記者会見
吉田外務報道官会見記録
(令和3年1月13日(水曜日)15時46分 於:本省会見室)
冒頭発言 新年の挨拶
【吉田外務報道官】冒頭、私(外報官)の方からはございませんけれども、新年明けて初めての記者会見ですので、皆さまにちょっと遅まきながら、あけましておめでとうございますという言葉とともに、昨年も大変お世話になりましたけれども、本年も、なお一層よろしくお願いしますという、ご挨拶をさせていただきたいと思います。
韓国関連(元慰安婦等による日本政府に対する損害賠償請求訴訟)
【朝日新聞 安倍記者】韓国の慰安婦訴訟をめぐる判決についてお伺いします。茂木大臣からは、今後についてあらゆる選択肢を視野に入れて毅然と対応していきたいとの発言があったのですが、判決が確定する今月23日までの間に何らかの対抗措置を取るという、そういうお考えなのでしょうか。
【吉田外務報道官】韓国における元慰安婦による訴訟について、お尋ねをいただきました。大臣が既に述べられたことと重複する部分もありますけれども、改めて日本政府としての考え方を申し上げますと、今回の判決は、国際法上も二国家関係上も到底考えられない異常な事態が発生したということで、極めて遺憾だと思っています。
国際法上の主権免除の原則から、日本国政府が韓国の裁判権に服することは認められません。この訴訟は却下されなければならないというのが、日本政府の明確な立場であり、累次にわたって韓国側には伝達、表明してきたところです。
慰安婦問題を含めて、日韓間の財産請求権の問題、これは1965年の日韓請求権・経済協力協定で、完全かつ最終的に解決済みです。更に慰安婦問題につきましては、2015年の日韓合意、最終的かつ不可逆的な解決、これが政府間で確認をされているところです。ちなみに今回の韓国政府外交部の論評にも、2015年の日韓合意について言及があって、これは公式な合意であるといった旨の言及があったかと承知しています。
にも拘わらず、国家主権免除の原則を否定して、原告の訴えを認める判決が出されたと。また、それについて韓国政府の論評は、この判決を尊重するということであったかと思いますが、こういったことを含めて、一切日本政府としては断じて受け入れることはできません。
今回の判決は、既に厳しい状況にある日韓関係を、更に深刻な状況に陥れる動きであると、このように考えます。韓国側には、行政府のみならず国家として、国際法の違反状態を是正するため、適切な措置を講じることを求めていきます。
これに対して、今ご質問にありましたけれども、国際法違反を是正するために適切な措置を求めていくという日本の立場に基づいてですが、韓国側の今後の出方、こういったものを見極める必要がありますけれども、そういったことに対して今後どうするかについては、あらゆる選択肢を視野に入れて、毅然と対応していくことで臨んでいきたいと思っています。けれども、こういったことについて、例えば具体的にどうするか、あるいはどういうタイミングでやるのか、今お尋ねがあったように、日本政府の方からは判決に服することにもなるので、控訴いたしませんけれども、判決が仮に確定したとして、それの前にやるのか後にやるのか、そういったタイミングも含めて、これらについては日本政府としての対応について、手の内を明かすことにもなりかねませんので、お答えは差し控えたいと、このように考えます。
【朝日新聞 安倍記者】今、報道官がおっしゃったように、この判決は却下されなければならないというのは、日本政府の考えだというのはよく分かります。ただ、今回の判決は韓国の司法の判断なわけですけれども、ここで却下というのは、要は韓国政府側にどういった対応を求めているということになるのでしょうか。
【吉田外務報道官】日本政府の立場は先ほど申し上げたとおり、今回の判決は却下されなければならない、あるいは無効にされなければならないということで、それが今後の日韓関係改善のためのスタートの、前提になると考えています。
他方、こういった国際法違反状態を是正するための措置というのは、日本側がどうこうと申し上げるというよりは、それは韓国の中で、韓国政府自身が取り得るあらゆる選択肢を考えて考慮していただくべきものだと、このように考えます。
ちなみに、ご参考までに申し上げますけれども、この問題と似たような事案が国際司法裁判所に、かつてかかったことがあります。2012年に、ドイツがイタリアを国際司法裁判所に提訴した問題です。この事案については、イタリアがドイツの主権免除を認めない、国内法での裁判の判決だったわけですが、これは主権免除を否定するものとして、ICJによって退けられたという事案です。
その判決の中に、イタリアが執るべき措置として、「適切な立法かその他の自らが選ぶ方法で裁判所の決定を失効させなければならない」、「それが主権免除に対する侵害が司法府により行われたこと、あるいはイタリア国内法上、決定が確定していることは、原状回復の義務を解除しない」と、このように判示をされています。こういったことを踏まえて、韓国側において適切な措置をとっていただきたいと、このように考えます。
【朝日新聞 安倍記者】関連でもう一件伺いたいんですけれども、今回の韓国の判決によって、韓国にある日本の国有財産が差し押えられるのではないかというような懸念が出ていますけれども、主権免除というのは国家財産にも適用されるわけですが、こうした差押えというのは現実的に可能なのかどうか。その点のお考えをお伺いできればと思います。
【吉田外務報道官】今回の事案は、まだ現時点で判決が確定しているわけではありませんので、その後、どのような手続き・プロセスがとられるか、これは韓国の中における民事訴訟上の手続きですので、日本側としてそれがどうだとかこうだとか、予断する立場にはございません。これをまず申し上げたいと思います。
その上で申し上げれば、そのような執行措置がとられることは、断じて容認できないということですし、また、日本の国有財産に対するもの、それは主権免除ということもありますけれども、例えば、そういったものが在外公館に関わるものであるとする場合には、外交関係に関するウィーン条約、これも国際慣習法化していますけれども、こういったものにも明確に違反するということは申し上げられるかと思います。
【NHK 渡辺記者】今の関連ですけれども、一連のこの韓国の対応を見ていますと、例えば外交通商省の方は、コメントで2015年の合意の重要性を指摘しているわけですよね。一方で司法はこういう判断を下しているし、大統領府の方は明確に意思表示をしているわけではなくて、韓国の国内のこの問題、対日関係でのこういうスタンスというのは、やはり韓国国内で混乱しているという印象なんでしょうか。それとも、それぞれの立場でやっているだけで、混乱というわけではなくて、何らかの意思に基づいてやっていると見ていらっしゃるのかということがまず1点です。
二つ目としては、基本的にもう一貫してボールは韓国側に投げられているというスタンスだと思うんですね、全部の流れが。一方で、韓国側から打ち返し、明確に日本が納得できるような形の打ち返しがないままで、ずっとこのまま来ているんですけど、果たしてこのまま、日本は日本で立場を主張しているのは当然だと思いますし、韓国側は韓国側で頑なになっていますけれども、この状況というのは、何をもって打開を。やっぱり韓国が折れるということなんでしょうけれども、そう簡単に折れるのかという。ずっと何か長い間このままになっているんですけども、それはやっぱり究極的には政権が変わらなきゃいけないのかとか、そういうことなんでしょうか。
【吉田外務報道官】なかなか、深い分析が要るご質問ですので、どういうふうにお答えすればいいか定かでありませんけれども、先ほども申し上げたように、今回の判決は、既に旧朝鮮半島出身労働者問題などによって、相当日韓関係は厳しい状況にあります。そちらの旧朝鮮半島出身労働者問題等においても、判決に基づいて現金化されるといったことがあれば、これはもう取り返しのつかない事態になるということも、再三再四繰り返し、公にも表明をしてきているということですし、今回の訴訟におけるプロセスにおきましても、この訴訟は主権免除の原則に反する、原則を否定するものであるとするならば容認できないと、これは却下されなければならないという日本政府の考え方は、繰り返し韓国側に伝達をして来た、そういう次第であります。
この問題について、韓国の側でどのように今後対応されるのか、先ほどの論評に、複雑なメッセージがあるというようなご指摘も今ありましたけれども、どのような背景があるにせよ、この問題そのものは原則に関わる、いわゆる主権に関わる問題ですので、我々の方から何か妥協するとか、あるいは妥協案を出すとか、そういう筋合いのものでは理屈上あり得ないわけです。
そこを、やはり今一度、十分理解をしていただいて、韓国側で英知を結集して取り組んでいただきたいと、このように申し上げたいと思います。
米国情勢(トランプ大統領支持者による米国国会議事堂の占拠)
【朝日新聞 北見記者】お話変わりまして、米国のですね、連邦議会議事堂乱入事件に関連してお伺いいたします。本日の自民党外交部会で、この事件に関してですね、総理の発言がなく、官房長官の質問対応に留まったことを受けて、出席委員から、しっかりトップがメッセージを出すべきだ、といったご意見が出たそうです。改めて、この事件に関して、日本政府の立場とですね、今後、こういった場合のトップの情報発信についてのお考えを教えてください。
【吉田外務報道官】お尋ねについては、今日、自民党の外交部会でご指摘があったというようには仄聞をいたしておりますけれども、改めて申し上げますと、今回の連邦議会の侵入、議事妨害が生じたことについては、日本政府としても懸念を持って、これを受け止めたということです。この件につきましては、1月7日に、事案が生じた直後ですけれども、官房長官の会見におきまして、ご質問があって、加藤官房長官の方から、今申し上げたようなことを申し上げて、なおかつ米国の民主主義が現在の困難な状況を乗り越え、社会の平穏と協調を取り戻すとともに、平和的かつ民主的な政権移行が進むことを期待するという日本政府の立場を発信させていただいているかと思います。
それから総理につきましては、8日に囲み取材があったかと思いますけれども、そこでこの問題についてもご質問を受けておりまして、総理の方からも、同様のバイデン次期大統領の下で、米国民の皆さんが一致結束して歩んでいただきたいというメッセージを発信させていただいております。したがいまして、総理から何らの発信がないというふうにご認識いただいているのだとすると、そういった点がよく伝わってなかったのかなと考えます。
他方、各国の首脳が、どういう形で、どういう内容のメッセージを発信するか、これはそれぞれの国の、あるいは首脳の考え、あるいは米国との関係、個々様々だと思いますので、そういったものに対して一概に単純比較するのは、困難ではないかなと思います。
いずれにしましても、日本政府の立場は、今申し上げたとおりであって、これは官房長官からも総理からも発信をさせていただいていると、このように認識をしております。
【朝日新聞 北見記者】関連して、お尋ねいたします。今の自民党外交部会のですね、議員の方の、ご指摘というのは、その自発的なメッセージの発信ではなく、記者の質問に対応する形であったと、長官に関して念頭におかれてそうおっしゃったのですけれども、今伺うと、おそらく総理もそういった形だと思うんですが、例えばメルケル首相は、与党の会合ですかね、自発的に発言されたりですとか、あとSNSに書き込みをされたりとか、そういうメッセージの出し方もあったと思うんですけれども、今回このように対応されたのはどういった判断だったんでしょうか。
【吉田外務報道官】繰り返しになりますけれども、それぞれの国が、あるいはそれぞれの首脳がどういう形で、どういう内容のメッセージを発信されるか、それはそれぞれの国のご判断であろうかと思います。日本の場合は、この事案が生じたのは米国時間の6日ですから、7日の官房長官の記者会見、これは直後に行われているわけでありまして、その時点で、ご発言をされる機会があったということで、明確にメッセージを出させていただいたと、こういうことであります。
米国情勢(バイデン新政権への期待)
【共同通信 浅田記者】来週、米国のバイデン新政権がいよいよ発足します。日本政府としてですね、外交や安全保障、また経済の面でですね、新政権に対してどのように期待しているか、よろしくお願いします。
【吉田外務報道官】1月20日に米国大統領が就任されるということで、着々と準備は進んでいるかと思います。既に閣僚に任命される顔ぶれ、これも大方明らかにされております。バイデン大統領は当面は、大統領選挙によって、あるいはその過程を通じて明らかになった国内の分断であるとか、そういった国民和解というものに優先的に取り組まれると承知しておりますし、そういうことを我々としても期待をしております。
他方において、日米関係、これは昨年が日米安全保障条約60周年ということもありまして、日米同盟、着実にこれまで深化してきておりますけれども、内外のその安全保障情勢は極めて厳しいという、あるいはそういったものが更に厳しくなっているという状況を踏まえまして、今後、一層更にこの日米同盟、これは安全保障の分野に留まらず、経済、社会、あるいは国際的な地球規模の課題、そういったものを含めて、更に強固なものにしていきたいと考えております。
したがいまして、バイデン新政権との間で、なるべく早期に首脳レベル、あるいは閣僚レベル、外務大臣のレベルで、直接の対話を、意見交換をする機会を得て、様々な直面する課題に、日米でどうやって取り組むべきかということについて、忌憚のない意見交換をしていただくことを期待しております。
当然のことながら、日本、あるいは東アジアを取り巻く、厳しい安全保障環境に対する共通認識は、すでに米国政府との間で形成されておりますけれども、そういったものをさらにアップデートさせていく中で、どのような日米での取組・協力ができるかということは、大前提になろうかと思いますし、更にそういったものを強固にするために、例えば経済の分野、貿易投資の分野、あるいはバイデン次期大統領が重視しておられる気候変動、あるいは国際保健といったような新たな課題において、日米が国際社会において、新しい秩序作り、ルール作りを主導していけるように、こういったことについても、新政権との間で確認・進展できればなと考えております。
それから、日本が米国と共に推進してきている「自由で開かれたインド太平洋」、こういったものについても、これまでの協力を基礎に、あるいはそういったものを踏まえて、更に協力の中身について具体化させていくことについても、早速取りかかれるように期待しております。