(英文はこちら)
ヤヌコーヴィチ・ウクライナ大統領閣下,
御列席の皆様,
チェルノブイリ原発事故から25年が経過した本年,ここキエフにて原子力サミットが開催されることは極めて意義深いことと存じます。まず,本サミットをはじめとする一連の行事の開催に尽力された方々,特にウクライナ政府に対し,心より敬意を表したいと思います。
我が国は,チェルノブイリ原発事故直後から,官民ともに,医療分野をはじめ,被災地や被災者のための経済的支援を実施してきています。また,チェルノブイリ・シェルター基金及び原子力安全基金に対し,これまで合計約7300万ユーロを拠出してきました。
3月11日に東日本を襲ったマグニチュード9の大地震と巨大津波,及びその際に発生した原子力発電所事故への対応に現在我が国は全力を傾注しています。このような福島第一原子力発電所の事故の現状及び我が国の取組み等について,国際社会に対して透明性をもって説明することは極めて重要と考え,本サミットに出席させていただきました。
我が国が第二次大戦後直面した最悪の自然災害である今回の大震災と津波,及び原発事故に際し,これまで130以上の国と地域,30以上の国際機関などから支援の意思を表明していただきました。こうした支援と国際社会に広がる連帯の心は,我々日本国民が大きな困難を乗り越え,前進するための大きな励みとなるものです。心から感謝いたします。
福島第一原発事故は,原子力発電の安全性の重要性を我々に改めて想起させています。国際的な原子力事故の評価尺度で最も深刻と評価された事故が起きたことは大変遺憾に思い,極めて重く受け止めています。現在,我が国は,一日も早い事態の収拾を目指し,文字通り政府の総力を挙げてその解決に取り組んでいます。
まず,現時点で判明している事故の原因について御説明します。大地震の発生後,運転中であった福島第一原発の1,2,3号機は,全て自動停止しました。しかしながら,大地震による停電に加え,その直後に発生した巨大津波により非常用発電機が故障し,原子炉や使用済燃料プールのすべての冷却機能が失われました。
冷却機能を喪失したことにより,福島第一原発の原子炉と使用済燃料をいかに冷却するかが急務となりました。我が国は,様々な方法で注水を行うことでこの課題に対処しつつ,失われた電源や冷却機能の復旧に鋭意努めています。また,放射性物質を含む水の海への漏出や原子炉建屋に溜まった汚染水の処理にも取り組んでいます。
先ほども申し上げましたように,一日も早い事態の収束を最優先課題として,全ての資源を動員し,全力で対処しています。また,周辺住民をはじめとするすべての人々の健康と安全を最優先に考えつつ,放射性物質がこれ以上拡散しないよう努めています。
冒頭にも申し上げたとおり,我が国は,4月12日,福島第一原発事故が国際原子力事象評価尺度(INES)のレベル7に相当すると判断し,これを公表しました。しかしながら,まず申し上げたいのは,この変更は,放射性物質の総放出量を推定するためのデータが集まったため,計算した結果を国際基準に従い評価した結果であり,現在,福島第一原発の状況が悪化しているためでは全くないという点です。第二に,放射性物質のほとんどは当初の数日間で放出されており,現在,大気中の放射線量は徐々に減少しています。例えば東京における放射線量は一度も健康に問題を生じさせる数値となったことはなく,安定的に低下し続け,現在ではほぼ通常の値です。今後も放射性物質に関するモニタリングを続けてまいります。
次に,チェルノブイリ原発事故とは,原因も態様も異なっています。第一に,チェルノブイリでは原子炉そのものが爆発したのに対し,福島原発事故では,原子炉は自動停止し,大規模な火災は発生しておらず,放射性物質の放出も限定的です。IAEAも,この点に言及し,双方は異なるとしています。第二に,放出された放射性物質の総量は現時点でチェルノブイリ事故よりはるかに少ないと試算されています。第三に,福島原発事故では,放射線障害で亡くなった方がいないばかりか,周辺住民の中に,放射線による健康被害を受けた方もいません。
国際民間航空機関(ICAO),国際海事機関(IMO)や世界保健機関(WHO)などの関係国際機関は,渡航制限等の過度な対応は必要ないとする客観的な評価を行っています。是非こうした情報を信頼していただき,事実に基づく冷静な対応をお願いしたいと思います。
今回の事故については,我が国はIAEAへの通報をはじめ,東京における対外交団ブリーフ,各国の日本大使館からの情報発信,HPへの情報の掲載などを通じ,最新の情報をタイムリーに提供することに努めていきます。引き続き,最大限の透明性をもって国際社会に対する迅速・正確な情報提供を行ってまいります。
12日の菅総理の指示を受けて,17日午後,東京電力が福島原発事故の収束に向けたロードマップを明らかにしました。東京電力は,「放射線量が着実に減少傾向となっている」とする「ステップ1」を3ヶ月程度で,「放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられている」とする「ステップ2」をステップ1終了後の3~6ヶ月程度を目標達成時期の目安として設定しています。
これを契機に,これまでの「応急措置の段階」から計画的に事態の収束を目指す「計画的・安定的な措置の段階」に移行していきたいと考えています。
現時点における我が国の最大の優先課題は事態の早期収束ですが,我が国は,今後,今回の事故を徹底的に検証し,そこから得られる知見や経験を最大限の透明性をもって国際社会と共有していきます。こうした観点から,6月20日から24日にウィーンで開催されるIAEA閣僚会議は非常に重要な機会になると認識しています。我が国はIAEAと緊密に協力し,事故から得られる経験と知見を踏まえ,各国と協議しながら,原子力安全の強化に向けた国際的な取組に最大限貢献していく決意です。
ご静聴ありがとうございました。
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