寄稿・インタビュー

5月31日付ウォールストリート・ジャーナル紙掲載

平成25年6月10日

「日本はアフリカの開発に尽力する」

 昨年末に総理に復帰して以来,日本経済再生は,私の優先事項である。日本経済には前向きな進展が見られ,このウォールストリート・ジャーナル紙も指摘するとおり,日本の企業と国民はその成果を実感し始めている。

 しかし,「アベノミクス」は,単に国内での取組に止まるものではないし,また,短期的な利益のためのものでもない。日本経済の強みは,国際協力と貿易という基礎の上に成り立っており,日本の外交政策は,国際社会の平和と繁栄は自国の平和と繁栄に資するという理念に基づいている。この考え方は,世界的な開発課題に対する日本のアプローチにも反映されている。

 先週,私はミャンマーを訪問した際,ミャンマーにおける民主化のプロセスが進展していることを目の当たりにした。国民が経済政策による利益を直接実感できるようにすることが,先進国,途上国,共通の課題であることを痛感した。この点は,貧困を撲滅し開発を推進していく取組において中心的な課題であり,また,6月1~3日に開催される第5回アフリカ開発会議(TICAD V)において,私としてもアフリカの指導者達やその他の関係者と共に取り組む課題である。

 今年で20年目を迎えるTICADは,日本政府,アフリカ連合委員会(AUC),国連,UNDP,世銀の共催で開催される。開発パートナー,ドナー諸国,民間企業,NGOが一堂に会し,アフリカにおける開発について対話を行う。TICADのアプローチは,援助する側とされる側を分かつ「トップ・ダウン」のものではなく,アフリカの「オーナーシップ」と国際社会との「パートナーシップ」を重視している。

 日本は,貧困削減及び開発について比類無い考え方を有している。それは特に,自らの近代化の歩みで学んだものである。日本は,多くの天然資源を持たないため,最も重要な資源に焦点を当てた。それは,人であった。成長とは,天然資源のみによってもたらされるものではない。成長とは,技術,教育・訓練,イノベーション,社会的つながりを通じ,人によって促進され,持続されうるものである。

 日本は,二国間及び多国間の開発援助において,確たる実績を有している。日本のアプローチは時とともに進展してきているが,日本の哲学の中心にあるものは,人材育成に焦点を当てるということである。

 人材育成とは何を意味するのか。私は今年初め幸いにも,コロンビア大学のスティグリッツ教授とこのことについて議論する機会に恵まれた。そこで意見の一致を見たことは,決定的に重要な基盤は「万人が恩恵を受ける成長」であり,経済成長の恩恵は,選ばれた少数の人々だけではなく,その国の全ての人々が実感できるものでなければならないということだった。

 人材育成とは,民主主義を育み,人間の尊厳や個人のレベルでの開発の重要を認識することでもある。日本のモデルが追求するのは,各人が能力を身につけたと感じられるようにすることであり,また,各人が自身の社会への貢献を誇りに思えるようになることである。その際,若者と女性に特に焦点が当てられる。必要な教育が与えられれば,若者と女性は,国の発展の推進力となり,また,政治・社会システムを変革する力までをも持つことができるようになる。

 人材育成と並んで,貿易による利益が行き渡るように,市場と市場をつなぐ上で決定的な役割を果たすのが,インフラである。インフラと人材育成を組み合わせることによって,民間部門がさらに大規模な投資を行うことへの素地が作られる。

 このアプローチの好例が,アフリカとTICADプロセスに対する日本のコミットメントである。今年のTICADでは,強固で持続可能な経済,そして平和と安定に裏打ちされた,包摂的で強靱な社会の構築に焦点が当てられる。

 アフリカの各国とそれぞれのコミュニティが,国内で,地域内で,そしてアフリカ大陸全体の規模で効率的な市場につながることを確保することが,生活水準の改善,貧困の削減,及び雇用の創出において欠かせない前提条件であり,そのための官民連携及び民間部門からの支援についても,今回のTICAD Vでは集中して議論される。

 TICAD事業の成果は,アフリカ一円で確認されている。例えば,ケニアにおける「小規模園芸農民組織強化計画プロジェクト(SHEP)」では,効率的な市場の利益について説明することに力点が置かれ,農民が,売ることができると分かっているものを作り,生産的に,かつ利益が上がるようになることを目指している。このプロジェクトは,生産面と共に農民の市場アクセス向上及び,マーケティングの側面を含むものである。この事業は,ケニアの全土で実施されている。

 近年アフリカは,年率平均5%以上という,目覚ましい成長を遂げている。しかし,経済の統合を深めることが,さらなる成長への重要な前提となる。「ワンストップ・ボーダーポスト」等のTICAD事業によって,アフリカ諸国間での税関手続が迅速化され,移動の不自由が地域の開発を阻害する事態を防いでいる。JICAは,まずザンビア・ジンバブエ間の国境において成功を収めた後,大陸中の13以上の異なる国境において,同様の制度を導入するための支援を実施している。

 日本は,約束を守る国である。日本は,2008年のTICAD IVにおいて表明した,アフリカへの直接投資を倍増するとの約束を,既に達成した。2011年末に,投資は既に3倍になった。TICAD Vの目標は,野心的であるが,同時に達成可能である。今日日本が直面する経済面での課題同様に,一時しのぎの解決策では不十分である。求められることは,包摂的で持続可能な経済発展を確かなものにすることへの真のコミットメントである。そのためには,まず技能が磨かれ,女性と若者が能力を身につけ,コミュニティが繁栄する環境を作り出す,人材育成から始めなくてはならない。

 本年初め,日本は,アフリカの平和と安定,そして開発のために,5.5億ドルの追加支援を約束した。また日本は,アフリカ東海岸沖での海賊対策の実施や,マリをはじめサヘル地域での人道支援の実施等,アフリカ大陸の全土にわたる現場での支援にもコミットしている。日本は,世界に貢献することの必要性,海外のパートナーと協力することの重要性を認識している。私は,よりダイナミックで強靱な日本経済が,アフリカ,そしてそれ以外の地域にとっても,多大な利益をもたらすことを心から望んでいる。

 

Reprinted from The Wall Street Journal c 2013 Dow Jones & Company. All rights reserved.
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