記者会見
岩屋外務大臣会見記録
(令和6年10月29日(火曜日)14時07分 於:本省会見室)
冒頭発言
(1)G7による「ウクライナのための特別収益前倒し融資」
【岩屋外務大臣】私(岩屋大臣)から、冒頭いくつか御報告がございます。
まず、その前に、今回の総選挙におきましては、国民の皆様から、極めて厳しい審判をいただきました。この結果を、謙虚かつ厳粛に受け止めつつも、我が国が厳しい安全保障環境に直面する中、日本の平和を守り、国民の生命と財産を守り抜いていくために、引き続き、外交をしっかりと進めてまいりたいと思っております。
その上で、3点ご報告を申し上げます。
一点目ですが、10月25日のG7財務大臣会合におきまして、「ウクライナのための特別収益前倒し融資」の詳細に一致をいたしまして、これを歓迎するG7首脳声明が発出されました。我が国は、4,719億円の円借款を供与する予定でございます。
これは、ロシアの国有資産の凍結に起因して発生する「特別な収益」を返済原資といたしまして、G7が融資を行う枠組みでございまして、国民の負担なく、ウクライナ支援を実施できるものであります。早期の拠出に向けて、調整を進めてまいりたいと思います。
(2)シリアへの緊急無償資金協力
【岩屋外務大臣】二点目ですが、シリアでは、2011年(平成23年)3月以降の情勢悪化に伴いまして、大量の難民・避難民が発生しております。さらに、今年9月以降の隣国レバノンにおける情勢悪化に伴いまして、42万人を超えるシリア人・レバノン人がシリアに流入するなど、シリアの人道状況は、急速に悪化しているところでございます。
こうした状況を踏まえまして、我が国として、シリアに対し、国際機関を通じて1,000万米ドルの緊急無償資金協力を行うことといたしました。引き続き、人道状況の改善も含め、現下の中東情勢に対して、関係国とも連携しながら取り組んでまいります。
(3)第1回日・EU外相戦略対話
【岩屋外務大臣】三点目ですが、11月1日に、私(岩屋大臣)は、訪日されるジョセップ・ボレル欧州連合の外務・安全保障政策上級代表との間で、第1回目の日・EU外相戦略対話を開催いたします。
この協議では、安全保障分野における協力を中心に、日・EU関係や現下の国際情勢について、率直な意見交換を行いたいと思っております。また、インド太平洋地域で初となる、日本とEUとの間の安全保障・防衛パートナーシップを公表をいたしまして、日EU戦略的パートナーシップ協定の批准書の交換も行う予定でございます。
こうした取組を通じまして、「戦略的パートナー」であるEUとの協力を更に深めていきたいと思っております。
冒頭、私(岩屋大臣)からは、以上でございます。
衆議院議員選挙の受け止めと外交への影響
【共同通信 西山記者】大臣、衆院選について伺います。冒頭、言及がありましたが、今回の自公過半数割れという選挙結果が、外交に与える影響について、どのように考えていますか、よろしくお願いします。
【岩屋外務大臣】今回の選挙結果が、外交や安全保障に影響が与えることがあってはならない。また、影響を与えることにならないようにしていかなければいけないと考えております。
御承知のように、今、我が国は、戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境の中にございます。したがって、外交と安全保障には、継続性と安定性が必要だというふうに考えております。
引き続いて、日米同盟を基軸にしながら、同志国あるいは友好国との関係構築を更に進めていきまして、外交力と防衛力の両輪で、我が国の平和、そして、地域の安定を実現していかなければいけないと思っております。
外交においては、現実的な国益を踏まえた適切な対応をしていくことが大事だと思っているところでございます。
日中韓三か国協力
【朝日新聞 里見記者】昨日、日中韓の高級事務レベル協議が行われ、未来志向の協力の確認をしました。今年のサミット以降、各分野で閣僚会議が開かれておりますけれども、次回のサミットの主催国として、現状の3か国の協力をどのように捉えていて、どう発展させていきたいか、というのをまず伺いたいのと、また、この枠組み、二国間の関係に非常に影響されやすいという特性もあって、現に、前回の開催まで4年半の空白がありました。今後、この枠組み、どのようにしていきたいのか、どのような形にしていきたいのか、お考えを伺いたいと思います。
【岩屋外務大臣】地域の平和と繁栄に大きな責任を共有する日中韓の3か国による協力の枠組みは、有意義であると思っております。本年5月のサミットにおいて、日中韓プロセスが再開されたというか、再活性化されて以降、複数の閣僚級の会合が開催されるなど、協力関係が進展していることを評価したいと思っております。
日中韓の枠組みでは、未来志向の協力を進めていくことを重視しておりまして、昨日開催された高級事務レベル会合においても、そうした協力を更に進めていく、強化していくことで、3か国が裨益する具体的な協力案件について、議論していこうということで一致を見たと承知しております。
私(岩屋大臣)が、まだ日程は決まっておりませんが、ホストする日中韓の外相会議においても、こういった日中韓の3か国の未来志向の協力を更に進展させていく、そういう議論をしていきたいと思っておりまして、楽しみにしているところでございます。
北朝鮮兵士のロシアへの派遣(国連安保理会合の開催)
【NHK 米津記者】北朝鮮の兵士が、ロシアに派遣されたとする問題をめぐって、国連の安全保障理事会で、現地時間30日に、緊急会合が開かれることになりました。北朝鮮とロシアの協力関係が活発化しているものとみられますが、事案への大臣の受け止めと、政府の今後の対応方針についてお聞かせください。
【岩屋外務大臣】今、御指摘がありました北朝鮮による兵士のロシアへの派遣について、日本政府としては、ロシアによるウクライナの侵略に加担する可能性を含めて、深刻な懸念を持って、これを注視しております。
今般、ウクライナが、安保理議長国であるスイスに対しまして、国連安保理の会合を開催するように要請したことを受けまして、安保理理事国である我が国としては、これを支持することを、スイスに伝えたところでございます。
そもそも、ロシアによるウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがす暴挙でございまして、本件を含めて、最近の露朝、ロシアと北朝鮮の間の軍事協力の進展の動きは、ウクライナ情勢の更なる悪化を招くのみならず、我が国を取り巻く地域の安全保障に与える影響の観点からも、深刻に憂慮すべきものだと思っております。
我が国としては、引き続き、関連情報の収集・分析を行うとともに、関連する安保理決議の完全な履行や、ウクライナにおける一日も早い、公正かつ永続的な平和の実現に向けて、引き続いて、国際社会と緊密に連携していきたいと思っております。
中東情勢(イスラエルへの働きかけ)
【パンオリエントニュース アズハリ記者】
(以下は英語にて発言)
中東情勢は、日本が自制を繰り返し呼びかけているにもかかわらず、悪化の一途をたどっています。問題はイスラエルがパレスチナ、シリア、レバノンの一部領域を占領し続けていることです。日本はイスラエルによる占領を終わらせるべくあらゆる国連決議を支持しており、またこれら3か国、占領地域の人々は、自分たちには占領地域の開放のためにイスラエルと戦う権利があると述べています。
日本は、イスラエルによる占領を終わらせるため、ロシアに制裁を適用したのと同様に、イスラエルへの国際的な制裁を支持するのでしょうか。
【岩屋外務大臣】中東地域全体で、非常に緊張が高まっていることを深刻に懸念しています。我が国としては、事態をエスカレートさせる、いかなる行動も、強く非難をしたいと思います。
中東地域の平和と安定は極めて重要でありまして、我が国は、言うまでもないことですが、イスラエルを含む全ての関係者に対して、最大限の自制を求めてまいりましたし、事態の沈静化を強く求めてまいりました。私(岩屋大臣)も、10月9日に、イスラエルのカッツ外相と電話会談を行いまして、その旨、直接申入れを行ったところでございます。
我が国としては、中東和平プロセスの進展に向けて、これまでも取り組んでまいりましたし、引き続き、地域の関係諸国との連携を基盤にして、あるいは、G7や国連安保理の一員として、事態の沈静化、それから、二国家解決の実現、そして、中長期的な地域の平和と安定の確立に向けて、外交努力を継続してまいりたいと思っております。
ポール・ワトソン・元シー・シェパード代表
【ラジオフランス 西村記者】反捕鯨派アクティビストのポール・ワトソン氏についてお尋ねします。御存じのとおり、反捕鯨アクティビストのポール・ワトソン氏は、3か月以上前から、グリーンランドで拘束されています。日本が、身柄の引き渡しを要求していますが、デンマークの政府は、判断しない限り拘束期間が繰り返して延長されます。この状況で海外で、特に、フランスで日本のイメージが破綻しつつあるんです。マクロン大統領も、ワトソン氏の釈放を求めています。日本の外務大臣として、この状況をどう見ていますか。外交の問題のリスクを踏まえて、日本は、ワトソン氏の身柄の引き渡しをやめることを検討するつもり、ありますでしょうか、お考えを聞かせてください。
【岩屋外務大臣】ポール・ワトソン容疑者につきましては、あくまでも、海上における法執行上の問題として、我々日本政府は考えておりまして、ワトソン容疑者は、傷害、器物損壊等の共犯に問われているわけでございます。言われているように、反捕鯨の立場や思想を理由として、身柄を拘束されたものではないと。私どもは、あくまでも、傷害、器物損壊等の共犯者であるということで、ICPOを通じて、身柄の引き渡しを求めているわけでございますので、本事案は、その法と証拠に基づいて適切に対応すべき問題であって、これに基づいて、関係国、あるいは機関に対する必要な働きかけを行っているところでございます。
したがいまして、最近になってポール・ワトソン容疑者が、フランス・マクロン大統領宛の書簡で、フランスへの亡命を申請しているという報道にも接しておりますけれども、あくまでも、今申し上げたような理由で、デンマークに対しても、あるいはフランスに対しても、同様の働きかけを、引き続き行っていきたいと考えております。
北朝鮮兵士のロシアへの派遣
【インディペンデント・ウェブ・ジャーナル 濱本記者】先ほどもありましたウクライナ情勢に関する質問について、重ねて、また質問します。北朝鮮兵士が、3,000人、訓練を受けるために、ロシア東部に移動したとの報道があります。問題は、これが日本を含む西側諸国が、2014年(平成26年)から8年にわたって、ウクライナが行ってきた、ロシア語話者への差別やジェノサイドについて完全に無視し続け、ウクライナへの過剰な軍事支援、過剰なロシア敵視、そして、過剰な対露制裁を行った結果であるということであり、ロシアと中国、そして、北朝鮮との結びつきが深まってしまったということです。これら3か国と国境を接するのは、G7では日本だけです。いずれも核保有国であるこれらの国と、同時に有事となれば、集団的自衛権の解釈、改憲した日本は、無事では済みません。岸田政権の外交方針とは一線を引き、東アジアでの戦争を回避する外交に転換するおつもりがあるかどうか、お聞かせください。よろしくお願いいたします。
【岩屋外務大臣】日本政府としては、北朝鮮によるロシアへの兵士の派遣については、これは、ロシアによるウクライナ侵略に加担する可能性を含めて、深刻に懸念しているところでございます。
北朝鮮が兵士をロシア東部へ派遣して、軍事訓練に関与していると信じるに足る情報は、確認しておりまして、米国及び韓国を始めとする関係各国とも協力して、関連情報の収集・分析に努めております。
先ほども申し上げましたが、ロシアによるウクライナ侵略というのは、明らかな国際法違反であって、国際秩序の根幹を揺るがす暴挙だと、我々は考えておりまして、最近の北朝鮮との軍事協力の進展の動きは、ウクライナの状況を更に悪化させる恐れがあるということを憂慮しているところでございます。
外交方針を変えるつもりはないかというお尋ねですけれども、私どもとしては、引き続き、関連情報を収集分析して、ウクライナにおける一日も早い、公正かつ永続的な平和の実現のために、国際社会と緊密に連携して取り組んでいきたいと考えております。
日EU戦略的パートナーシップ協定
【ジャパンタイムス タン記者】先ほど、冒頭の発言でおっしゃいました日本・欧州連合の安全保障パートナーシップについてお伺いします。今回の協定に盛り込まれた内容、または日本が、EU、及びNATO各国と、それぞれ既に結んでいる現行のパートナーシップとは、どのようなところで異なるのか、大臣の具体的な、御説明をお願いできればと思います。
【岩屋外務大臣】最初の、ごめんなさい、日本とEUのパートナーシップ協定についてですか。
【ジャパンタイムス タン記者】はい、そうです。
【岩屋外務大臣】パートナーシップ協定の中身についてですか。
本協定は、価値及び原則を共有する日本とEU及びEU加盟国が、地球規模課題を含む幅広い事項に関する協力を推進し、将来にわたる相互の戦略的なパートナーシップを強化していく法的な基盤となるものです。
今般、EU側の手続きが完了したということを受けまして、11月1日に批准書の交換を行って、明年の1月1日に同協定が発効することとなります。
日本とEUが、厳しさを増す安全保障環境に直面する中で、安全保障及び防衛に関する、あらゆる分野におきまして、協力及び対話の更なる発展、深化、強化を目指すものとなります。
具体的には、海洋安全保障、宇宙、サイバーセキュリティ、外国による情報操作と干渉を含む、ハイブリッドの脅威、こういった分野において、協力を進めていくことを想定しているものです。
欧州・大西洋と、インド太平洋の安全保障は不可分であることを、改めて確認をし、EUの次期の体制においても、EUがインド太平洋への関与を強化し、日・EU間の協力を継続していくということを、是非確認をしたいと思っております。
日中韓三か国協力
【朝日新聞 里見記者】先ほど、私(里見記者)の質問で、関連してなんですけれども、先ほどの御回答を踏まえて、安全保障環境が複雑化していて厳しいというふうに御発言をされたと思うんですが、中・韓、隣国として様々な提案がある中で、こういった協力関係を模索することについての意義を改めてお尋ねできますでしょうか。
【岩屋外務大臣】日中韓というと、やはり東アジアの三つの大国です。御指摘のように、日中韓にも、様々な難しい問題がございます。
また、日韓間の間にも、ありますけれども、やはり、東アジアにおける平和と安定というのは、それぞれの国にとってのみならず、地域全体にとっても、更に言うと、世界全体の平和と安定にとっても、極めて重要だと思いますので、そういう様々な懸案事項を乗り越えて、未来志向的な協力関係というものを作っていく必要があると考えておりますので、日中韓の外相レベル、あるいは首脳レベルにおいても、是非、そういう未来志向の協力関係というものを、これからも築けるように努力を重ねてまいりたいと思っています。
UNRWA(イスラエル会議における法案可決)
【時事通信 村上記者】UNRWAの関係でお伺いします。昨日、イスラエル議会が、イスラエル国内で、UNRWAの活動を禁止する法案を賛成多数で可決しました。岩屋大臣、日本を含む7か国と、法案に反対する声明など、直近でも出しておりましたが、今回の法案可決が、パレスチナの人道状況に与える影響とか、今後、イスラエルに対する働きかけなどで考えていることがあれば、お伺いできればと思います。
【岩屋外務大臣】今お話があったように、イスラエルの議会において、UNRWAの活動を制限する法案が可決されたという報道に、私(岩屋大臣)も接しております。
日本政府としては、今般、イスラエル議会で可決されたUNRWAの活動を大幅に制限する法案については、深刻な懸念を表明したいと思います。
UNRWAは、ガザ地区のみならず、中東地域全域における、数百万人ものパレスチナ難民への支援におきまして、人道支援をはじめとして、医療、教育に関しても、必要不可欠な役割を果たしていると認識しています。
こういう活動が、持続的に確保されるということが、極めて重要だと思っておりまして、10月27日には、我が国は、カナダをはじめとする有志国とともに、先ほど申し上げた法案について、深刻な懸念を表明する外相共同声明を発出をしたところでございます。
我が国として、イスラエル政府への働きかけを含めて、ガザ地区への人道状況改善と事態の沈静化に向けた外交努力を、引き続き、粘り強く行っていきたいと考えております。