まず,本会合議長国であるマリ政府に対して,このように盛大な会議を主催したリーダーシップに敬意を表するとともに,このような場でスピーチを行う機会を与えてくれたことに心から感謝したい。
また,この機会に,東日本大震災に際し,アフリカ各国の政府とその国民から多くの励ましと弔意,支援の申し出をいただいたことに対して,改めて深く感謝申し上げたい。今回の震災は,戦後最悪の自然災害であり,震災からすでに半年がたったものの,その被害からの復興は決して容易ではない。
しかし,今次震災を理由として,地球規模の深刻な問題である気候変動から目を背ける訳にはいかない。我が国は,震災時に各国から示された善意に報いるためにも,この困難な状況を乗り越えることに全力をあげるとともに,地球益を守るために気候変動問題に引き続き積極的に取り組んでいきたい。 特に,ここにお集まりのアフリカ諸国の多くの国にとって,気候変動問題は砂漠化や干ばつ等による多大な被害を発生させる待ったなしの死活的な問題であり,日本は引き続きアフリカに寄り添って,問題の解決に貢献していきたい。
この問題に関する我が国の変わらぬ最終目標は,真の「地球益」を守る観点から,全ての主要国が参加する公平かつ実効性ある国際的枠組を構築する新しい1つの包括的な法的文書の速やかな採択である。
この最終目標を達成するために,本年のダーバンにおけるCOP17が今後の方向性を示すという意味において,非常に重要なマイルストーンとなると認識しており,我が国も積極的にその議論に貢献していきたい。各国の立場の隔たりを乗り越え,世界全体を低炭素成長に向かわせる大きな流れを作っていくことが必要不可欠である。
この最終目標を早期に達成するためには,京都議定書第二約束期間の設定は一部の先進国のみが温室効果ガスの排出削減義務を負う枠組みを固定化し,公平で実効的な新たな枠組み構築への気運を弱めかねないことから,適切なアプローチではなく,日本として賛同できないことは,改めて申し上げておきたい。しかし,京都議定書の一部の要素は,必要な改善を加えた上で新たな法的枠組みにおいても活用可能であり,新たな枠組みが構築されるまでの間,気候変動に関する国際的なインフラストラクチャーとして一定の役割を果たし続ける点を改めて強調したい。
将来の包括的な枠組みができるまでの移行時期(Transitional Phase)においては,国内措置と国際的な透明性を確保しつつ各国が示した緩和プレッジを着実に実施すべきである。
COP16で採択された「カンクン合意」は緩和・MRV,適応,資金,技術,REDD+等の主要分野がバランスよく盛り込まれた合意であり,この合意を各国が誠実かつ着実に実施することが何より重要である。特に,緑の気候基金の制度設計に関してCOP17の中で決定を行うことは,会議全体の大きな成果となる。緑の気候基金については,日本も第2回移行委員会をホストするなど,これまでも合意の形成にむけて議論に貢献してきた。この基金がアフリカをはじめとする途上国のニーズに迅速に対応できるものとなることが重要であり,我が国としても引き続き積極的に制度設計に関与していきたい。
また,我が国は,アフリカをはじめとする途上国の気候変動分野における取組を促進するための国際的な支援を強化すべきと考えている。我が国自身については,これまでも無償資金協力,技術協力及び円借款等,様々な形で具体的な支援を実施しており,2009年12月から,既にアフリカ諸国に対しては1.27億ドルを実施(2011年7月末時点)した。特に,気候変動に脆弱なアフリカをはじめとする途上国における取組を重視しており,高温・干ばつ・洪水等の自然災害の予防等適応分野におけるニーズも踏まえつつ,実効的な支援の案件の実施につとめている。
我が国は,引き続きこの短期支援を着実に実施していきたい。特に,今回のCOPは,南アフリカのダーバンで開催される「アフリカンCOP」であり,特にアフリカをはじめとする気候変動に脆弱な途上国に対して重点的に,防災対策やキャパシティ・ビルディング等を含めた支援を実施していきたい。また,2013年以降についても,アフリカを中心とする脆弱国に対して国際社会が着実に支援を行っていくことが重要と認識している。
さらに,アフリカにおける持続可能な低炭素成長を促進するための中長期的な共通ビジョン「アフリカ低炭素成長・持続可能な開発戦略」を構築する作業においても日本はアフリカとともに歩んでいきたい。この戦略策定について,本年5月のTICAD IV閣僚級フォローアップ会合のコミュニケでも合意しており,我が国もアフリカ諸国や関係ドナーとの検討を開始している。この戦略の策定においては,アフリカ諸国がオーナーシップを持ち,また他の多くのステークホルダーが参加することを重視している。本戦略がアフリカ的なグリーン成長(African Green Growth)を実現するために適応分野での迅速な対応を促進するとともに,低炭素社会であるアフリカの自然環境を保全しつつ,持続可能な経済成長を実現するための共通ビジョンを提示したい。また,各国からアフリカへの支援及びアフリカにおける官民連携のグッドプラクティスを紹介することで,日本を含む国際社会がアフリカへの支援・投資を考慮する際の1つの有益な参考指針となり,一層の支援,投資呼び込みの可能性を増加させたい。
この関連で,我が国は現在,アフリカ各国の気候変動対策資金(Climate Finance)へのアクセシビリティを高めるための「レディネス・サポート」の実施を検討している。途上国が緑の気候基金を含む気候変動対策資金に円滑,迅速にアクセスし,これを効果的に活用するためには,まず途上国各国が低炭素・適応開発のための国家戦略・計画を策定し,優先プロジェクトを特定するプロジェクト・パイプラインを整備する必要がある。アフリカ諸国の気候変動課題,解決方法,レディネスの度合いは国ごとに大きく異なるため,我が国は,各国のニーズ・事情を踏まえつつ,気候変動資金の受け入れのための体制整備やキャパシティ・ビルディングを支援する方針。
また,日本政府はODAを日本の民間資金の呼び込みのための触媒になるような形ですすめていきたいと考えている。今年がアフリカンCOPであることから,日本の経済界にもアフリカへの一層の関与を呼びかけている。10月にはJETROミッションが,11月には経団連によるビジネスフォーラムが予定されており,様々な国で低炭素成長を可能とするようなビジネスに関するF/Sが計画されている。
本年末のアフリカンCOPが成功裏に実施され,アフリカ諸国のリーダーシップのもとに気候変動の歴史において重要な一歩が踏み出され,ダーバンでの「アフリカンCOP」が後世の人々の記憶に刻まれたものとなるように,我が国はアフリカ諸国とその成果達成にむけて緊密に連携し,協力していくとの決意を有している。