平成23年3月1日
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議長,人権高等弁務官,ご列席の皆様,
日本国政府を代表して,人権理事会でステートメントを行う機会を得たことを大変光栄に思います。
まず,人権理事会設立5年という重要な節目の年に,人権理事会議長という重責を担うシハサク大使閣下の卓越したリーダーシップ,また,ピレー国連人権高等弁務官及び同事務所が世界各地で展開しておられる精力的な活動に,敬意を表します。
議長,
私のステートメントの冒頭,昨今の中東・北アフリカ地域情勢に触れざるを得ません。同地域では大規模デモを発端として,平和的なデモに対する暴力をはじめ,深刻な人権侵害が発生しています。人権や基本的自由の保護・促進のためには,各国政府が,市民社会の声に十分耳を傾けつつ,不断の努力を行うことが不可欠であることを改めて確認したいと思います。
日本政府は,リビア当局により,国民に対し著しい暴力が行使されていることを強く非難するとともに,多くの死傷者が出ていることを強く懸念しています。先週の人権理事会特別会合において採択された決議及び安保理決議第1970号は,リビア当局に対する国際社会の明確なメッセージであり,ムアンマル・アル・カダフィ革命指導者をはじめリビア当局が,これら決議を遵守し,国民に対する暴力をただちに停止し,全ての人権及び基本的自由を十分尊重することを強く求めます。
議長,
国際社会において人権を保障していく上で,人権理事会の役割・重要性は益々高まっています。我が国は,人権理事会の設立以来の理事国として,人権理事会の活動に積極的に取り組んでいます。人権理事会の最も大きな特徴であり,且つ最大の成果の1つは,普遍的・定期的レビュー(UPR)です。先週人権理事会レビューの成果文書が合意され,これに基づき各国が受け入れた勧告の中間的フォローアップを行うことを慫慂されたされたことを歓迎いたします。
この点に関して,我が国は,2008年5月のUPR審査の結果を真摯に受け止め,今回,自主的にお手元にお配りのとおりフォローアップ状況を発表いたしました。各国が,自発的なフォローアップの実施等を通じて,絶えず自国の人権状況改善に取り組んでいく動きが広まることを期待しています。
議長,
この機会に,同フォローアップに記載の事項も含め,我が国の具体的な取組を簡単に紹介します。
まず,国際人権諸条約の履行に対するコミットメントを強化するため,昨年4月には外務省内に人権条約履行室を立ち上げました。日本政府は,人権条約体から出された勧告を適切にフォローアップするともに,個人通報制度の受け入れの是非について真剣に検討を進めています。
現在,様々な分野で新たな取組を進めていますが,その1つとして,障害者の権利の保護・促進があります。日本政府は,新たに設置した「障がい者制度改革推進本部」の下で,現在,障害者基本法の改正を含め,当事者も交えて活発かつ密度の濃い議論を行っております。日本政府は,国内の体制整備を早期に進めつつ,その上で障害者権利条約の締結を目指します。
男女共同参画社会の実現に向けた取組も強化しています。日本政府は,昨年12月,実効性のあるアクション・プランとして第3次男女共同参画基本計画を閣議決定しました。15の重点分野と82項目に及ぶ成果目標を設定し,2020年に指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする目標に向けポジティブ・アクションを推進するなど政府一体となって取り組んでいます。
また,将来を担う世代に教育を与えることは極めて重要であり,すべての意志ある者が希望する教育を受け,自らの能力を高める機会を確保できるようにするため,高校の授業料を実質無償化した他,大学教育についても奨学金や授業料減免等の充実に努めています。
さらに,日本政府は国境を越えた子の連れ去りの問題にも真剣に取り組んでいます。子の最善の福祉を念頭に,国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)の締結の可能性について,関係省庁が緊密に協力し,また,様々な方面から寄せられる意見を踏まえつつ,可能な限り早く結論を得るべく,検討作業を進めています。
議長,
先般,前原外務大臣は外交演説において,「普遍的価値である人権及び基本的自由が,我が国は勿論,世界各国・地域で保障されることが重要であり,引き続き国連や二国間人権対話等の場を通じて働きかけていく」旨表明しました。
我が国は,人権外交を進める上で「対話と協力」の理念を重視しています。この理念は,人権理事会にも通底するものであり,UPRもまさにこの理念を反映した制度です。他方で,残念ながら,UPRのみでは,国際社会における深刻な人権侵害に対処する上で十分ではありません。この観点から,特別手続の制度は,UPRと相互補完的な役割を果たすものであり,必要不可欠です。我が国は,これまでも特別手続に全面的に協力してきましたが,今般,「すべてのテーマ別特別手続に関する恒常的な招待(スタンディング・インビテーション)」を正式に発出することを決定しました。
特別手続の重要性に言及するに当たり,北朝鮮の人権状況に触れざるを得ません。北朝鮮において人権侵害が組織的にかつ広範に行われていることは,国連事務総長や特別報告者による客観的な報告書で指摘されています。国際社会が北朝鮮の劣悪な人権状況に対して繰り返し懸念を表明してきたにもかかわらず,2009年に行われたUPR北朝鮮審査において,北朝鮮が,各国から出された167もの勧告を一つも受け入れなかったことは,大変遺憾です。
また,北朝鮮は,国際的な懸念事項である拉致問題に対応していません。当時13歳だった少女を含む複数の日本人が北朝鮮工作員により拉致されました。北朝鮮当局は,拉致問題の再調査を約束したものの,2年半以上もその約束を実行していません。
こうした状況を踏まえ,我が国は,引き続き北朝鮮の人権状況をフォローし,国際社会の注意を喚起するため,今次人権理事会において,北朝鮮人権状況特別報告者マンデート延長決議を提出します。北朝鮮に対し,国際社会として,明確なメッセージを発するべく,各国から幅広い支持が得られることを期待します。
議長,
日本政府は,昨年12月に強制失踪条約が発効したことを大いに歓迎します。同条約には,強制失踪を犯罪として処罰し,同様の犯罪が繰り返されることを抑止する意義があります。我が国は,この分野で主導的役割を担うべく,強制失踪委員会の初代委員候補として薬師寺公夫教授を擁立しました。薬師寺教授が当選し,同委員会の活動に大きく貢献することを強く希望します。
我が国はまた,ハンセン病差別撤廃に向けて国際的なイニシアティブを発揮してきました。昨年,人権理事会決議に続いて,国連総会においても,各国政府に対しハンセン病差別撤廃のための原則及びガイドラインに十分な考慮を払うことを求める決議が全会一致で採択されたことを歓迎します。今後,各国がこのガイドラインに十分配慮を払い,ハンセン病患者・回復者及びその家族に対する人権侵害が一日も早くなくなることを期待いたします。
議長,
人権の保護・促進に終着点はなく,国際社会全体の粘り強く,かつ継続した取組が必要です。我が国の人権理事会理事国としての任期は,本年夏に終了いたしますが,国際社会の人権状況の改善に向けた取組に引き続き貢献するため,2012年人権理事会選挙に立候補しています。我が国のこれまでの国内外における取組が評価され,多くの国からご支持が得られることを期待しています。
ご清聴ありがとうございました。
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