演説

細野豪志 内閣府特命担当大臣・政府代表演説

国際原子力機関(IAEA)第55回総会
細野豪志内閣府特命担当大臣・政府代表演説

平成23年9月19日

英語版

1.序

議長,事務局長,御列席の皆様,

 日本国政府を代表して,議長閣下が国際原子力機関(IAEA)第55回総会の議長に選出されたことを心からお祝い申し上げます。また,ドミニカ国,ラオス人民民主共和国,トンガ王国のIAEA加盟が承認されたことを歓迎します。

議長,

 3月11日に発生した東日本大震災及び津波に伴う東京電力福島第一原発の事故は,日本に甚大な被害をもたらしました。我が国が原子力発電に成功した1963年以来ほぼ半世紀の間,エネルギー資源の乏しい我が国は,懸命にその安全な活用の研究開発に取り組み,原子力技術と産業を発展させてきました。この歩みの中での今回の事故は,我が国国民に大きな衝撃を与えるものでした。こうした中から復興に踏み出す我が国の足取りを支えてきた加盟国,IAEA等からの支援,国際社会の連帯に対して改めて深く感謝申し上げます。

 また,事故発生後の状況などに関する情報発信のサポート,放射線計測チームや調査団の派遣,事務局長自身による事故現場の視察,今回理事会で承認された原子力安全に関する行動計画の取りまとめなどを通じ,事故の教訓を原子力安全の向上,核セキュリティの強化に活かすための国際的取組を主導している天野事務局長のリーダーシップを高く評価します。

 今回の事故の一日も早い収束とその検証に取り組み,そこから得られる教訓を国際社会と共有し,原子力安全の強化に向けたIAEAの国際的取組に反映させていくことは,事故の当事国である我が国の責務です。我が国として,原子力安全行動計画の実施に全力を注いでいきます。

議長,

 そのように申し上げた上で,核軍縮・不拡散問題,特に地域の核問題や放射線技術の広範な利用などの地球規模課題への対処は,引き続きIAEAなればこそ取り組める優先課題であることを申し述べたいと思います。IAEAが,こうした種々の責務を総合的に果たすことにより,「より安全な原子力の未来の創造」をリードしていくことを強く期待します。

2.より安全な原子力の未来の創造に向けて

(1)原子力安全・核セキュリティ

議長,

 6月の原子力安全に関する閣僚会議で採択された閣僚宣言では,我が国からの継続的な情報提供を期待する旨が強調されました。我が国もまた,事故に関する情報と教訓を迅速かつ正確に国際社会に提供していくことが重要と考えています。このような考えの下,同閣僚会議に提出した報告書以降の状況を追加報告書として取りまとめ,IAEAに提出したところです。

 この追加報告書を皆様にご説明するため,本日午後4時30分より今回の事故に関する報告会を開催します。各国・各位の御参加を歓迎いたします。

議長,

 今回の原発事故の発生後,特に原子炉及び使用済燃料プールの安定化に向けての取組は,現在も事故現場で連日,厳しい環境の中で緊急作業に従事している多くの作業員の献身により支えられています。また,ここでは,各国及びIAEAの専門家の助言,滞留留水処理システムや遠隔操作ロボットの提供などの国際協力も大きな助けとなっています。

 事故の状況は着実に収束に向かっています。政府は,東京電力と共に,本年4月に公表した「事故の収束に向けた道筋」の「ステップ2」と位置付けている「放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられている」こと,いわゆる冷温停止状態を,予定を早めて年内を目途に達成すべく,全力を挙げて取り組みます。

 これまでに原子炉については,処理した高レベル放射性汚染水を再利用する循環注水冷却の実現により冷温停止状態に近づいています。また,使用済燃料プールは代替冷却により,より安定的な冷却を達成しました。一方,作業員の放射線・健康管理体制充実なども,国が責任を持って進めています。また,中長期的な取組を見据え,国は事業者と共に人材育成を推進しています。さらに,使用済燃料の取り出しなどを含めた「中長期的課題」に引き続き取り組んでいきます。今後とも,多くの困難な課題に直面することは覚悟していますが,現場作業員の努力と国際社会の温かい支えによって,必ずや問題を乗り越えられると確信しています。

議長,

 我が国は,6月に提出した報告書において,事故の教訓の一つとして,安全規制体制の強化の必要性を明らかにしました。閣僚宣言及び今回の原子力安全行動計画においても,各国規制当局の権限の強化と当該当局の効果的な独立性の確保が表明されました。

 こうした国際的な議論を踏まえつつ,我が国は,原子力安全規制に関する組織を改革する考えです。「規制と利用の分離」を実現すべく,原子力安全・保安院を経済産業省から分離し,原子力安全委員会の機能とも統合して,環境省の外局として「原子力安全庁」を,来年4月を目途に発足させる予定です。同組織では,規制体制を一元化するとともに,安全文化を徹底し,危機管理体制を整備します。さらに,原子力安全規制自体についても根本的に強化する決意であり,更なる取組を進めます。我が国は,この改革を受け,2012年にIAEAの統合規制レビューサービスを受け入れる方針です。

 この新たな機関は,核セキュリティへの対応も担うことになります。今後,我が国は,原子力施設へのテロなどによる攻撃への対処,各国関連当局間の情報交換を進め,IAEA関連文書及び事故の教訓を踏まえて核セキュリティの取組の検討を進めていきます。また「核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」を通じての人材育成等も,引き続き進めていきます。これらを通じ,来年3月の核セキュリティ・サミットにも貢献していく考えです。

議長

 オフサイトでの対応も重要であり,原子力安全行動計画で言及されています。我が国は,国際的な専門的知見を得るため,2011年10月中にIAEA除染ミッションを受け入れる予定です。IAEAと連携・協力しつつ,内外の叡智を結集して除染を進める所存です。また,我が国は住民の健康管理を優先課題として取り組んでいます。

議長,

 以上の論点を含め,原子力安全行動計画の12項目には,我が国が提案してきたIAEA安全基準の強化及び活用の促進,ピアレビューの強化を含むIAEA安全評価ミッションの拡充等が反映されました。我が国は,他の加盟国との協働でそれらの実施に全力で取り組みます。

議長,

 さらに我が国は,原子力安全行動計画の前文に言及されたハイレベル会合を2012年にIAEAと共催し,我が国の原子力発電の総点検の結果や原子力の安全利用への取り組みの方向性を国際社会と共有したいと思います。

(2)我が国とIAEAの「核兵器のない世界」に向けた取組,地域の核問題の解決に向けた取組,核不拡散体制強化への貢献

議長,

 我々は,IAEAが原子力安全・核セキュリティに留まらない原子力のあらゆる側面に知見を有する唯一の国際機関として果たしている役割を支える努力を緩めるべきではありません。

 この観点から,我が国は,2010年NPT運用検討会議で合意された行動計画の実施を促すべく,今週の国連総会の機会をとらえ,軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)の第3回外相会合を開催し,「核兵器のない世界」に向けた取組をリードしていきます。

 また,核軍縮の実施面では,米露がそれぞれ軍事的に不要となった一定の兵器級プルトニウムの管理・処分に合意し,不可逆的にIAEAの検証下に置く準備が進められていることを歓迎します。他の核兵器国も後に続くよう期待します。

議長,

 北朝鮮の核問題は,東アジア及び国際社会全体の平和と安全に対する脅威,NPT体制への重大な挑戦であり,そのウラン濃縮計画は,明確な安保理決議及び六者会合共同声明違反です。国際社会が引き続き安保理決議に規定された核放棄を北朝鮮に強く求めることが重要です。この観点から,IAEA事務局が9月理事会に提出した北朝鮮の核問題に関する包括的報告書を歓迎します。

 イランの核問題については,イランが,国際社会の疑念を払拭し,その信頼を得ることが不可欠です。我が国は,これらの問題の平和的・外交的解決に向けて,引き続き国際社会と連携して行動してまいります。

 シリアの核問題については,シリアがIAEAに対して完全に協力し,事実関係が解明されることを強く期待します。

 更に,11月に予定される中東非核化地域に関するIAEAフォーラムの実現に向けた天野事務局長の努力を高く評価します。これは2012年の中東大量破壊兵器地帯設立に関する国際会議の開催に大きく貢献するものと考えます。

 これらを含めた核不拡散上の懸念に国際社会が効果的に対処して
いく上で,追加議定書の締結国が昨年総会時の102ヶ国から110ヵ国に増えたこと,そして,この事実がモデルに基づく追加議定書及び包括的保障措置協定が保障措置の国際標準であることを示していることを歓迎します。

 我が国は,アジア不拡散協議の開催,追加議定書の発効促進等のIAEAの活動への協力,分析所の強化の支援などを通じて,関係国及びIAEAの核不拡散の取組を引き続きサポートしていきます。

(3)IAEA技術協力による地球規模課題への対処

議長,

 IAEAが原子力技術の応用により途上国でのがん治療の遅れや水資源の不足といった地球規模課題にも優先的に取り組んでいることを評価します。我が国は,水分野の本年の科学フォーラムへの研究者の派遣,アジアでの放射線医学といった分野での地域協力枠組の間の連携,海洋環境モニタリング事業の実施などを通じて,IAEAの取組に貢献します。

 我が国は,2011年度には,IAEA技術協力基金への拠出に加え,IAEA平和利用イニシアティブに対する350万ドルを含め総額1200万ドル以上の特別拠出をIAEAに拠出しました。同特別拠出によって,発電・非発電の両分野でのIAEAの各種協力プロジェクトをも支援する予定です。

(4)原子力専門家の人材育成

 「より安全な原子力の未来」を築くためには,その担い手となる原子力専門家の育成が不可欠です。我が国は昨年11月に「原子力人材育成ネットワーク」を設置しました。また職員の質の向上はもとより福島の教訓を活かした国際協力,新たな安全規制インフラの国際展開までも視野に入れた「国際原子力安全研修院」の設立を検討していきます。IAEAとも連携し優れた人材の育成に取り組んでいきます。

3.結び

議長,

 今日,IAEAは,原子力安全・核セキュリティを強化するため,各国へ助言を提供しています。また,核物質の探知・分析の専門的能力を活かして核軍縮・不拡散体制の強化へも貢献するとともに,放射線技術を利用した途上国の生活基盤支援も実施するなど,原子力エネルギーの安全な活用を促進するため,多岐にわたる国際的取組において中心的役割を担っています。我々は,増大するIAEAの役割を他の加盟国との協働でしっかりと支えていきます。

 事故に遭遇した我が国は,国際社会から寄せられた英知をも踏まえ,必ずやこの困難を乗り越え,教訓を活かしたより安全な原子力利用の未来を世界のために切り開くことができるものとの確信に立ちつつ,IAEA及び各国と連携して,我が国の責務を全うしていきます。

 御静聴有難うございました。

このページのトップへ戻る
政府代表・幹部・大使・総領事演説 |  平成23年演説 |  目次へ戻る