記者会見
岸田外務大臣会見記録
(平成28年6月2日(木曜日)17時27分 於:本省会見室)
冒頭発言
無償資金協力の制度・運用改善に係る報告書の発表
【岸田外務大臣】日本外交の重要なツールであるODAの無償資金協力を一層効果的に活用することを目的に,今般,木原副大臣に無償資金協力の制度・運用改善に係る報告書をまとめてもらいました。
木原副大臣には,無償資金協力の現状と課題について,自ら,コンサルタント,建設会社,商社を対象にヒアリングを行っていただき,その結果に基づいて無償資金協力の制度・運用の改善策を示してもらいました。
外務省としては,こうした無償資金協力の制度・運用の改善を通じて,より質の高いODAの効果的かつ円滑な実施に努めていく考えです。
慰安婦問題
【産経新聞 田北記者】慰安婦に関する日韓合意に基づいて,韓国政府が財団を作ることになっていますけれども,この財団に対する日本政府からの10億円の拠出というのの時期は,これは財団ができたらすぐに日本側が出すという理解でよろしいんでしょうか。
【岸田外務大臣】ご指摘の財団ですが,5月31日に韓国で財団設立準備委員会の第1回目の会合が開かれたと承知をしています。この設立,動きはですね,慰安婦問題に係る昨年末の日韓合意について韓国政府が,合意内容を履行するための準備の一環であると認識をしております。日韓合意においては12月28日,双方の外務大臣が発言した内容が全てであり,それに尽きています。それぞれの合意を責任持って実施する,これが重要であると考えます。引き続き日本政府としましても韓国政府と連携しながら,合意の実施に向けて取り組んでいきたいと考えています。
【産経新聞 田北記者】時期というのは,今の段階では確定はしていなくて,今後決まっていくというか,韓国とのやり取りで決まるのか…。
【岸田外務大臣】合意の中身は12月28日の発言において尽きています。それぞれを実施することが重要です。それぞれが努力をしていく,今回の財団設立準備委員会もその準備の一環であると認識をしています。具体的な日程は決まっていません。
【産経新聞 田北記者】日韓合意の関連なんですけれど,ソウルの日本大使館前の慰安婦像の撤去に関してなんですが,12月28日の大臣と韓国の外務大臣との記者発表の中でですね,韓国政府としても可能な対応方法に対し,関連団体との協議などを通じて適切に解決されるよう努力するとあるんですけれども,現段階で韓国政府は,この像の撤去に関してどれぐらいの努力をしているのかという認識なんでしょうか。
【岸田外務大臣】韓国政府は日韓合意の内容を履行するために,韓国の国民の皆さんに説明,努力を続けていると承知をしています。こうした韓国側の努力,引き続き見守っていきたいと考えています。
消費税増税見送り
【フリー 上出氏】昨日,安倍総理が,消費税増税の再延期について記者会見いたしました。それに関して質問させていただきます。新聞各紙で,前回の会見の時も同じような質問が出たかと思うのですけれども,この増税についてはですね,サミットの場で世界経済の危機ということを強調されて,昨日は,前回再延期はしないということを断言したということについて,公約違反というふうに思われても仕方がないという趣旨のことを言われて,あとに来て新しい判断ということで,今度国民に信を問うと言っております。これについて野党やメディアからですね,こういう形で国会の多数を背景にして,こういうふうに公約を変えてしまうということは,いかがなものかという厳しい声も聞かれているのですが,この辺,公約違反というようなことについても含めてですね,岸田大臣としてはどのようにこの辺を受け止めておられるかお聞かせください。
【岸田外務大臣】ご指摘のように総理は,「新しい判断」という言葉を使って説明をされています。そしてこうした判断について,参議院選挙を通じて国民の信を問いたい,こういった発言をされたと承知をしています。いずれにせよ,こうした判断等について国民からどのように理解されるかが重要だと思います。こうした判断,説明について,引き続き国民の皆様に丁寧に説明をしていくことが重要だと考えます。こうした対応について理解を得る,こうした努力はこれからも続けていかなければならない,このように考えます。
【フリー 上出氏】これについてですね,岸田大臣ご自身は公約違反ということ,そういうことで仕方がないんだというふうに思われているのでしょうか。
【岸田外務大臣】私(大臣)は今,政府,内閣の一員でありますので,安倍総理が内閣を代表しての立場も含めて,発言をされています。こうした発言,説明をしっかり受けて,我々も内閣の一員として説明,努力を続けていかねばならない,このように思います。
ユネスコ:「世界の記憶」事業(慰安婦関連資料の登録申請)
【共同通信 下江記者】ユネスコの世界遺産の問題なんですが,午前中の官房長官の会見でも出てたんですが,韓国とか中国とかの民間団体が,ユネスコの世界記憶遺産に慰安婦を登録したと,これの受け止めと,このことについては去年,南京事件でですね,日本はちょっと苦杯をなめたということがあるんですけども,制度改善,それを受けた制度改善の取組を今後,どう進めていくか。今どれくらい進んで見通しがあるのかどうか,お聞かせいただけますか。
【岸田外務大臣】まずですね,ご指摘の点についての発表については承知をしております。本件,登録申請は,民間団体によるものとされており,申請内容の詳細について,今,現時点では承知をしていないのでコメントをするのは控えたいと思います。引き続き,確認をしていきたいと考えます。
いずれにせよ,ユネスコのあらゆる事業は,加盟国間の友好と相互理解の促進という,ユネスコ設立の本来の趣旨と目的を推進するべきものであると考えます。また,世界の記憶事業についても,関係国との協力,これを強く求められています。こういった観点から,引き続き注視をしつつ,適切に対応していかなければならない,このように考えます。
そして,制度改善についてですが,制度改善については,この世界の記憶事業,これは制度上,透明性や公平性の問題が多いにあると考えます。制度改善,これは急務であると認識をします。我が国としては係る認識の下,本件事業が,加盟国間の友好と相互理解の促進というユネスコ設立の本来の趣旨と目的を推進するものとなるよう,専門家及び加盟国との間で,制度改善に向けた議論を推進してきました。そして,現在の状況ですが,現在,専門家による見直しプロセスが行われているところであり,日本の考えをしっかり主張しながら,見直し作業が着実に行われるよう,引き続き,慎重かつ,しっかりと,対応していかなければならない。このように認識しております。
消費税増税見送り
【時事通信 石垣記者】先ほどの質問に戻るんですけれども,消費増税の再延期に関して,「新しい判断」,参院選を通じて信を問うという判断について,国民からどのように理解されるかが重要だというふうにおっしゃいましたけれども,現状,なかなか国民に理解されていないと,そういうふうにお考えでしょうか。
【岸田外務大臣】いえ,昨日,総理が説明をしたばかりであります。是非,国民の皆さまの様々な反応等もしっかり見ながら,努力を続けていかなければならないと思います。いずれにせよ,総理も参議院選挙において,国民の信を問うという言い方をされております。参議院選挙に向けて,しっかり説明努力を行い,そして選挙において,良い結果が得られるよう努力をしていかなければならないと思っています。
リ・スヨン党副委員長訪中
【共同通信 大熊記者】昨日,北朝鮮のリ・スヨン外相が,習近平中国国家主席と会談して,友好な中朝関係の強化を確認したんですけれども,安保理制裁決議の実効性のカギを握る中国のこうした動きをどうに評価されているか,考えをお聞かせください。
【岸田外務大臣】まず,基本的には第三者間のやりとりですので,私の立場からコメントをすることは控えたいと思いますが,北朝鮮が非核化に向けた具体的な行動,あるいは真剣な意志,これを示すことが重要であると考えます。そのために,中国を含む関係国と緊密に連携しながら,北朝鮮に対して挑発行動を自制し,そして安保理決議,六者会合共同声明等を誠実かつ完全に実施するよう求めていくことが重要であると考えます。是非,まずは,先日,採択されました国連安保理の強い内容の決議の履行をしっかりと確保することが重要であると考えます。中国を始め,関係国と連携していきたい,このように考えます。
安倍内閣の外交の成果と課題
【朝日新聞 安倍記者】先ほど参院選のお話もありましたけれども,昨日で通常国会も終わりまして,参院選のムードになっていくと思いますけれども,第3次安倍内閣になってからの,岸田大臣のお考えになる日本外交の最大の成果というのを振り返ったときに,何であるというふうに自己分析されていらっしゃるでしょうか。また,外交の課題というのも併せてお聞かせいただけたらと思います。
【岸田外務大臣】第2次安倍内閣がスタートしてから,私自身も外務大臣として自分の職務を全うするために努力をしてきましたが,その間,日本外交の3本柱ということで,日米同盟の強化,そして近隣諸国との関係推進,そして経済外交の推進,この三つの柱を掲げて仕事をしてきました。この3年半振りかえりますときに,それぞれにおいて成果は上がってきていると自負をしています。
日米同盟は,かつてないほど盤石であると考えています。また,近隣諸国との関係においても,昨年,日中韓外相会談,日中韓サミット,これを再開いたしました。初めての日韓首脳会談も開催できました。そして年末には,慰安婦問題に関する日韓合意,歴史的な合意を行うこともできました。そして3本目の経済外交についても,本年2月にTPP協定の署名を行うなど,安倍内閣としましても,積極的にトップセールスも行っております。そしてその上に立って,今年に入ってから,4月にG7広島外相会合,そしてG7伊勢志摩サミット,これも成功裏に終えることができたと思っていますし,オバマ大統領の歴史的な広島訪問,これも実現をすることができました。
こうした成果を挙げることができると思っていますが,今後の課題としましては,今年はこれから後,まずは日中韓のサミット,この日本開催を行わなければなりません。また,初めてのアフリカ開催となりますTICADVI,これが予定されています。こうした,この大きな外交日程をしっかりとこなすことによって,日本外交として世界の議論をリードしていきたいと思いますし,大きな責任を果たしていかなければならない,このように考えます。この辺りが今後の具体的な課題ではないかと認識をいたします。
中国による東シナ海ガス田開発
【日経新聞 地曳記者】中国の東シナ海でのガス田開発なんですけれども,外務省が昨日,ホームページ更新しまして,新たな構造物を掲載しました。開発が進んでいる現状が裏付けられたんですけれども,まず大臣のこのことの受け止めと,外務省が再三抗議しているにも関わらず中国は開発を止めない,こうした現状をどう打開されるおつもりか聞かせてください。
【岸田外務大臣】ご指摘の点については新たに1カ所,上部構造設置を確認いたしました。我が方の累次の申し入れにも関わらず,中国側が東シナ海における日中間の海洋の境界が未だ確定していない,こうした状況において,係る海域において一方的な開発を進めていること,これは極めて遺憾なことであります。直ちに外交ルートを通じ,中国側に抗議をいたしました。
我が国としては,これまでも中国側による関連の動向を把握するために,その都度,中国側に対して一方的な開発行為を中止するよう,強く求めてきており,今後ともしっかり求めてまいります。同時に,東シナ海資源開発に関する日中間の協力に関する2008年6月合意という合意があります。この合意については,昨年11月に行われた日中首脳会談において,双方は同合意に基づく協議再開を目指す,こういったことで一致をしています。この一致を踏まえまして,これまでも外交ルートで様々な働きかけを行っているところです。
例えば昨年12月に行われました日中高級事務レベル海洋協議第4回会議の機会をとらえて,日中の外交当局間で,東シナ海資源開発について意見交換を行い,また本年4月に行われた日中外相会談の際にも,意見交換を行いました。この2008年6月の合意,実施のための協議,これを早期に再開して,同合意を早期に実施するよう引き続き求めていきたい,このように考えます。こういった考えに基づいて,引き続き,具体的な働きかけを続けていきたいと考えます。
沖縄の女性遺体遺棄事件
【NHK 栗原記者】先日のですね,沖縄県で,アメリカ軍関係者が逮捕された事件についてなんですけれども,日米双方で,アメリカ軍の方で,再発防止策の検討と,日本でも犯罪の抑止策の検討について検討されていると思うんですが,アメリカとの外交関係の窓口になっている外務省として,アメリカ側とどのような協議をされていて,再発防止策などまとまる目途などについて,今のところどのような検討状況になっているかお答えいただけますでしょうか。
【岸田外務大臣】今回の事件,身勝手な,卑劣極まる犯罪であり,極めて遺憾だと思っています。25日の日米首脳会談においても,安倍総理からオバマ大統領に対して強く抗議をいたしました。こうした事件が二度と起こらないようにするため,引き続き日米間の協議において,実効的な再発防止策の速やかな策定を追求していかなければならないと思いますが,それにつきまして,今,日米間で引き続きこの協議を行っているところです。是非,この事件の深刻さを考えましても,目に見える形で日米間で,具体的な対応を示せるよう努力を続けていきたいと考えます。
今,引き続き,努力は続けられている状況です。できるだけ早くこうした成果,協議の成果を明らかにしていきたいと考えます。