記者会見

岸田外務大臣会見記録

(平成26年8月29日(金曜日)11時00分 於:省内会見室)

冒頭発言-大臣のフォーリン・アフェアーズ誌への寄稿

【岸田外務大臣】来年は,広島・長崎への原爆投下70周年であり,またNPT運用検討会議が行われます。この重要な2015年に向け,「核兵器のない世界」に向けた国際的な機運を盛り上げるため,広島・長崎に思いをはせる今月,最も権威ある外交専門誌の一つであるフォーリン・アフェアーズ誌に寄稿をいたしました。この寄稿は昨28日,同誌のオンライン版で掲載されました。
 この寄稿の中では,本年1月に長崎で実施した核軍縮・不拡散政策スピーチや4月に主催したNPDI広島外相会合で議論した結果などを踏まえ,来年開催される5年に1度のNPT運用検討会議に向け,多国間主義アプローチに基づく4つの具体的な措置を提言いたしました。
 引き続き,「核兵器のない世界」の実現に向けて国際社会をリードし,NPT運用検討会議の成功に向け,努力を続けてと考えております。

ウクライナ情勢

【共同通信 斎藤記者】ウクライナのポロシェンコ大統領が先日,ウクライナ東部にロシア軍部隊が投入されたと,このように発表しました。この点について日本政府としてどう受け止め,どう対応するのか,追加制裁を検討するかを含めて大臣のご認識をお願いします。

【岸田外務大臣】ロシア軍がウクライナに侵入しているとの多数の情報に接しており,事態を深刻に憂慮しております。このような行為,これはウクライナの主権に対する重大な侵害であり,全く受け入れることができない,このように考えます。
 ロシアが軍事的介入を直ちに停止をし,分離派武装勢力に影響力を行使し,停戦を実現し,そして,ウクライナ情勢の平和的解決に向け,積極的に行動することを改めて強く求めていかなければならないと考えます。
 そして,ご質問の中に追加制裁も含めて,どう考えるかというご質問がございましたが,今後の我が国対応ということにつきましては,我々は今までもG7の連携を重視しつつロシアに建設的な行動を求めていく,こういった対応で臨んできましたが,今後ともG7の連携を重視しつつ適切に対応して行きたいと考えています。

【共同通信 斎藤記者】今後,今回の問題も含めて,日本政府としてロシア側とのパイプ,即ち安倍総理はプーチン大統領と,これまで累次にわたる会談をして個人的信頼関係を強めてきたと,一方,岸田大臣もラヴロフ外相とは会談した経緯がございます。こうした,いわゆる外交資源を使いながら日本政府としてイニシアティブ,主導権を発揮する形で何か知恵を出していく,事態打開に向けて取り組む,と,そういうお考えはございますでしょうか。

【岸田外務大臣】我が国は,これまでもG7の連携を重視しつつ,一方ロシアとの政治的な対話,これも重要であるという考えの下に対応をしてきました。基本的な考え方は変わりませんが,事態は刻々と推移しています変化もしております。
 事態をしっかり注視しつつ,また,G7各国,あるいは関係各国の対応等もしっかりと勘案した上で,我が国としては適切に対応していかなければならないと考えています。

歴史認識問題

【フリーランス 上出氏】最近話題になっている慰安婦問題の吉田証言に関連して質問させてください。ご承知の通り,吉田証言が虚偽だったということを朝日新聞が8月5日に報道して以来,一部の大手メディア,週刊誌から大変激しい朝日批判が繰り返されています。この中には,日本の過去の侵略そのものがなかったかのような,あるいは慰安婦問題がなかったかのような,かなり乱暴な論調もみられるのですが,それで質問です。
 そういう範囲でしたら,それはメディアの言論の自由の中でいいのですけれども,これが自民党の国会議員を含めて,国会で問題にしようという動きがあります。新聞はご存じの通り,放送法というような法律があって何か,活動が縛られているというメディアではございません。これが国会で問題になるということは言論の自由とか表現の自由に対して重大な問題ではないかと私は思っております。それについてどう思われるかというのがまず一点。
 こういった問題が起きている底流には,各国の日本の侵略について,残念ながら岸田大臣も含めて安倍首相も「侵略」という言葉を使わないで説明をされてきているという,それを打ち消すかもしれないような,そういうようなニュアンス,こういう体質も底流で今の朝日批判につながっているのではないかと思いますが,改めまして,吉田証言,それから河野談話とは関係ないとは言われていますが,こういった政府のお立場,過去の日本の侵略があったか,なかったかということについて,改めてお伺いしたいと思います。いくつか重なりましたがよろしくお願いします。

【岸田外務大臣】ご指摘のようなことにつきまして,さまざまな議論が行われていること,これは承知をしております。そして,その議論の中で,党の中で,どういった議論が行われているか,あるいは国会で議論するべきではないかというような議論,こういった点につきましては,今の段階で政府として何か申し上げることは控えたいと思います。
 いずれにしましても,政府としましては,河野談話は見直さない,これは再三申し上げてきているとおりでありますし,歴代内閣の歴史認識と全く変わらないということ,これも,再三申し上げているところであります。
 こうした我が国の基本的な政府の考え方,あるいは政府の立場,これにつきましては今後とも丁寧に説明を続けていきたいと考えています。

ヘイトスピーチ

【朝日新聞 杉崎記者】いわゆるヘイトスピーチに関してなのですが,本日,国連の人種差別撤廃委員会で最終見解ということで,以前から禁止法をつくるべきだという案が盛り込まれたような勧告が出る見通しと取材で聞いておりまして,さらに7月にも国連規約人権委員会から同様の,ヘイトスピーチに関する,しっかり規制すべき,禁止すべきではないかという勧告が日本に対して出されていますが,それについて政府として,外務省としての受けとめをお聞かせいただけますでしょうか。

【岸田外務大臣】ヘイトスピーチに関連して,人種差別撤廃委員会における議論についてでありますが,まず先日,この人種差別撤廃条約対日審査においてやりとりが行われました。
 その際に,この委員のほうから,我が国が人種差別を助長する活動を処罰すべきであるとする趣旨の,この本条約第4条A及びBに対する留保を撤回し,いわゆるヘイトスピーチを取り締まる立法措置をとるべきではないかという質問がございました。また,表現の自由との関係,国内裁判例,あるいは総理の最近の発言等についても質問がございました。
 我が国から適宜回答を行った上で,この安倍総理の,自民党でもこうしたことについて検討する必要がある旨の発言等に言及しまして,政府としてはこのような検討を注視していくといった説明を行った。こういったやりとりが先日あった次第です。
 そして,これから最終見解については公表されることになります。このヘイトスピーチに関する勧告があった場合には,これは十分に検討していきたいと考えております。
現状は以上です。

日中関係

【産経新聞 山本記者】日中関係について伺います。  昨日,菅官房長官がAPECでの日中首脳会談について,中国が主催者としてそれぞれの国と対話することは自然な流れではないかと,期待感を表明されました。現状,APECの日中首脳会談の実現性と,現在の調整状況についてお尋ねします。

【岸田外務大臣】まず,安倍総理は先日,日中間においてはさまざまな問題があるが,問題があるからこそ対話を行っていく必要があるとし,その上で11月の北京APECの際に日中首脳会談ができればよいと考えている。こういった発言をされました。
 日本側の対話のドアは常にオープンであるということ,中国側にも同様の姿勢を期待するということ。こういったことは再三,政府としても申し上げてきたところであります。
 そして,その上で,11月のAPEC首脳会議の際の日中首脳会談に向けては,まだ今の段階で具体的な調整に入った。このような事実はありません。

プーチン大統領の訪日

【北海道新聞 橋本記者】ウクライナ情勢に戻りますが,ウクライナ情勢の悪化は否めませんけれども,今秋予定のプーチン大統領の訪日に対して,どのような影響があるのか,お聞かせください。

【岸田外務大臣】ウクライナ情勢につきましては,これからもしっかり注視をし,G7との連携を重視しながら適切に対応していかなければならないと思っていますが,ご指摘のプーチン大統領の訪日につきましては,訪日日程は現在,何ら決まっておりません。今後とも種々の要素を総合的に考慮しながら検討していく。これが我が国の方針であります。

日朝関係

【読売新聞 中川記者】日朝についてお伺いします。
 日朝政府間で拉致の再調査について,その中間報告について,夏の終わりから秋の初めということで合意されたと思うのですけれども,現在,どのような報告・連絡が北朝鮮から来ているのか。そして,中間報告を受けることについての調整状況をどのように把握されているのか,ご説明いただければと思います。

【岸田外務大臣】ご質問の件につきましては,まず北朝鮮側は,この特別調査委員会について,本年夏の終わりから秋の初めごろに第1回目の通報を行うとしています。政府としましては,この北朝鮮が行う調査の進捗を慎重に見きわめていく考えであり,その方針であります。
 ただ,この1回目の報告につきましては,現在,日時あるいは報告の場所等,具体的なものは何も決まっておりません。引き続き調整していくことになると考えます。

モディ・インド首相の来日

【ブルームバーグニュース レイノルズ記者】明日,インドのモディ首相が来日されるのですけれども,インド側が強く原子力協定を求めているとは聞いていますが,今回結ぶ可能性はありませんでしょうか。それで,一番引っかかっているところはどこにありますでしょうか。

【岸田外務大臣】インドのモディ首相につきましては,あす30日から9月3日までの日程で,公賓として訪日される予定になっております。
 滞在中,天皇陛下はモディ首相をご引見される予定になっておりますし,また,モディ首相は京都を訪問されることになっております。安倍総理との間においても,日印首脳会談,あるいは夕食会,こういったものが予定され,政治,安全保障,経済,経済協力,人的交流,さまざまな面での関係強化について議論を行うことを想定しているところであります。
 原子力協定につきましては,今までも日印間で議論が行われてきたところでありますが,現在のところ,その協定について,具体的なものについてまだ報告を受けておりません。
 いずれにしましても,首脳会談等におけるやりとりにつきましては現在調整中であります。

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