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平和構築を担う人材とは
~アジアにおける平和構築分野の人材育成に関するセミナー~
(概要)

平成18年9月

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(写真)

 8月29日、東京のUNハウスにおいて、外務省と国連大学の共催により、「平和構築を担う人材とは~アジアにおける平和構築分野の人材育成に関するセミナー~」が開催された。

【本セミナーの趣旨・概要】

 現在、平和構築を巡る議論は、世界的な注目を集めている。世界は多様化・複雑化する様々な紛争にみまわれ、それを受けて、様々な形態の平和活動が世界各地に展開し、重要な役割を果たしている。国連においては、昨年12月に国連平和構築委員会が設立され、議論が始まっている。この分野は理論と実践の双方において急速な進歩を遂げており、特に、平和構築を巡る新旧様々な課題に取り組む人材の育成は急務であり、日本を含むアジアにおいて、更なる取組が必要となった。こうした中、外務省と国連大学は、アジアにおける平和構築分野の人材育成について議論する機会として、今回のセミナーを共催した。

 本セミナーでは、本分野の実務者・研究者や関心を持つ学生、在京大使館関係者他約300名の参加のもと、冒頭、麻生外務大臣、ブラヒミ元国連事務総長特別顧問、グールディング・オクスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジ学長(元国連PKO局長)、ナンビアール・インド統合戦略研究所所長(元UNPROFOR司令官)による基調講演が行われ、また、本分野での先進的な人材育成の取り組みが各国・機関から紹介されるとともに、アジアにおける平和構築分野の人材育成の課題について、有識者のパネル・ディスカッションが行われた

【本セミナーの成果】

(1)我が国のイニシアティブの効果的発表

 麻生外務大臣は「平和構築者の『寺子屋』を作ります」と題する基調講演(政策スピーチ)を行い、アジアにおける平和構築分野の人材育成を推進する我が国のイニシアティブを発表した。これに対し、他の基調講演者をはじめとするセミナー参加者から高い評価と今後の実施への期待が表明された。また、主要全紙やテレビ等のメディアでも広く報道された。

(2)事業実施に向けてのネットワークの構築

 国際機関、PKO先進国やASEANなど各国政府、国内関係省庁・実施機関、大学、NGO等の内外の関係者が一同に会し、アジアにおける平和構築分野の人材育成のあり方についての議論に積極的に参加したことで、本件人材育成事業を効果的に展開するためのネットワークの土台が築かれた。また、活発な議論の中で、本件人材育成事業を実施するに際しての様々な示唆を得ることができた。

(3)幅広い層へのアウトリーチの実現

 在京大使館関係者や実務者・研究者のみならず、学生やその他の一般人も多数参加し、基調講演のみならず、発表やパネル・ディスカッションなど、セミナーが終了するまで熱心に耳を傾けた。国民各層に平和構築支援への参加を求める内容の大臣スピーチと相俟って、平和構築に関心を持ち、参画する層を拡大することに資するセミナーとなった。

【各セッションの概要】

(1)開会挨拶

 タクール副学長よりは、冷戦終結後の国際社会への国連の取り組みに資する本セミナーの意義と、今後の日本の貢献への期待を表明した。

(2)第1セッション~基調講演

(イ)司会の山中政務官は、本セミナーの趣旨説明を行うとともに、多面化・多様化する安全保障環境の中で、平和構築分野の人材育成が重要となっている旨指摘した。

(ロ)麻生外務大臣は、政策スピーチ「平和構築者の『寺子屋』を作ります」の中で、3点の公約を表明した。第1に、平和構築を担う人材のための「寺子屋」作り、第2に、平和構築に向けた「知的リーダーシップ」の発揮、第3に平和構築の「実践篇」として人材の育成である。そして、平和構築は、我が国がこれまで取り組んできた「平和の定着と国づくり」をまさに実践することであり、平和構築を担うためには幅広い人材が必要であると述べ、専門知識や技量を持った青年・壮年が世界に進んで活躍の場を求められるよう、人材育成に本腰を入れていくことを約束した。

(ハ)ブラヒミ元顧問は、アジアにおける平和構築分野の人材育成に向けての日本のイニシアティブを高く評価し、今日の平和構築への課題として、平和維持から平和構築への移行期における選挙・憲法・司法の問題、そして国連平和構築委員会の今後の運営を挙げた。

(二)グールディング学長は、麻生大臣が基調講演で平和構築への積極的姿勢を表明したことについて「革命的な変化」であると高く評価した。また、「平和構築」の歴史的変遷に触れ、主権の問題(内政不干渉原則)が桎梏となってきた点を指摘しつつ、平和構築に向けての関係者の協働を訴えた。

(ホ)ナンビアール将軍は、冷戦終結直後の楽観論が裏切られ、脅威が多様化した今日、国連の能力を強化する方向で制度的な改革に取り組むべきであると述べた。更に、平和構築に向けて国際社会が継続的かつ必要な全ての支援、特に法の支配が確立されるまでの支援を行うことが必要である旨を訴えた。

(へ)会場からは活発な質問やコメントが相次いだが、特に在京ルワンダ大使からは、確立されたモデルを押しつけるのではなく、地に足の着いた現地の要請に応える方策が解決に繋がるとのコメントがなされ、基調講演者もこれに賛同した。

(3)第2セッション~平和構築のための人材育成の事例

(イ)マレーシア、スウェーデンなど、PKO訓練の先進国から招かれた発表者は、民軍共同研修をはじめ、各国の最新の訓練課程の内容を紹介し、プロフェッショナルとしての能力基盤を確立する重要性を強調した。また、スウェーデンの発表者は、ともかく行動に移すこと(Just do it !)が大切であると訴えた。

(ロ)ロビンソンUNHCR駐日代表からは、平和構築の人材育成にはアイデアが重要であるとしつつ、他国の機関との訓練内容の重複を回避すべきこと、訓練の対象者を十分に選定すべきことを提言した。

(ハ)弓削UNDP駐日代表は、平和構築にはコミュニケーション能力、交渉力、協調性、適応力、問題解決能力など幅広い能力が求められるため、まずは現場を経験した上で、これらの能力を着実に身につけることが重要と指摘した。また、仕事と生活のバランスが大切であり、平和構築支援を行う人たちに対しても人道的な配慮が必要と付言した。更に、開発と平和構築には共通する部分も多いが、具体的な問題状況が異なるため、一方の処方箋を他方にそのまま適用すると大きな失敗につながる可能性があると述べた。

(4)第3セッション~アジアにおける平和構築分野の人材育成の課題

(イ)白石副学長は、冒頭、前日の非公開セッションで議論となった、ASEANを含むアジア諸国の積極的な参加がアジアにおける平和構築分野の人材育成のイニシアティブ成功にとって重要である点や、自衛隊も国際的な緊急人道支援の現場においてJICA等と協力した経験から民軍協力の重要性を意識するようになった点などを紹介した。また長谷川UNOTIL代表からのメッセージを紹介した。各パネリストからの発言ポイントは次の通り。

(ロ)NGOの立場から見ると、平和構築は「ものごとを政治的にするプロセス」であり、そのことから平和構築に携わる人が危険に晒されるということが問題である。またNGOは財政的問題を抱えており、中・長期的な課題に対処することは困難である。(長理事)

(ハ)平和維持と平和構築の定義を確認する必要がある。また、紛争の根本原因の除去を目指すような人材が重要である。その上で、(一)日本の人材育成は日本人だけで行うのではなく、アジア人たちを巻き込んで実施する方が日本人にとっても効果的、(二)文部科学省のCOEプログラムを大学による平和構築の人材育成に用いるべき、(三)NGOによる目に見える活動を促進すべき、(四)企業の平和構築への参画を奨励すべきと考える。(横田教授)

(二)カナダは歴史的に多数の国連PKOに参加してきたが、平和構築が多面的な性格を有することから、これまで関わってこなかった問題に対処することが必要となった。このためには多様なアクターの協力が必要であり、例えば文民・警察・軍の共同訓練も有益である。(キャロン加大使)

(ホ)文民警察による助言・監視活動においては、日本の警察の持つノウハウも生かすことができる。また、文民警察が効果的に活動するためには、国際的に共通の規範を形成することが課題である。また、文民警察の活動に関する研究が少なく、この分野での更なる研究が望まれる。(新田大使)

(ヘ)アジアにおける津波や地震などに対する人道支援の経験や各種対応策は、平和構築分野や他の地域にも活用できる。アジアにおいては、実際の経験を踏まえての政策分析を一層充実させるとともに、それに基づき実務者に対する短期研修を行うという双方向のアプローチが効果的である。(ツイOCHA事務所長)

(ト)フィリピンは平和構築支援の受益国から貢献国への転換を経験した国である。また既存のアジアのリソースをいかにして活用するかが、今後の本イニシアティブの成功の鍵となるであろう。(ドミンゴ課長)

(チ)この後、各パネリストから活発な意見交換がなされ、日本の人材育成に資するような知識が多く共有された。

(5)閉会挨拶

 山中政務官は、2日間のセッションを総括し、ブラヒミ元顧問、グールディング学長、ナンビアール将軍の言葉を引用するとともに、アジアにおける平和構築分野の人材育成に向けてともに取り組んでいきたい旨呼びかけ、セッションを終えた。

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