議長閣下,事務総長閣下並びに御列席の皆様,
我が国代表団を代表し,私たちの経験に基づいたエイズ対策と今後のコミットメントについて一言申し上げます。
1981年にAIDSが初めて報告されたとき,この新しい感染症は,「不治の病」であると同時に「未知の病」として恐れられました。当時,人類のHIV/AIDSに対する知識・理解は十分ではありませんでした。その結果,新たな感染を十分には予防できず,また,差別や偏見はAIDS患者やその家族を苦しめてきました。
議長,
私は,今後のエイズ対策を考える上で,事務総長報告書に盛り込まれている「『病気を知ろう,対処法を知ろう。』の原則に基づいたユニバーサル・アクセス(universal access based on ‘know your epidemic, know your response’ methods)」の重要性に改めて注目したいと思います。
専門家によるその後の努力によってAIDSの原因となるウイルスは既に特定され,AIDS治療薬の今日の開発成果には目を見張るものがあります。医学的には,今や,AIDSは「コントロール可能な疾患」です。
今後,課題となっている母子感染や結核等の他の感染症との重複感染を防止し,差別や偏見をなくしていくためには,正しい知識の普及啓発をはかり,HIV/AIDSを一人一人にとって「既知の病」にする取組が重要です。
私は,近い将来,必要な全ての人々が,HIV/AIDSの予防,診断,治療及びケアを十分に受け,差別や偏見を受けることなく,エイズと共に生きられるようになることに希望をもっています。
議長,
HIV/AIDS対策を推進する上では,それに特化せず,包括的な取組とその基盤となる保健システムの強化が必要です。例えば,妊産婦健診の際にHIVカウンセリング検査を実施するなど,通常の保健サービスにHIV/AIDS対策を組み込むことが効果的です。また,HIV感染者は,同時に非感染性疾患などを抱えていることも多いため,普段から,検査・相談体制を整備することが重要です。
日本では,全国的な計画の下で,保健所や医療機関を効率的に配置し,医師,看護師及び薬剤師などの保健医療分野にかかわる人材を育成し,保健医療提供体制を整備してきました。また,すべての国民が必要な保健医療サービスを受けられる国民皆保険制度を実現しています。こうした取組により,HIV/AIDSの母子感染率は1%未満を維持しています。
我が国は,こうした経験を国際社会と共有し,引き続き,各国のHIV/AIDS対策を支援していく考えです。
議長,
昨年9月,菅総理は,ミレニアム開発目標(MDGs)国連首脳会合で,我が国の「次世代への約束」として,特に進捗が遅れている保健分野に関するMDGsの達成のため,2011年からの5年間に50億ドルの支援を行うことを発表しました。その2週間後,私は世界エイズ・結核・マラリア対策基金第3次増資会合に出席し,世界基金に対して2011年以降当面最大8億ドルの拠出を行うことを表明しました。
日本は,これまで,二国間や国際機関を通じて積極的に途上国を支援してきました。しかし,本年3月,我が国は,東日本大震災という未曾有の大災害に直面し,逆に,世界から多くの支援と被災地の住民に向けられた温かいメッセージを頂いています。
震災を経験した私たちが改めて感じていることは,「支援」とは常に先進国から途上国へという一方向的な流れなのではなく,国際社会全体で知識や資源を分け合って困難に直面している同時代の人々を支え合う双方向の行為であるということです。支援はこの世界に生きる私たち一人一人の希望なのです。
私は,日本国民を代表し,これまでに寄せられた各国,各国際機関からの支援に改めて感謝を申し上げるとともに,現在,我が国国民が,国際社会からの支援をもとに復興に向けて着実に歩みを進めていることをお伝えします。我が国は,共生の理念に基づいて様々に各国と連携しながら「開かれた復興」を目指していきます。そして,先ほど申し上げた国際的なコミットメントを着実に果たしていく決意をここに改めて表明します。
議長,
「感染ゼロ,差別ゼロ,死亡ゼロの世界へ (‘a world with zero new HIV infections, zero discrimination and zero AIDS-related deaths’)」の実現は,国際社会全体の希望です。そのためには,専門家であるかどうかを問わず,妊産婦であるか夫であるかを問わず,HIV感染者やAIDS患者であるかどうかを問わず,一人一人がHIV/AIDSに対する理解を深めることが第一歩です。今回の国連HIV/AIDSハイレベル会合が,世界中の人々にとってそうした機会となることを期待します。
御静聴ありがとうございました。