記者会見
岩屋外務大臣会見記録
(令和7年5月13日(火曜日)16時41分 於:本省会見室)
冒頭発言
オコンジョWTO事務局長の訪日
【岩屋外務大臣】冒頭、私(岩屋大臣)から二つございます。
まず、オコンジョWTO事務局長の訪日でございます。
5月12日から14日まで、世界貿易機関(WTO)のオコンジョ事務局長が、外務省賓客として訪日しています。私(岩屋大臣)も、本日、これから会談をする予定です。
今回の訪日を通じまして、WTOを中核とする多角的自由貿易体制の重要性を、改めて確認したいと思います。
在外公館料理人制度
【岩屋外務大臣】それから、在外公館料理人制度の改善・改革についてでございます。
会食を通じた人脈構築や情報収集は、外交活動の基盤であります。大使公邸などで、料理を通じて各国要人をもてなす料理人の役割は、その意味で、大変大きなものがございます。
一方で、近年のインバウンドの増加、海外での日本食ブームなどによりまして、優秀な料理人の確保が、ますます困難になっていることも事実です。このため、来年1月から、「在外公館料理人制度」を新たに開始いたします。
具体的には、料理人を「食の外交官」と位置づけまして、日本食のプロモーションや風評被害対策を、今まで以上に積極的に行っていただきます。同時に、報酬を増額して、賃貸住宅に住むための経費や、配偶者を同伴するための経費を新たに支出することといたします。また、原則2年の任期制を導入いたしまして、キャリアパスを描きやすくいたします。
これらによって、優秀な料理人を確保して、日本の外交基盤を一層強化していきたいと考えております。
冒頭、私(岩屋大臣)からは以上です。
オコンジョWTO事務局長との会談
【日経新聞 馬場記者】WTO事務局長との会談についてお伺いします。先ほど、大臣からも御説明ありましたが、本日、オコンジョ事務局長と会談されますけれども、WTOをめぐっては、機能が停止している上級委員会の代わりに、有志国で設置したMPIAなど、貿易紛争の解決メカニズムを機能させる取組が続けられています。こうした代替措置への評価と、日本として果たすべき役割をどう認識されているかお伺いします。
【岩屋外務大臣】今お話のあったMPIAですが、長いのですけれども、日本語で言えば「多数国間暫定上訴仲裁アレンジメント」というものでございます。本来、上級委員会によって紛争解決は、されなければならないのですが、それがここのところ滞っているということで、WTO協定が定める仲裁制度をもって上級委員会の機能を代替させるべく、EUを始めとする有志国が2020年に立ち上げた暫定的な枠組みが、MPIAでございます。
我が国は、MPIAが、WTO紛争解決制度の予見可能性を高め、ルールに基づく多角的貿易体制を維持・強化するとの観点から、2023年3月から、このMPIAに参加しています。
我が国は、これまでも、上級委員会が抱える問題の恒久的な解決に資する改革を達成すべく、国際的な議論に積極的に参加してまいりました。こうした立場に変わりはありませんが、引き続き、各国と連携しながら、WTO改革に向けた取組を主導していきたいと思っております。
そういう意味では、なかなか上級委員会が動かない中にあって、しかし、紛争は解決していかなければいけない、仲裁をしていかなければいけないということで、この枠組みに加わっておりますが、本丸のWTO改革に向けた取組も、しっかり進めていきたいと考えております。
米国による関税措置(米中間の発表)
【読売新聞 上村記者】米国の関税措置についてお伺いします。昨日、米中の間で双方が関税を115%下げ、90日間の猶予期間を設けて交渉するということで合意しました。この合意そのものへの受け止めと、日米交渉への影響をどのようにご覧になっているかお伺いします。また、ベッセント財務長官は、記者会見で、「米中ともデカップリングは望んでいない」という趣旨のことを述べて、トランプ大統領は、今週末にも習近平(しゅう・きんぺい)主席と直接対話する意向を示しているなど、米中関係全体の緊張緩和も想起させる動きとなりました。この米中関係の現状を認識と、その中での日本の立ち位置というのを改めてお伺いします。
【岩屋外務大臣】御指摘の米中間の発表については、承知しております。
基本的には歓迎したいと思っております。この米中間の発表を含めて、関連の動向を、引き続き、高い関心を持って注視していきたいと思っておりますし、同時に、その影響を十分に精査して、今後の我が国の交渉に生かしていかなければいけない、適切に対応していきたいと考えております。
また、お尋ねの日米協議に与える影響という点で申し上げますと、各国、置かれた状況が様々でございますから、米国との協議のスケジュール、中身、これがいろいろ、タイミングも含めて変わってくることはある意味当然のことだろうと思っております。
日米の方は、これまで2回、本格的な閣僚間の協議が行われております。そして、双方が率直かつ建設的な姿勢で協議に臨んで、可能な限り早期に合意して首脳間が発表できるように目指す、ということで一致しておりますので、これまでの日米協議の結果も踏まえつつ、また、様々出てきている他国の交渉の状況もしっかり精査し、参考にしつつ、政府一丸となって、最優先かつ全力で取り組んでいきたいと思っております。
なお、米中両国の関係の安定は、日本を含む国際社会にとって、極めて重要だと考えております。我が国としては、引き続き、同盟国である米国との信頼関係の下で、様々な協力を進めていきたいと思っておりますし、中国に対して、その立場にふさわしい責任を果たしていくように働きかけていきたいと考えております。
中国海警局による尖閣諸島周辺・領海侵入及び領空侵犯
【共同通信 阪口記者】今月3日の、中国側のヘリコプターの尖閣諸島周辺の領空侵犯をめぐって伺います。中国側の動きが、領空侵犯や領海侵犯など、行為を激化させているという指摘があります。こうした中国側の動きに対しての受け止めと、今後の対応について改めて伺います。一方で、政府は、近接した時間に尖閣諸島周辺を遊覧飛行した小型機の運航者に対して、「不測の事態を防ぐ観点から、飛行の安全を考慮すべきである」と伝達されました。なぜ自制を求める必要があったのか。政府の尖閣周辺の領空領海は、現に有効に支配しているとの立場に変容があったのか、今後も同様の飛行が計画された際には、同様の対応を求めるのかどうかもお尋ねします。
【岩屋外務大臣】まず、言うまでもないことですが、尖閣諸島は歴史的にも国際法上も疑いのない我が国固有の領土でありまして、我が国は、これを有効に支配しておりますし、そもそも領有権の問題は存在いたしません。
その上で、今回の領海侵入及び領空侵犯は極めて遺憾でありまして、中国政府に対しては、次官級も含めて、極めて厳重に抗議するとともに、再発防止を強く求めたところでございます。
今般の事案につきましては、近接した時刻に、我が国の民間小型機が、尖閣諸島周辺を遊覧飛行していたことを確認しております。一般的に、我が国領空でございますから、そこに我が国の航空機が飛行することは、法令の制約を満たす限り、妨げられるものではありません。今般、その飛行目的が遊覧飛行である点も踏まえまして、不測の事態を防ぐ観点から、当該機の航行の安全を図るという目的で、関係省庁から、その運航者との間で意思疎通を行って、飛行の安全性を考慮すべきであるという考え方をお伝えたと承知しております。
今後についての仮定の質問に対しては、予断を持ってお答えすることは差し控えたいと思いますけれども、いずれにしても、今回の領海侵入及び領空侵犯は極めて遺憾でありまして、政府としては、このような中国の動向を、引き続き、強い関心を持って注視し、国民の生命・財産及び我が国の領土・領海・領空を断固として守るという方針のもとに、緊張感を持って、関係省庁と連携して、情報収集に努めるとともに、尖閣諸島周辺の警戒監視に万全を尽くしてまいりたいと思います。
日・イスラエル外相会談
【朝日新聞 里見記者】イスラエルのサアル外相が、本日来日しまして、滞在中、岩屋外相とも会談をする予定というふうに聞いておりますけれども、パレスチナ自治区のガザ地区では、イスラエル軍の攻撃で多数の民間人の犠牲が増えている状況が続いております。物資の搬入も停止されていることで、人道状況の悪化も伝えられておりますが、こういった人道的な観点に照らして、今回、サアル外相との会談を通じて、どのようなお考えを伝えていきたいのか、日本の役割も含めて、改めてお尋ねできたらと思います。
【岩屋外務大臣】ガザ情勢については、まず、我が国は一貫してハマスによるテロ攻撃を断固として非難してきております。同時に、現地の壊滅的な人道状況、特に軍事作戦の再開によって、民間人を含む多くの死傷者が再び発生していることについて深刻な懸念を有しております。
また、ガザの再占領や軍事作戦の拡大によって、既に深刻なガザの人道状況を一層悪化させるということや、「二国家解決」の実現に逆行するというような動きは許容できないと考えております。
会談の内容を、予断を持って申し上げることは控えたいと思いますが、本日のサアル外相との会談においては、私(岩屋大臣)から、交渉に立ち戻って、人質の解放及び停戦合意の継続に向けて誠実に取り組むように求めるとともに、民間人の保護と人道支援の確保といった、国際人道法を含む国際法の遵守を求めていきたいと考えております。