記者会見

岸田外務大臣会見記録

(平成28年7月15日(金曜日)10時48分 於:本省会見室)

冒頭発言

フランス・ニースでの群衆へのトラック突入事案

【岸田外務大臣】フランス・ニースにおける事件により,多数の死傷者が出たと承知をしております。亡くなられた方々に心から哀悼の意を表させていただくと同時に,負傷された方々に心からお見舞いを申し上げたいと思います。
 現在フランス当局が,テロの可能性も含め事件の背景等,調査中とであると承知をしています。本件がテロであるとすれば、これは決して許されるものではありません。断固として非難をいたします。
 現時点では邦人被害は確認されておりませんが,在マルセイユ総領事館では,現地連絡室を立ち上げ,領事をニースに派遣し,邦人被害の有無も含め情報収集中です。
 在フランス大使館,在マルセイユ総領事館が在留邦人旅レジ登録者に対し,メールにて注意喚起を行いました。また外務省は海外安全ホームページ上で海外安全情報を発出し,注意喚起を行いました。
 外務省では相木欧州局審議官をヘッドとする情報連絡室を立ち上げ,引き続き情報収集に努めるとともに,邦人保護に全力を挙げて取り組んでいきたいと考えます。

フランス・ニースでの群衆へのトラック突入事案

【NHK 栗原記者】フランスでの事件に関連してなんですけれども,テロの可能性も指摘されている中,今後日本政府としてフランス政府側に,あるいは岸田大臣として,エロー外相などに何らかの意思疎通ですとか,メッセージの発出とか,そうしたことについて何かご検討されていること,ございますでしょうか。

【岸田外務大臣】今現状においては,フランス当局自身が,まだ事件について調査中であると承知をしています。よって,こうしたフランス当局と緊密に連絡をとり情報共有をしていく,こういったことは重要であると考えています。その状況を見た上で,必要であれば,様々な対応を考えるということだと思います。現状は,情報収集・分析に全力をあげていきたい,このように考えます。

英国のイラク戦争検証委員会の最終報告書の発表

【フリーランス 上出氏】イラク戦争の再検証の問題で質問させていただきます。ちょうど参議院選のさなか,7月6日,英国でですね,ブレア首相だった当時の2003年のイラク参戦の是非を検証する独立調査委員会,これが膨大な最終報告を出しておりまして,そこではイラク参戦を厳しく批判しております。まず,これについての大臣のご所見をお伺いしたいというのが一点,
 それでこれに関連しまして,日本ではもう何回も出ておりますが,2012年12月に外務省が4ページの報告書を出しています。これについてはきちんとした検証がされていないんじゃないかという声が前から出ておりますが,常に安倍首相が国会などで再検証はしないんだということを言っております。しかし今回の英国の報告書を受けて,改めて日本でも再検証をという声が出ております。これについて,もし必要ない場合はその理由も含めて,日本の再検証についてもお聞かせいただきたいと思います。

【岸田外務大臣】ご指摘のように,参議院選挙の最中,確か6日であったと記憶していますが,英国におきましてイラク戦争の検証委員会が最終報告書を出したということを承知をしております。イラク戦争については英国を始め各国が様々な形で検証を行っています。ただ,それぞれの検証は目的ですとか,あるいは対象ですとか,さらには手法も様々であります。そして武力行使に参加した英国,そして我が国は人道復興支援,あるいは後方支援のみを行ったわけです。こうした英国と我が国を同列に論じることは,これは適切ではないと考えます。
 そしてご指摘のように,2012年,我が国においては外務省が当時の政策決定過程を検証し,そして教訓を学んで将来に向けて政策立案実施に役立ていく,こうした目的で検証を行いました。これにつきましては総理から申し上げてもおりますように,この検証は十分適切なものであり,更なる検証を行う必要はないと考えています。
 このイラク戦争の核心というものは,クウェートに侵攻することによって国際社会の信頼をイラクが失っている中で,査察を通じて大量破壊兵器の破棄を自ら証明すべき立場にあるイラクが,査察の受入れを求める累次の国連決議に違反し続けた,これが核心であると考えています。こうしたイラク戦争について我が国が行った判断については,今日振り返っても妥当性を失うものではないと,このように考えます。こうした考え方等を通じて検証というものを新たに行う必要はないと考えている次第です。

比中仲裁裁判関連

【香港フェニックステレビ 李記者】先日ですね,南シナ海に関しては仲裁判断がありました。外務大臣談話の中でですね,今回の仲裁判断には法的拘束力があるものだと,従うべきだといった内容がありました。日本側がこの今回の仲裁判断の中で,島の判断も含めて支持をするということでしょうか。島の解釈を含めて,日本側が法的拘束力があるというふうにお考えでしょうか。

【岸田外務大臣】まず今回の比中仲裁判断につきましては,国際法に基づいて平和的な解決を行う,法の支配を重視する,こういった考え方に基づいて重視をしてきました。そして国連海洋法条約の規定に基づいて仲裁判断,これは最終的であり,紛争当事国を法的に拘束するものであり,そして当事国は今回の仲裁裁判に従う必要がある,このように考えています。
 今申し上げたように,この最終的な判断,これは紛争当事国を法的に拘束するものである,このように考えております。

【香港フェニックステレビ 李記者】つまり日本側が今までも主張されましたように,沖ノ鳥島は島であると,ただこれについては台湾や中国が島ではないというふうに言っています。沖ノ鳥島に関しては人間が居住できるような環境,そして経済活動ができるようなものでしょうか。今回のこういった仲裁判断には当てはまらないということでしょうか。

【岸田外務大臣】まずですね,岩について何か具体的な定義というものはないと考えております。規定,国連海洋法条約第121条3など様々な規定がありますが,こうした規定にも,岩の定義というものはないと考えており,岩であるかどうかの解釈が確定しているとは言えないとは考えています。
 そしていずれにせよ今回の仲裁判断,これは沖ノ鳥島等の法的地位に関する判断ではありません。これは国連海洋法条約に基づいて,今次,仲裁判断に拘束されるのは,当事国であるフィリピン及び中国のみである,このように考えております。そして我が国としては,沖ノ鳥島は国連海洋法条約上の条件を満たす島であると考えております。

【共同通信 斎藤記者】今回,仲裁裁判所の判断が示された後,中国はこの判断に従わない趣旨の立場を表明しています。日本はこれまで法の支配を遵守するようにというメッセージを何度か出してきていると認識しております。今後,中国に対してどう呼びかけ,どのような態度でですね,この仲裁裁判所の判断に対応していくようにするのか,してほしいのか,その点について大臣の所見をお伺いしたいと思います。

【岸田外務大臣】まず,国連海洋法条約に基づいて,今回の仲裁判断は最終的なものであり,紛争当事国を法的に拘束するものであると考えます。そしていずれにしましても我が国としましては,国際法に基づく平和的な解決が行われることが重要であると考えます。当事国がこの判断に従うことによって,今後,南シナ海における紛争の平和的解決につながっていく,このことを強く期待しております。こうした南シナ海における様々なやり取りが平和的に解決されるということは,国際社会全体にとっても大きな関心事であり,国際社会とも連携しながら,法の支配の重要性,国際法に基づく平和的な解決の重要性をしっかり指摘をし,結果につながるよう期待をしたいと考えます。

【朝日新聞 安倍記者】中国の劉次官ですけれども,この判断を受けて,仲裁裁判所の5人の裁判官のうち4人は,当時の国際海洋法裁判所の柳井俊二所長が指名したということで,判決に日本の政治的な意図が関わっているんだということを強調しています。この裁判官選定の事実関係を含めて,この中国の反発をどのように受け止めていらっしゃるのでしょうか。

【岸田外務大臣】まず本件仲裁での仲裁人の任命,これは国連海洋法条約の手続に基づいて行われたものであり,何ら問題はないと考えております。中国の指摘は的外れであると考えています。
 国連海洋法上は仲裁手続開始の通告から一定期間内にいずれかの当事国が自ら行うべき仲裁人の任命を行わない場合,当事国の要請を受けて,国連海洋法条約の所長が必要な任命を行う,このようにされています。本件仲裁では,同条約が求める仲裁人の任命を中国が行わなかったことから,上記の条約上の手続に従い,当時海洋法裁判所所長であった柳井氏が必要な仲裁人の任命を行った,このように承知をしております。これは全く国連海洋法条約の手続にのっとった取扱いであり,何ら問題がないと思います。こうしたことに対して指摘をする,様々な異論を唱える,こうしたことこそ国際社会における法の支配に対する挑戦であると考えます。

【時事通信 石垣記者】仲裁に関係してなんですけど,今回は中国の九段線の法的根拠がないということを仲裁判決が認めたわけですけれども,同じように日本が国際法上,法的な根拠がないとしている竹島の領有について,仲裁裁判の手法を活用するお考えというのはありますでしょうか。

【岸田外務大臣】竹島問題については,従来から申しあげているように,国際法に則り,冷静かつ平和的に紛争を解決するという考え方に基づいて,様々な検討を行ってきております。竹島問題,一朝一夕に解決する問題ではありませんが,韓国側に対して受け入れられないものについては受け入れられない,こういった考え方をしっかり伝え,そして,大局的観点に立って,冷静に,さらには,粘り強く対応していきたいと考えています。
 一般論として,国連海洋法条約に基づいて設置される裁判所は,同条約の解釈又は適用に関する紛争について管轄権を有するものでありますが,同条約は領有権の帰属については規定をしておりません。そのため,これらの裁判所に領有権紛争自体について付託する,こういったことは想定はされていない,このように考えます。
 いずれにしましても,我が国として引続き,この問題につきまして国際法に則って,冷静かつ平和的に紛争解決する考えであります。

【朝日新聞 小林記者】沖ノ鳥島のことでまた質問なんですが,先ほど,大臣は,島や岩について具体的な定義はないと考えているとおっしゃられましたが,今回の判決では,島というか,そこに人が住めるかどうか,独自の経済活動が行えるかどうかという一定の基準を初めて示したと思います。拘束されるのは,あくまで中国とフィリピンだけなんですが,この基準を示した,この中身について,どう評価されていますでしょうか。

【岸田外務大臣】まず,ご指摘の点は,基準を示したものだとは考えていません。121条の3にも人間の居住,または独自の経済活動を維持することができない岩は,排他的経済水域または大陸棚を有しない」このような規定があるだけであります。そして我が国は,沖ノ鳥島については国連海洋法条約上の条件を満たす島であると考えています。我が国は1931年,内務省の告示以来,現在に至るまで,沖ノ鳥島を島として有効に支配をしています。かつ周辺海域に排他的経済水域等を設定してきており,我が国の実効に対して,近年までいかなる国からも異論が示されることはありませんでした。したがって,このような権限および同島の島としての地位,これは既に確立したものである。このように考えています。

【朝日新聞 小林記者】国連海洋法条約にはそのとおり書いてあると思うんですが,今回の判決の中では,人が住めるかどうかとか,経済活動の可否が島かどうかの基準に使われたと思うんですけど,それは基準ではなかったということでしょうか。

【岸田外務大臣】岩であるかについての解釈,こういったものは確立したものがあるとは考えておりません。一方,我が国は沖ノ鳥島は島であるということについて,先ほど申し上げましたような理由に基づいて,確立をしている,このように考えています。

ASEAN首脳会合

【読売新聞 森藤記者】関連して,南シナ海の仲裁裁の判決に関して,今後,国際社会と連携しながら,中国に受け入れを呼びかけていきたいというお話だったんですけども,今月はラオスでASEANの関連外相会合も予定されていますが,その場をどのように活用していくようなお考えなのか。中国からも参加されると思うんですが,中国に直接,呼びかけるようなお考えはありますでしょうか。

【岸田外務大臣】ASEAN関連外相会合におきましては,従来から幅広い課題につきまして率直な意見交換が行われてまいりました。今回の南シナ海の問題についても,こうした幅広い意見交換の中で取りあげ得るものであるとは考えておりますが,会議,これから行われるわけであリますし,今後,様々なやり取りが想定をされます。ただ,海における法の支配の重要性,そして国際法に基づく平和的な解決の重要性,こうしたものはしっかりと主張・指摘をしなければならないと考えます。

【共同通信 斉藤記者】今のASEANの関連です。大臣,そこで日中の対話どのように進めたいとお考えていますでしょうか。バイの予定等々含めてお願いします。

【岸田外務大臣】ASEAN関連外相会合,今のところ何も決まってはおりません。ただ対話のドアは常にオープンであるという我々の姿勢については従来から申し上げております。

メイ英国新首相の就任

【NHK 栗原記者】ちょっと話題変わるんですが,イギリスの新政権,メイ首相筆頭に新政権発足しまして,ジョンソン外相ほか,主要閣僚の顔ぶれが決まりました。今後ですね,イギリスの新政権に期待すること,あるいは日英関係,どのように大臣として進めていきたいかですね,受け止めをお願いたします。

【岸田外務大臣】新政権がスタートしたということで,安倍総理からメイ首相に祝意を表す書簡を発出いたしました。そして,私からジョンソン外相に対しても祝意を表す書簡を発出いたしました。我が国としては,メイ新政権との間において日英関係,更に強化していきたいと考えております。同時に我が国としては,メイ新政権の下で今後の英国のEU離脱に関する動向,これを注視していきたいと考えますし,英国政府としっかりと意見交換をしていきたい,このように考えます。

憲法改正

【朝日新聞 安倍記者】話題,変わるんですけど,今回の参院選でですね,憲法改正を目指す改憲勢力が3分の2になったというふうに言われますが,岸田大臣は去年の10月の宏池会の会合で,当面,憲法9条の改正は考えないという発言がありました。当時は「当面」ということでしたけども,このお考えは今もお変わりはないでしょうか。

【岸田外務大臣】憲法に関しましては,総理も発言しておりますように,今後,国会において議論が深められていくものであると考えています。そしていずれにせよ,憲法の議論は,それぞれの条項ごとに判断されるものであると考えています。まずは国民のしっかりとした理解の下,議論が深まることを期待したいと考えております。昨年,私が申し上げた発言につきましては,考え方は変わっておりません。

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