記者会見

河野外務大臣臨時会見記録

(平成29年12月15日(金曜日)15時02分 於:米国・ニューヨーク)

冒頭発言

【河野外務大臣】本日の記者会見にお越しいただいたことを感謝。日本は今月末に安保理理事国としての任期を終える。この機会に,過去2年間,安保理において我々が何を達成し,また,いかなる分野を重視したのかについて振り返りたい。

 多くの方が想像されるとおり,我々は,いまや全ての国連加盟国にとってのグローバルな脅威である北朝鮮(への対応)に特に注力した。また,中東・アフリカの安定化,平和構築,PKO,テロ対策等,多岐にわたる分野及び地域情勢について,長年の知見と経験を生かし積極的に取り組んだ。

 本日午前,自分(大臣)が議長を務め,北朝鮮問題に関する安保理閣僚級会合を開催した。多くの国の外相,閣外大臣,外務次官等の参加を得て,核武装した北朝鮮は決して受け入れられず,安保理決議に甚だしく違反した核・ミサイル開発を断じて容認しないとの明確なメッセージ,また,全ての国連加盟国による安保理決議の完全な履行が不可欠であるとの一致したメッセージを発することができた。
 また,多くの国が北朝鮮における人権侵害に重大な懸念を表明した他,いくつかの国からは化学兵器の開発・拡散やサイバー攻撃といった,北朝鮮によるその他脅威について発言がなされた。
 安保理のみならず国際社会として,北朝鮮に対する圧力を高め,北朝鮮の政策を変えさせることの重要性が確認された。
 結論として,本日の閣僚級会合は,北朝鮮に対する圧力を強化する上で極めて有益であった。

 日本が安保理理事国であった2年間を振り返ると,北朝鮮は関連安保理決議に違反し,3回の核実験と40発もの弾道ミサイル発射を強行した。このような挑発行動を受けて,更に5つの安保理決議,多くのプレス・ステートメント,議長声明が採択された。2年間で5つの制裁決議が採択されたことは,北朝鮮が近年,いかに挑発行動をエスカレートさせているかを示すものである。

 特に決議の採択に至る交渉を含め,安保理の中で北朝鮮の挑発行動に対処する上で,日本は米国と緊密に連携して議論を主導してきた。来年以降も米国をはじめとする関係国と緊密に連携し,我が国の立場をしっかり全ての安保理理事国に説明し,北朝鮮問題が安保理の中で適切に議論・対応されることを確保していく。

 安保理の議題の6割程度を占めているアフリカの問題については,我々は,流動的な現地情勢を客観的かつ正確に見極めることに努めた。また,アフリカを代表する理事国の声にも注意深く耳を傾けた。安保理として,いかにしてその国・地域の紛争再発を予防できるか,また,そこに住む人々を助け,中長期的な発展・安定に資するかを常に考え続け,そのために,安保理を効果的且つタイムリーに活用することに努めた。

 この文脈において,昨年7月に「アフリカにおける平和構築」に関する公開討論を開催した。同会合で採択された安保理議長声明は,アフリカのオーナーシップに立脚した,(1)制度構築のみならず,(2)人材育成,(3)信頼構築や(4)技術革新の活用等の重要性を強調している。同議長声明が,安保理を含む国連の関連の活動にとって今後の良い指針となることを期待する。

 中東については,シリアやイエメン,中東和平,アフガニスタンなどの難しいアジェンダに前進を得るべく,日本としても積極的に安保理の議論に参加してきたが,残念ながら,引き続き楽観できない状況が継続していると言わざるを得ない。

 中東和平については,先週,安保理緊急会合が開催された。中東和平を巡る情勢については大きな関心を持って注視しているが,我が国としては二国家解決を支持しており,また,ジェリコ農産加工団地(JAIP:ジャイプ)の取組をはじめ,当事者間の信頼醸成やパレスチナの経済発展のための取組を通じて,中東和平の実現に貢献していく。

 シリアについては,人道状況を改善し,人々が希望を持てるようにすることが重要だと考える。この観点から,我が国はスウェーデン,エジプトとともにシリアの人道に関する共同ペンホルダーを務めた。

 化学兵器使用問題について,安保理で一致した対応が取れなかったことは残念だが,日本は化学兵器使用もその不処罰も許さないという立場から議論に積極的に関与した。

 イエメンでは,戦闘が継続し,人々が劣悪な人道状況に置かれている。自分(大臣)も9月の国連総会の際,イエメン人道状況関連会合に出席したが,我が国は,同会合や安保理等の機会を通じ,関係国に対し,人道状況に対する懸念と対話を通じた政治的解決の必要性を強調してきた。

 アフガニスタンについては,本年リード国を務めた。テロ発生時に発出する安保理のプレス・ステートメントが,昨年より多く発出されたことは,情勢の悪化を意味するものである。その中で,安保理において,アフガニスタン情勢に十分な国際的な注目が払われるよう,議論に積極的に関与してきた。

 全ての地域情勢をフォローしていく中で,現代の国際社会が直面する脅威の種類自体も多様化していることに気づく。安保理は,近年,伝統的な国家間の紛争や内戦に加え,気候変動,飢饉,感染症等の幅広い問題について会合を開催してきた。これは,これらの課題に対して,開発や人道の視点からだけではなく,国際の平和及び安全の観点からも対処する必要があることの証左である。20日にも,日本が議長として,こうしたテーマで公開討論を開催する。今後もこのような複合的な現代的脅威に安保理がより効果的に対応できるよう,議論に貢献していく。

 安保理の作業方法に関する成果についても言及したい。安保理の作業方法には,必ずしも明文規定のないプラクティスの集積が多い。日本は従来から,安保理が最も実効的に活動できるよう,また,新たに安保理入りする非常任理事国が任期の最初から安保理で力を発揮できるよう,安保理の作業方法の体系化や改善に取り組んできた。本年も,日本が主導して,安保理作業方法に関する包括的・体系的な議長ノート507(「グリーンブック」と呼ばれる安保理の作業方法に関する新たなハンドブックに含まれている)を改訂した。このハンドブックは,理事国間の経験のギャップを埋め,全ての理事国が等しく主体的に安保理で活動を行う重要な基盤になるとともに,(安保理外に対する)安保理の活動や作業方法の透明化にも資する。安保理理事国のみならず多くの国連加盟国から日本の貢献に対する高い評価を受けていると聞いており,嬉しく思っている。

 その一方,安保理において幅広くまた頻繁に議論されているアフリカが,安保理において十分代表されていないという事実からも分かるとおり,安保理が21世紀の国際社会の現実を反映していないことを強調したい。安保理理事国を務めた2年間で,この問題がしっかり対応すべき重要な課題であることを改めて痛感した。安保理は,改革され,正統性,実効性及び代表性を向上させる必要がある。日本の常任理事国入りという観点だけではなく,国際の平和及び安全について有効に対処するために,安保理改革は急務である。その観点から,政府間交渉においてテキストベース交渉を今会期中に開始することが重要である。

 御存知のとおり,現在,グテーレス事務総長の下で国連事務局の改革が進行中である。平和・安全,開発,マネジメント,いずれの分野の改革も重要である。ただし,安保理改革なくして国連改革は完結しない。この点はグテーレス事務総長自身が明確に述べていることを想起したい。

 日本としても,他の加盟国と緊密に連携して安保理改革の早期実現に取り組んでいくが,改革が実現するまでの間も,可能な限り頻繁に理事国として国際社会の平和と安全の維持に貢献し続ける考えである。ついては,日本は,2022年の安保理非常任理事国選挙に立候補することをこの場で発表する。

 ありがとうございました。

質疑応答

【ニューヨーク・ポスト紙】10月のことだったと思うが,トランプ大統領が,米国はイランと北朝鮮の関係を精査していくと述べた。北朝鮮高官のイラン訪問を含む,両国のつながりに関する詳細な報道も多く見られる。日本は,イランと強いつながりを有している。この強固な関係が,北朝鮮の孤立化に向けた日本の努力を阻害しているとの懸念はあるか。

【河野外務大臣】日本とイランは非常に良い関係にある。これは全く今の北朝鮮の問題とは関係がなく,関係させるつもりもない。日本はイランの核合意を支持しており,イランに対して核合意をきちんと遵守するよう度々申し入れをしている。イランがこの核合意に違反する行為をとっているということは今まで確認されていない。今後もイランに対して,地域の不安定化を引き起こすようなことはしないよう申し入れていくつもりである。

【香港フェニックスTV】会見の機会に感謝。今般の安保理閣僚級会合に先立ち,日本政府は,中国企業及び個人を対象に含む新たな対北朝鮮制裁措置を発表した。他方,中国政府は本日の安保理会合において,国連安保理外の一方的な制裁措置は安保理の統一性を傷つけ,北朝鮮の人道状況を悪化させると主張している。このような指摘をどのように考えるか。また,独自制裁が日中関係に及ぼす影響をどのように認識しているか。

【河野外務大臣】我々は世界各国に対して,必要な措置をとるように求めており,多くの国が(北朝鮮の)大使を送り返したり,あるいは北朝鮮の労働者を送り返したりという行動をとってくれていることを歓迎している。中国も,安保理決議にない制裁を北朝鮮に対して行っていると理解しており,我々は引き続き国際社会に対して,北朝鮮に対する人,あるいは物,金の動きを止めるよう要求していくつもりである。

【ONBニュース】安保理は概して,対北朝鮮制裁に反対して実施された核とミサイル実験に対しては,さらなる制裁を以て応えるという点で一致しているように見える。これにより,制裁とそれに対するミサイル実験という流れが継続している。枠組み合意以前の10年間には,北朝鮮は約15回のミサイル実験を実施し,枠組み合意後の10年間には,北朝鮮は一度しかミサイルを発射しなかった。しかし制裁を課した10年間においては,北朝鮮は100回近く以上のミサイル発射実験を実施している。この相関関係は一概には言えないかもしれないが,和解や,制裁に代替する手法,より良い道に関する考えは存在しないのか。それとも,経済制裁が唯一の道と考えているのか。

【河野外務大臣】我々は,戦争という手段が制裁よりも優れているとは決して思わない。そもそも北朝鮮が国際社会に対して挑発活動を繰り返しているのであり,北朝鮮のこの行動が責められるべきである。国際社会は,北朝鮮が政策を変更するまで,きちんと経済制裁を一致して続けていくことで合意をしており,我々は世界各国に対し,この安保理決議の完全な履行を行っていきたい,必要なところには,経済制裁を行うための能力支援も行っていきたいと思っている。経済制裁は確かに効力を発揮するまで時間がかかると思う。しかし,だからと言って,戦争という別の手段を取るという考えは,どの国も持っていないだろう。

【ワールド・トリビューン・ドットコム】北朝鮮の核実験及びミサイル発射は,東アジア諸国及び米国に対し明確な危険性をもたらしている。この現実を踏まえ,地域の利害関係国を対話の席につかせる手段として,6者会合の再開に関する日本の立場はどのようなものか。

【河野外務大臣】北朝鮮の核とミサイルは東アジア,あるいは北米だけでなく,ヨーロッパ,あるいはアジアを含めた国際社会への脅威に今やなっている。北朝鮮が,核・ミサイルを放棄し,拉致問題を解決するというしっかりとした意思表示があれば,六者会合というのは一つの対話の場となり得ると思う。

【インナーシティ通信】この2年間の総括の一部として大臣が言及した,平和構築について伺いたい。日本の南スーダンへの部隊派遣については,議論が分かれる問題に行き着いてしまったと承知している。日本はPKOへの更なる派遣を検討しているか。バンクーバーでの平和構築会議に対する大臣の考えはどのようなものか。特にこれから2022年までに,新たなPKO派遣を行い,国連平和維持活動に全面的に関与していく考えか。

【河野外務大臣】日本は,PKOの原則とPKOに関する法律に適合するような場面があれば,PKOに参加する可能性はもちろんある。今,この時点でどこかのPKOに対する自衛隊派遣は考えていない。

【TBS】今朝の安保理閣僚級会合には,北朝鮮の常駐代表が実際に出席した。それは非常に珍しいことだと思われるが,大臣はこれをどう評価するか。北朝鮮が多国間協議への参加の意思を示した,前向きなサインと見るか。

【河野外務大臣】本日の安保理会合には,北朝鮮のチャ・ソンナム常駐代表が出席したが,彼の発言はこれまでの北朝鮮の立場をただ繰り返しただけにとどまった,というのが自分の理解である。本日の議題が北朝鮮であったことを考えれば,北朝鮮の常駐代表が出席したことは特に驚くことではない。

【Taz.de】重要なことは,国連憲章32条が,紛争当事国の全てを会合に招待することを要請している点である。そのような観点から,本日の安保理閣僚級会合に日本が北朝鮮と韓国の代表を招待したと自分は考えており,これは非常に重要な点である。今次会合は非常に重要なものであり,日本が国連憲章32条の要請を重視し,北朝鮮と韓国を招待したという理解で正しいか確認したい。また,大臣が紹介されたグリーンブックについて,どこで入手できるのか教えて欲しい。このような取り組みは非常に意義がある。このような素晴らしい事例の教示に感謝する。

【河野外務大臣】本日の安保理の手続については,詳しいことは承知していないので,事務局にお尋ねいただきたい。グリーンブックについては,日本の代表部から配るのか売るのか,よく分からないが,お知らせしたいと思う。

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