成果を上げる」ことであること、いつの時点での国益を最大化するかにより、短期及び中・長期的政策などいくつかのフォーカスがあると説明した。さらに外交力の裏付けは、軍事力、経済力、ソフトパワーに加え、パーセプション(外国がその国をどう見るか)によってその国の力は左右されることから、日本を強く見せる発信も重要であると指摘した。そして、これらの力を活用して(1)比較優位を誇示すること、(2)交渉で相手を説得すること、(3)日本の主張を発信するのみならず聞いてもらうこと、(4)日本に有利な環境を作ること等が重要だと語った。
次に、日本は狭い領土(世界61位)に対して広大な海洋(世界第6位)に管轄権を有している海洋国家であるが、その広大な海洋を守るという強い発想がある余り、逆に公海の自由が制限されてはならない、自らの主張にはブーメラン効果があることに注意しなければならないと語った。続いて、日本の比較優位について、経済力、ソフトパワー、軍事力の他、日本に対する信頼の高さ(日本製品、日本人観)、法の支配(国際法の遵守)ついて詳説した。また、世界地図をソウル、北京、ウラジオストック、米国西海岸等の地点から俯瞰しながら、外国が日本をどのように見ているかを常に考えることが重要だと強調した。
さらに外交を進める上では相手国を知ることが重要だと述べ、そのためには相手国の政治、経済、文化の他、歴史の流れや地域・国際社会の中での立ち位置等の豊富な知識が必要だとし、知識の増強には読書や旅行のみならず、在住経験、語学習得が大事だと語った。また、日本にとって利害関係のある国、地域、国際機関、枠組みを挙げた上で、米国とロシアの現状について詳説した。
最後に外交官に必要な素養について、語学力、社交性よりも相手がおかれた立場を想像する力と、相手の気持ちに共感する力が重要だと語った。最後に、外交官の仕事は面白いかとの問いに「Absolutely、絶対に面白い」と断言して講演を締めくくった。
<参加者の感想>
- 参加型の講演で非常に面白かった。講演を通して外交官の仕事の面白さを知った。国益を追求するにあたり、様々な事柄の対処にあたってどのように国益につながるのかという視点で考えるところが興味深かった。
- 外交の本質からご自身の経験に基づく実務的な内容まで、幅広いコンテンツで、新鮮かつ刺激的な内容だった。
「省員による体験談」(14時35分~15時20分)
(講師:大臣官房人事課 島田謙治課長補佐)
冒頭、入省後の10年を振り返り、条約、中南米関係からTPPまで色々な業務に携わってきたことを述べ、外務省の業務の幅広さを紹介した。
続いて、この間に担当として携わったグアテマラ大統領訪日と日・メキシコ経済連携協定の改正交渉を通して、具体的な外務省の業務内容について紹介した。グアテマラ大統領の訪日の例では、円滑な日程の進行が日本に好印象を抱いてもらう最低条件となる大切な業務であると指摘し、その上で初めて中身の議論(日本からのメッセージの発信)が活きてきて、二国間の関係強化に繋がると語った。また、日・メキシコ経済連携協定の改正交渉では、日本の立場を主張すると同時に、相手国の立場を考慮した上で交渉をまとめ、結果を出してきたことを通して、産業界、官庁等いろいろな分野の方の要望を聴取した上で一つの結果を導きだしていくところが交渉の仕事の面白さ、魅力だと語った。
このような仕事を通した実感として、外務省の仕事の魅力は、(1)外交の最前線で日本を背負って仕事ができる、(2)いろいろな分野、考え方の人々との出会いがある、(3)自らの視野を広げることができる、の3点であると述べ、体験談を締めくくった。
<参加者の感想>
- 国賓来日のロジとサブの両面からの話は興味深かった。
- 外務省の取り組む仕事の分野の多さ、バラエティに驚いた。
2.分科会(15時40分~17時40分)


全体講演終了後、6つの会場に分かれて分科会が開催され、各分科会では、外務省員によるプレゼンテーション、質疑応答、参加者によるディスカッション等活発な意見交換が行われた。
「平和維持・平和構築」
(講師:総合外交政策局国際平和協力室 植田達也事務官)
本分科会では,まず平和維持・平和構築とは何かについて,更には日本による国際平和協力の実績等について国連PKOを中心に参加者からの質問に答えつつ説明を行った。その上で,どのように日本は国連PKOに貢献すべきか,PKOに参加中の自衛隊が争いに巻き込まれた場合や,外国の部隊に助けを求められた場合にどのように対応すべきか等について議論を行った。 議論では、自衛官が危険にさらされる場所にはそもそも派遣すべきでないという意見や,我が国が敵対視されるおそれがあるため,助けを求められても自衛隊が助けに行って応戦すべきではない,邦人については助けられるように現行法制度を改めるべきといった意見が出された。
<参加者の感想>
- 日本のPKO政策について詳細に理解することができた。集団的自衛権の行使という今ホットなTOPICについてもディスカッションし、有意義だった。
「パブリック・ディプロマシー」
(講師:大臣官房 広報文化外交戦略課 鴨下誠課長補佐)
本分科会においては、日本外交において重要性の高まっている広報文化外交について、基本的な概念や考え方の枠組みを説明しながら、最新の政府、外務省の取り組みについても言及し、その後、実際の業務で取り組んでいることを題材に一緒にシミュレーションを通じて議論を行った。参加者からは、国民への広報の仕方、アメリカ・EUに対する広報戦略の違い等について意見が出され、実務における実際の議論もシェアしながら、一緒に広報文化外交の考えを深めた。
特に、領土保全について、参加者からは、我が国の国内、国外の広報の取り組みについて、様々な観点から鋭い意見が出されるとともに、その上で、どのような角度から議論を行っていったらよいかについて多くの参加者から積極的な意見が出された。
<参加者の感想>
- パブリック・ディプロマシ―についての詳説はもちろんのこと、シミュレーションを通じての議論は有意義だった。講師の熱意あふれる体験談、アドバイスも大変に有益だった。


「北朝鮮問題」
(講師:アジア大洋州局北東アジア課 網谷耕介課長補佐)
本分科会では,まず「北朝鮮に関する基礎情報」について概観した上で、「北朝鮮の最近の動向」「核・ミサイル問題の経緯」「日朝関係」について講師から説明の上、疑問点等について参加者との対話形式で理解を深めた。
質疑応答では、中国と北朝鮮の関係、対北朝鮮政策の代替可能な選択肢、北朝鮮と外交関係を結ぶことの意味、南北統一の見通し、拉致問題解決の意味・方法、六者会合という枠組みの位置づけ等、北朝鮮問題を考える上で非常に重要な様々な論点について切り口の鋭い質問や意見が多数寄せられ、議論を深めることができた。
<参加者の感想>
- 北朝鮮の基本データから対外関係、核問題など幅広く取り上げていただき、有意義な議論だった。
「日米関係」
(講師:北米局日米安全保障条約課 村上学課長補佐)
本分科会では,講師から自己紹介及び外務省の魅力について説明した上で、「もし自らが日米『2+2』会合の担当者として、成果文書を作成することとなったら、どう考えるか」という問題について、参加者との対話形式で議論を行った。その上で、講師から、日米関係の重要性や『2+2』会合の意義等について説明しつつ、実際の実務の説明も織り交ぜつつ説明した。
その後、若手の職員も交えた質疑応答では、参加者から、日米関係の重要性、対中関係に関して留意すべき点について意見が寄せられたほか、講師が学生時代に考えていたことや外務省への志望動機、外務省が求める人材像等に関する質問があった。
<参加者の感想>
- 「2+2」会合のマテリアルを使用しながら考える作業は楽しかった。資料の読み解き方などまさに目から鱗だった。


「日本のODA政策」
(講師:国際協力局政策課 濱田摩耶課長補佐)
本分科会では、ODAの概要につき説明した上で、皆で議論を行った。まず、「今、なぜODAか」というテーマで、日本国内の経済財政状況が厳しい中、今後ODAを積極的に行っていくべきか、またODA政策を国民にどう説明すべきか、という点につき議論を行った。 後半は、「今後、どのようなODAを行っていくべきか」というテーマで、これまでの日本のODAの特色に触れた上で、今後どのような分野・地域を重視していくべきかという点につき議論を行った。
参加者からは、自らの経験や日頃感じていること等を元にした鋭い意見が多数出され,特に、ODAの量より質を重視すべき、アフリカ等の新たな地域で活発な支援を行うべき、日本経済活性化のためにもODA政策を推進すべき、というような声が多く聴かれた。
<参加者の感想>
- 最前線で活躍されている方の貴重な話は勉強になった。日本のODAの援助額は減少しているが、これまでの積み重ねてきた歴史が日本の国際社会でのプレゼンスを高めていることを分科会に参加して感じた。
「領土問題-北方領土問題を題材として」
(講師:国際法局国際法課 有光大地課長補佐)
本分科会では,まず「領土問題とはなにか」「領土問題を解決する手段としては何があるか」という問題について整理を行いつつ,北方領土問題の経緯やロシアの現状につき言及しつつ,北方領土に関する交渉について説明し,最近の動きを紹介した。
質疑応答では、参加者から、北方領土問題の法的な論点やICJへの付託の可能性など解決方法に関する様々な論点について鋭い質問が寄せられた他、北方領土問題解決後に関するさまざまな意見が述べらるなど、活発な意見交換が行われた。
<参加者の感想>
- 大学でロシア語を専攻していることもあり、北方領土問題には関心があったので、講師の話は大変に貴重、有意義だった。
3.懇親会(18時10分~19時40分)


分科会終了後に行われた懇親会には、参加者に加え、水嶋光一外務副報道官をはじめ全体会・分科会講師、入省1年目の省員など50名を超える外務省員が参加し、参加学生と外務省員が熱心に語り合う姿が会場の随所に見られた。
今回の「外務省セミナー『学生と語る』」には定員を超える応募があり,会場の都合により残念ながらご参加頂けなかった方々には深くお詫び申し上げます。
ご参加頂いた方々のアンケートでは、参加して良かったという感想をはじめ分科会テーマ、議論の進め方などについて様々なご意見、ご提案をいただきました。アンケートに寄せられたご意見、ご提案を参考に本事業をさらに充実・発展させて参ります。
今回、本事業の広報活動にご協力いただきました各大学、大学院、予備校等の教育機関の教職員の皆様に厚く御礼申し上げます。