記者会見

岸田外務大臣会見記録

(平成27年2月10日(火曜日)10時21分 於:本省会見室)

冒頭発言-開発協力大綱の決定

【岸田外務大臣】本日の閣議で,開発協力大綱が決定されました。新大綱の下では,民間との連携を強化しながら,開発途上国の「質の高い成長」を支援することで貧困撲滅を図っていくとともに,法の支配といった普遍的価値の共有についても支援していく考えです。
 新大綱の下,より戦略的な開発協力を推進し,国際社会の平和と安定及び繁栄により一層貢献していく考えです。

開発協力大綱の決定

【テレビ朝日 藤川記者】開発協力大綱の件でお尋ねいたします。今回,軍への支援が一部可能になったということなんですけれども,物資や資金が軍事目的に流用されたり転用されたりするのではないかという懸念に対して,どのように受け止めてらっしゃるかということと,具体的にどのような転用防止策を考えてらっしゃるかということをお尋ねしたいです。

【岸田外務大臣】まず,新大綱におきましても引き続いて軍事的用途および国際紛争助長への使用の回避の原則,この原則は定めております。開発協力により軍事目的の支援を行うこと,これは今後もありません。同原則に抵触するために出来なかったことが,この新大綱によって出来るようになる,こういったことは無いということは確認しておきたいと思います。
 そして,これまでも民政目的あるいは災害救助等,非軍事目的の活動であれば,軍あるいは軍人に対する協力も行ってきました。これは実績として存在いたします。近年,紛争後の復旧とか復興,さらには災害救助等,非軍事目的の活動においても軍が重要な役割を果たすようになっていることをふまえて,新大綱では,これまで十分明確でなかった軍,軍人に対する非軍事目的の協力に関する方針,これを改めて明確化したというのが実態であります。この点は是非,何かご指摘の点において物事が変わったということではないということは,しっかりと説明していきたいと思っています。

シリアにおける邦人人質殺害事件

【フリーランス 上出記者】2点お聞きします。まず,人質関係なんですけれども,残念ながら後藤健二さんの殺害写真が公表された後に報道の中で検証の問題,人質問題の対応について,そこで政府の関係者が,「特定秘密保護法の関係もあるので,どこまで検証で明らかに出来るか分からない」という主旨のことを述べられたという報道があったのですが,昨年12月に特定秘密保護法が執行されて以来,具体的な事案で特定秘密保護法のことが出てくることは私は記憶にないのですが,実際にこれは今回の人質の検証と関係してくるのでしょうか。

【岸田外務大臣】まず,今回の邦人人質殺害事件につきましては,政府としてあらゆるルート,チャンネルを活用し全力で取り組んできたわけですが,結果としてこうした結果に終わってしまったこと,このことに関しては極めて残念であり,痛切な思いを感じております。そして,今後検証ということにつきましても,これは重要な課題であると思っています。そして,まずは政府内でしっかりと検証を行う,こうしたことで取り組みが行われようとしています。官邸におきましても,本日第1回の検証委員会が開催される予定であると承知をしております。
 このように,まずは政府内で検証を行うことが重要であると考えています。そして,その中身を公開する等については今後また議論が行われるということで,今現在は何も決まっていないと認識をしております。
 そして,特定秘密との関係については,こうした事案の中には特定秘密が含まれる可能性は当然あると思いますが,個別・具体的な案件に特定秘密が含まれるかどうか,こういったことについては,事案の内容を予断させるという観点からも何か言及することは控えなければならないのではないかと認識をしております。

シリア渡航を表明する邦人に対する旅券返納命令

【フリーランス 上出記者】もう一つ,今回,フリーランスのジャーナリストの方がシリアに渡る渡航制限をして,旅券を徴収してしまったという事案があります。これは欧米では,このようなことはないようです。これは,言ってみたら人命優先ということが,欧米以上に日本は強いということになるのですが,逆に対応力について弱さを示すことにもなるのではないか。
 これが1点と,朝日新聞が1月末にシリア北部で取材をしております。これは大丈夫だったようです。ですから,この辺の対応の違い,やはりフリーランスというのはなかなかそういう意味で難しいというご判断なのか,その辺を聞かせてください。

【岸田外務大臣】まず,欧米との比較について触れられましたが,これはそれぞれの国において様々な事情ですとか,あるいは社会の受け止め方ですとか事情は様々ですので,これは単純に比較するのは難しいのではないかと認識をしています。
 今回の旅券返納命令についてですが,まず昨今のシリアの情勢,ISILが活動する地域の状況を巡る特殊な事情があり,そして先般ISILにより,お二人の日本人が拘束,そして殺害されたばかりであるということ,そしてなおかつ,ISILは日本人を対象とする殺害を継続する,こういった意向を表明している,こういった特異な事情が存在いたします。
 そして今回,旅券返納命令を発出させて頂いた方,ご本人もシリアに入国すること,これを明確に表明しているわけですし,ご本人の意思にかかわらず,ISILその他の過激組織に拘束されるということになれば,危険がおよぶ可能性が大変高い,こういったことが判断されます。そして一旦出国してしまえば,シリアに渡航しないことを確実に確保することが困難である,このような状況もあります。こうした様々な状況を勘案して,今回の対応を行ったということであります。
 そして,先日の朝日新聞との比較についてご質問を頂きました。今回は直前に2人の邦人の方が殺害されるという本当に痛ましい事件が発生し,なおかつ日本人を殺害するという予告が表明されている。こういった特異な事情の中での対応であります。こういった点は,これまで以前の例とは異なるわけです。
 いずれにしましても,こうした事案につきましては,憲法で認められております渡航の自由ですとか,あるいは表現・報道の自由にも関わる問題ですので,これは慎重に検討しなければならないことですが,やはり個別・具体的な案件ごとに慎重に検討すべき課題ではないかと認識をいたします。

開発協力大綱の決定

【時事通信 松本記者】開発協力大綱の件でお伺いします。
 1問目の質問に関連するのですが,非軍事用途へのところで,今回,今までは実施してきたにもかかわらず,この新しい大綱にあえてその部分を明記する狙いは何だったのでしょうか。また,大臣は非軍事目的に限定されることを強調されていますけれども,その透明性とか,その辺をどう具体的に担保されていくか,ご説明いただけますか。

【岸田外務大臣】今回,新しい大綱においてこの部分を明記した理由ですが,先ほどもちょっと触れましたが,現在様々な事案において,災害救助ですとか,紛争後の復旧・復興において,この非軍事目的において軍が重要な役割を果たす。こういった事例はたくさん存在いたします。近いところでは,フィリピンの台風被害に対する国際的な支援などにおいてもそういった例は見てとることができます。
 こういった事案に対しては,軍が関与するといっても,目的があくまでも災害救援等の非軍事目的ですので,これは日本としてもしっかり貢献していかなければならないということで,これは現実に対応してきた。これが今日までの歩みでした。
 このように,軍が関与するけれども,あくまでも非軍事的な取り組みであるという事例は最近どんどんと増えてきています。ですから,この部分について,やはり大綱において明確に考え方あるいは基準みたいなものを明らかにする。これは大変重要なことではないか。こういった認識に基づいて,新大綱においてこの部分を書き込んだ。こういったことです。
 理由については,このように考えております。

【時事通信 松本記者】透明性の部分は具体的にどう担保されていきますか。

【岸田外務大臣】ですから,これはそもそも,この部分についてより明確化したということは透明性に向けての一つの前進であると思いますし,これを更に運用の部分において国民の皆さんからしっかり理解されるように運用していく。こういったことは大変重要なのではないかと思います。
 いずれにしましても,基本的な原則は今までと全く変わっていない。しかし,今,現実の中でこの非軍事目的の事案において,軍のかかわりというものについてもしっかりと考えていかなければいけない。こういった実情の中で国民から理解され,そしておっしゃるように,透明性を高めるような取り組みは重要ではないかと考えます。

シリア渡航を表明する邦人に対する旅券返納命令

【朝日新聞 村松記者】旅券の返納の関連で2点お伺いします。
 まず1点なのですが,今回の返納命令が旅券法第19条を適用された措置であると伺っています。この第19条を適用するのは,法律が1951年に制定してから初めての措置である。それで今回,返納命令を出すに当たって,一度も適用されなかったという事実をどのように考慮に入れられたのかというのがまず1点。
 あと今回,ご存じであればなのですが,判断するに当たって,内閣法制局の判断なりアドバイスを受けるようなことをしたかどうか。
 この2点をお願いします。

【岸田外務大臣】まず1点目につきましては,こうした事案については,先ほど申し上げましたが,憲法の渡航の自由等との関係において,これは慎重に検討しなければならない課題ですが,あくまでも個別具体的に,事案ごとにしっかり検討すべきものであると認識をしています。
 今回,昨今のシリアにおける状況があり,そして邦人の方がお2人殺害されるという事件が発生した直後であり,なおかつISILが邦人を殺害するということを公言している。こういった特異な事情であるということをまず考えなければなりません。その中で,具体的にこの対象となる方々に,どの地域に入ろうとしているかなど,様々な事情を勘案し,その上で今回の決定に至ったということであります。こうした様々な事情ですとか個別具体的な内容をしっかり検討した上で,今回初めてということでありますが,こうした旅券返納命令を出すという判断に至ったわけです。
 そしてもちろん,これは外務省独自で判断したものではなくして,官邸を中心に,政府全体として慎重に検討した上で,今回においてはこうした対応をするべきであるという判断をしたということであります。

開発協力大綱の決定

【読売新聞 仲川記者】今回の開発協力大綱で,質の高い成長ということを国際社会で支援していくという考え方を述べられていますけれども,これは日本ならではの高い技術力ですとか,資金力を駆使した,他の国にはできないことをやっていこうということであると思うのですけれども,どのような支援を考えていらっしゃるのか,ちょっとだけ具体的にその辺をご紹介していただければと思います。

【岸田外務大臣】質の高い成長というのは,おっしゃるように,日本の高い技術力を活用する。こういった視点も大事だと思いますが,決してハード面だけではなくして,ソフトの面においても,日本の様々なノウハウを提供するなど,貢献することができるのではないか。そういった可能性も大きいのではないかと認識をしています。
 様々な技術・ノウハウ,更には様々な基本的な価値観。こういった点についても,定着するための協力といったことも考えられるのでありましょうし,そして,この質の高い成長というものは単なる支援を受けて成長するというのではなくして,やはり参加意識を持ってもらう。要するに,自ら努力をしてもらう。そもそも,日本と援助される側,ともにWin-Winの関係をつくり上げる。こうした協力のあり方といったものも目指していかなければいけないのではないか。
 様々な部分において,日本ならではの質の高い成長を目指していく可能性がある。こういったことを全部含めて,質の高い成長という言葉にこの思いを込めているのだと私(大臣)は理解しております。

ウクライナ情勢

【NHK 栗原記者】話題がちょっと変わるのですが,ウクライナ情勢をめぐって,明日,ロシア,ウクライナにドイツ,フランスを加えた4カ国首脳会談が行われる見通しです。ロシアをめぐっては,日本も明後日,12日に次官級会合の開催を予定していますけれども,こうしたウクライナ情勢全体が日本のロシア政策に与える影響について,どのようにお考えでしょうか。また,次官級協議では日本の立場としてどのようなことを示すお考えでしょうか。

【岸田外務大臣】まずウクライナ情勢については,11日にベラルーシのミンスクにおいて4カ国間首脳会談の開催を目指すことで一致をしたと承知をしております。我が国としましては,ウクライナ東部において,今,戦闘が一段と激化しています。多くの犠牲者が出ていることについては深く憂慮しておりますし,状況を注視しているところですが,ウクライナ情勢の平和的な解決に向けて,この関係者が努力をしているということ。特にドイツ,フランス両国の外交努力が進められているということ。こういったことは評価していますし,ぜひ進展を期待したいと思います。
 そして我が国としましても,まずは関係各国に平和的な解決に向けて努力をしてもらうべく,しっかりと促していかなければなりませんし,その中において,ロシアにも建設的な役割を担ってもらうべく,我が国としてもロシアに働きかけをしていくことは重要なのではないかと考えます。そういった意味からも,ロシアとの政治的対話は大事にしていかなければならないのではないか。このように考えます。

シリア渡航を表明する邦人に対する旅券返納命令

【新潟日報 五十嵐記者】先ほどの旅券返納命令の関係なのですけれども,杉本さんは旅券を返納したわけですが,それは例えば国際情勢が変われば,いずれ例えば返却されるとか,本人が再取得を申請すれば再取得できるようになるとか,そのあたりはどうなっているのでしょうか。

【岸田外務大臣】まずこうした事案につきましては,あくまでも個別具体的に,案件ごとに慎重に検討されるべきものであると認識をしています。そして今後,新しく申請された場合というご質問もいただきましたが,仮定の話を申し上げるのは控えなければならないとは思いますが,新たに旅券の発給を申請すること自体はできないわけではないともちろん思っております。そして,仮に申請がなされたとしたならば,その具体的な状況ですとか具体的な申請に基づいて慎重に検討し,判断していく。こうした必要があるのではないかとは考えます。

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