記者会見
岸田外務大臣会見記録
(平成28年12月20日(火曜日)11時27分 於:本省会見室)
冒頭発言
(1)ドイツ,トラック突入事件
【岸田外務大臣】ドイツの首都ベルリンにおいて,現地時間19日午後8時頃ですが,クリスマス・マーケットにトラックが突入し,少なくとも12名が死亡,多数が負傷する事案が発生をいたしました。現時点までに邦人の被害は確認されてはおりませんが,引き続き邦人の安全確保や事実関係の確認等に全力を挙げているところです。
日本は,ドイツ政府及びドイツ国民の皆様に連帯の意を表明いたします。亡くなられた方々及びご遺族の方々に心から哀悼の意を表すとともに,負傷された方々の一日も早い回復を祈念いたします。
(2)南スーダンに総理特使を派遣
【岸田外務大臣】今般,南スーダンの政治・治安情勢及び人道状況の改善に向けた意見交換を主たる目的として,総理特使として,岡村善文(おかむら・よしふみ)国連代表部次席常駐代表を南スーダン共和国に派遣いたしました。
岡村特使は,19日,キール大統領,タバン・デン第一副大統領等と会談し,南スーダンの政治・治安情勢,人道状況等について,有意義な意見交換を行ったと報告を受けております。
日露首脳会談
【フリーランス 上出氏】先般行われました日露首脳会談について2点についてお伺いをいたします。いろんな評価はあるんですけれども,北方領土返還という点ではかなり旧島民からは失望の声が上がっております。そういう方たちに対して大臣ならどのようなご説明をされるのかというのが第1点,もう1点は,今回はいろんな報道がありましたけれども,プーチン大統領は対ロシア制裁をしている欧米諸国と日本との間にくさびを打ち込むことに成功したというような指摘もございます。そして一方,欧米諸国からは対ロシアとの関係で日本に対してかなり厳しい視線を送っていると,批判的な言動も関係者から聞かれるというような,そういう報道もございます。この2点について大臣のご所見をお伺いしたいと思います。
【岸田外務大臣】まず,今般の日露首脳会談の評価ですが,今回の山口そして東京における首脳会談,山口において両国首脳が1時間35分にわたって二人っきりで議論を行うなど,両国の関係者の間で大変率直な突っ込んだ意見交換ができたと思っています。山口では5時間以上,東京でも2時間以上議論を行いました。合わせて7時間以上にわたって日露両国の関係者が,大変有意義な意見交換を行うことができたと思っています。
そして我が国の基本的な方針ですが,経済を始めとする広い分野にわたって国益に資する形で日露関係全体を底上げする中で,北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する。これが我が国の基本的な立場でありました。まず,8項目の協力プラン,これはビジネスであり,これはあくまで互恵的なものではありますが,両国関係全体を底上げするという意味においては大変意義ある取組であると思っています。
そして北方四島において,この度,共同経済活動を行うということで一致をいたしました。この共同経済活動については,従来,法的な立場をめぐりまして議論が進んでこなかった,こういった経緯があったわけですが,この度,特別な制度を導入することによって,北方四島において共同経済活動を行っていく,こうした方向で両国首脳間で一致をいたしました。また,元島民の方々の墓参等においてもより自由な取組を進めていくと,自由な方向で行えるような対応を行っていく,こういったことで一致をいたしました。こうした北方四島において日本の法的立場を害することなく,日本の企業が活動することができるようになる,そしてより多くの日本人が北方四島に足を踏み入れることになる,このことは四島の問題を解決して,平和条約を締結するにつながる大変重要な一歩であると考えます。この重要な一歩を今回,両国首脳間で確認をできたこと,これは大変意義ある会談であると私(大臣)は思っております。
そしてこうした取組が,欧米諸国と日本との間にくさびを打ち込むことになるんではないか,こういったご指摘がありました。我が国がG7の連帯を重視する姿勢は,まず全く変わっておりません。今回の8項目の協力プランも対露制裁に触れる部分は全くないわけです。そして今回の会談においてもウクライナのみならず,シリア,テロ,あるいは北朝鮮,こうした国際社会が直面する問題についてロシアに建設的な役割を果たすよう強く働きかけを行いました。そして同時に我が国はロシアとの間で戦後71年たってもいまだ平和条約を締結することができていない,更には,我が国は平均年齢が81歳と高齢になっておられる元島民の皆さんの思いをしっかりと胸に,こうした交渉に臨んでいかなければならない,こういった立場にあるわけです。こうした考え方については今までも首脳レベル,あるいは外相レベルなど,様々なレベルにおいて欧米諸国に,関係各国に説明をしてきております。こうした説明は理解されてきているというふうに思っておりますが,引き続き,丁寧に我が国の立場,あるいは考え方,そして具体的にどんな取組を行っているかということについて説明は続けていきたいと考えています。
【NHK 小林記者】今回の首脳会談を受けまして,共同経済活動について各省との協議は今後どのように進めていくか,それで会議体であるとか,チームとかを作られるのかという点をお願いします。
【岸田外務大臣】もちろん,こうした交渉に臨んでいかなければならないわけですし,その内容が各省にまたがることは,当然,想定されると思います。要は政府全体としてオールジャパンで臨まなければならない課題でありますので,それだけの体制を官邸中心に作っていくことを考えていかなければならないと思います。具体的には官邸を中心に,これからその体制を作っていくことになると考えます。
【朝日新聞 小林記者】共同経済活動のことでまた2点質問なんですが,1点目は十数年前に検討されたとき,同じように双方の立場を害さないことを前提に議論した結果,やはり当時,結論が出なかったんですが,今回は何が当時と違うのかという,その辺のお考えをまずお尋ねしたいのと,もう1点,プーチン大統領が領土問題については基本的に存在しないとか,あっても二島の名前ぐらいしか出していないのですが,今回,四島において特別な制度を導入するということで一致したということは,ロシア側に領土問題が四島において存在するということを認めさせたと,そういうふうに日本政府としては認識しているのか,その今の2点をお願いします。
【岸田外務大臣】1点目につきましては,今回,両首脳間で発出しました声明の中にもありますように,国際取決めを含む法的な立場について検討していくということで一致をしています。こうした特別な制度によって両国の法的な立場を害さないということについても声明の中に明らかにされているところです。この点が従来と違うと思っています。
そして,様々な点において,ロシア側から発言が行われています。要は認識が違うのでないかということだと思いますが,少なくとも共同声明の中に,四島をしっかりと明記する形で,今申し上げた共同経済活動を始め,様々な取組を進めていくということが明らかにされています。この方針に従って,これから日露間で未来に向けて新しいアプローチに基づいて,この平和条約締結問題を進めていく。ここのことは確認をされているわけですので,この明らかにされたことを基礎としながら,これからしっかりと議論を続けていきたいと考えています。
南スーダン
【毎日新聞 小田中記者】南スーダンについてお伺いします。アメリカのパワー国連大使がですね,米国などが検討している南スーダンに対する武器禁輸決議案について,日本が消極的な姿勢を示しているということで批判をしました。日本政府の最新の検討状況とその慎重姿勢とされる理由につてお伺いできますでしょうか。
【岸田外務大臣】ご指摘の決議については,今引き続き議論が行われていると承知をしています。我が国の考え方ですが,まず,南スーダンの平和と安定にとって何が適当なのかという観点から検討されなければならないと思っていますし,まずは南スーダン政府が様々な取組を今進めています。南スーダン政府の取組を後押しすることが重要であるという考え方に立って,この議論に参加をしているところです。
そして我が国自体もそういった考え方に基づいて外交努力を続けています。先般,12月7日にも私自身,南スーダン・キール大統領と直接,電話会談をさせていただきました。直接,大統領にその旨申し入れを行った次第ですし,そして先ほども冒頭発言で申し上げたように,岡村国連次席常駐代表を総理特使として派遣をしているところです。引き続き,こうした外交努力は続けていきたいと思いますし,そして安保理においても,安保理の理事国の一国として,強い関心を持ってこの協議に参加をしていきたいと考えています。いずれにせよ引き続き議論は続いています。今申し上げたような考え方に基づいて,議論には貢献していきたいと考えます。
【毎日新聞 小田中記者】追加でお伺いしますけれども,議論としてはですね,南スーダンの情勢から考えてジェネサイドの危険性があるとか,そういうことによって武器の入り口を閉めたほうがいいんじゃないかという議論だと思われるんですけれども,そういった,要するに南スーダンの情勢,政府に対して後押しが重要であるというお話をされたんですけれども,その武器の禁輸というのがその後押しにつながらない可能性もあるという認識で議論をされているんでしょうか。
【岸田外務大臣】我が国は,先ほど言いましたような南スーダンの取組を後押しすることが重要だと考えています。地域保護部隊,RPFの早期展開のための協力,あるいは国民対話の実施など,状況改善のための取組,南スーダンが進めようと今承知をしています。こういった取組を後押しすることが重要であると考えております。安保理理事国の中には,様々な考え方があるということも理解していますが,我が国のこうした考え方の大切さはしっかり訴えていかなければならない,このように考えます。
日露関係
【北海道新聞 水野記者】ロシアのことに戻って恐縮なんですけども,北方墓参のことについて教えてください。先ほども大臣からお話ありましたけども,プレス向けの声明でも,島民の軽減負担のために追加的な一時通過点の設置とか,手続きの簡素化など記されておりましたけども,具体的に外務省さんとしてですね,どのようなスケジュール感で,どういうものを実施したいというお考えがあれば教えてください。
【岸田外務大臣】スケジュール感については,まさにできるだけ早くだと思っています。元島民の方々の高齢化されている状況を考えますと,これは一刻も早く進めなければならない課題だと思います。できるだけ早く作業を進め,一刻も早く具体的に実現をしていきたい,このように考えております。
そして内容につきましては,従来から元島民の皆さん方から,様々な具体的な要望を頂いております。こうした要望をできるだけ酌み取らせていただく形で,内容を詰めていかなければならないと思っています。できるだけ急ぎたい,このように考えます。
日EU・EPA
【共同通信 野崎記者】日本とEUのEPAについてお伺いしたいと思います。先週末にEU側のペトロチオーネ首席交渉官が記者会見しまして,来年の合意を目指すということで,年内の合意を断念したともとれる発言をされておられます。これについて大臣,どのように捉えていらっしゃるかということ,日本側としてどういうふうに考えていらっしゃるかが1点と,閣僚間での会談などの予定があるのかということと,延期になった場合ですね,安倍政権の成長戦略,これへの影響についてどのようなお考えかということを教えてください。
【岸田外務大臣】まず,日EUのEPAにつきましては,年内の大筋合意を目指して精力的に交渉を続けてきました。結果,多くの分野で相当の進展は見られていると思っています。大筋合意に近づきつつあるとは考えていますが,引き続き論点も残されている,これが現状だと認識をしています。EU側はですね,マルムストローム欧州委員の指示によって,交渉の現状,これを一旦持ち帰らせてもらいたいということを言い,そしてEU加盟国等との間で調整した上で今後の対応を決めたいと,発言をされたと承知をしております。現状はそこまでです。ですから,まだ年内どうするのか,来年どうするかについては,EU側も正式には何もこちら側には伝えていないと思いますし,我が国もまだ,今交渉を行って,EU側が一旦持ち帰りたいと言うので持ち帰っているというのが現状であると認識をしています。その上で,EU側がどう検討し,どう対応するかということにかかっておりますが,我が国としましては,引き続き,できるだけ早い大筋合意に向けて最大限,努力を傾注していきたいと考えます。
こういう段階にありますので,それ以上,仮定の話で何か申し上げるのは控えるべきではないかと思います。今申し上げた段階に,先週末なっていると認識をしておりますので,引続きEU側の対応を注視し,そして我が国もしっかりと引続き努力を続けていきたい,このように考えます。
【読売新聞 森藤記者】同じ点について伺いたかったんですけれども,一旦,持ち帰らせてほしいということで,その回答は年内にあるという見通しがあるのかどうか。年内にないということになれば,事実上,年内の大筋合意は断念するということになるのか,お願いします。
【岸田外務大臣】年内になるのかの反応はあると,一応期待をしておりますし,想定をしております。