外務省・ICRC共催人道支援シンポジウム
「人道スペースへの挑戦」
平成22年11月5日
皆様,本日はお忙しい中,外務省・赤十字国際委員会(ICRC)共催人道支援シンポジウム「人道スペースへの挑戦」にご参加いただき,誠にありがとうございます。
赤十字思想誕生150周年の昨年2月にICRC駐日事務所が開所して以来,外務省とICRCの協力関係は強化されており,昨年に引き続き,ICRCとの共催で人道支援シンポジウムを開催できることを大変喜ばしく思います。我が国としては,外交の柱の1つである人間の安全保障の観点からも,人道支援を重視しています。
本日のシンポジウムのテーマは「人道スペースへの挑戦」ですが,世界各地での紛争の長期化や,紛争当事者の多様化により,国際人道法の遵守が大きな課題となっています。人道支援努力の活発化の一方で,紛争地で人道支援を行う人道支援要員が攻撃に巻き込まれるケースが絶えません。人道支援要員が誘拐されたり,攻撃のターゲットにされたりする事例も増えています。そのようなニュースを耳にすることが増えている,との実感をもたれている方々も多いのではないでしょうか。
このような要因によって,人道支援要員の方々が,ニーズ調査や援助の実施といった活動ができるスペース,つまり「人道スペース」が狭まるという問題が生じています。
人道スペースの問題は,今日人道支援を実施するにあたって,最も大きな課題の1つであり,国連の場でも真剣な討議がなされています。また,人道支援機関は,それぞれの立場や考え方に基づいて,人道スペースを確保するために種々の努力を行っています。本日のシンポジウムでは,人道支援に携わっているパネリストの皆様に,それぞれのご経験に基づいた問題意識や対策について議論頂き,この問題をより深く理解する機会として頂きたいと思います。
ICRCは,人道支援において約150年の長い歴史と経験を有し,中立・独立・人道を活動理念とし,その活動は国際的にも高い評価を得ており,ノーベル平和賞をこれまでに3度受賞しています。ICRCは,我が国や他の国際機関が安全上の制約等から直接支援ができないような状況や地域においても,時に,唯一の人道支援機関として積極的に活動を展開しています。これは,ほぼ全ての紛争当事者と対話するというICRCの独自のアプローチによるところが大きいのではないかと思います。中立的な人道支援の象徴とも言えるICRCでさえ,ダルフールやチャド等で職員が拘束される事件が起きていることは,この問題が深刻さを増していることを示すものと考えます。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も,難民・避難民を保護するという役割上,紛争直後や紛争地のそばで活動することが特に多いと承知しています。そのため,UNHCRは,この分野の知見が豊富であり,日本政府と人道支援要員の危機管理能力のトレーニングの面で連携しています。我が国とUNHCR駐日事務所が協力して,2000年に国際人道援助緊急事態対応訓練地域センター(eCentre)を設置しました。eCentreは,国連職員に対してトレーニングを実施するのみならず,日本政府職員や日本のNGOにもトレーニングを実施しており,日本の人道支援関係者の能力向上に大きく貢献しています。
日本のNGOも最近では,世界中で積極的な人道支援を展開しています。日本政府としましても,日本の顔が見えるNGOによる支援活動を重視していますが,その一方で安全管理はより重要になっています。本日は,NGOの立場からも人道スペースの確保の努力や,困難な点についてご紹介頂き,人道支援コミュニティーで共有させて頂きたいと思います。
また,国連人道問題調整部(UNOCHA)は,人道支援活動を実施する機関ではありませんが,多数の国際機関,二国間援助,更にNGOが活動を行う中で,重複を避け,かつ相互に連携してより効果的な支援を実施できるように調整するという重要な役割を担っています。我が国は,UNOCHAを資金面で支援する一方,現地のニーズや治安情勢等の情報共有をさせて頂いています。本日は,全てのアクターの調整者という立場から,人道スペースの確保,UNOCHAの取組等についてご紹介頂けることと思います。
日本自身にとっても,人道スペースの確保は重要な課題であり,特に,アフリカの国々やアフガニスタンで効果的な支援を行う上で不可欠となっています。本日のシンポジウムでは,アフガニスタンを事例にしたセッションがありますので,日本のアフガニスタン支援について少しお話をさせて頂きます。
日本はこれまで,アフガニスタン政府に対する二国間援助,国際機関を通じた支援,NGOを通じた支援等により,アフガニスタンにおいて様々な支援を実施してきました。2001年以降の支援総額は,24.7億ドルに上ります。具体的には,アフガニスタン自身の治安能力の向上,元タリバーンの社会への再統合,持続的・自立的発展のための支援と,厳しい状況の中でアフガニスタンの復興開発のための努力を行ってきました。
他方,アフガニスタンの治安は不安定の度合いを強めており,通常の人道支援の実施が困難な地域もあります。このような状況も踏まえ,昨年5月より,アフガニスタン駐在の地域復興チーム(PRT)と連携し,ゴール県チャグチャランに我が国政府の文民要員4名を派遣し,支援を実施してきました。PRTと協同することで,日本だけでは支援を実施することのできない地域の人々にも支援を届けることが可能となっています。
このような支援方法は,人道スペースの確保が困難な状況の下でも,具体的な支援を実施する1つの方途を提示していると考えます。日本政府としても,現地の治安状況を勘案しつつ,最適な支援を組み合わせて実施していく必要があります。
人道スペースの問題は,今日,人道支援を実施する全ての関係者にとって喫緊の課題です。この後,パネリストの皆様には活発な議論を頂き,様々な見方や知恵,方策が出されることを期待しています。重要なことは,それらが支援の現場で活かされることであり,本日の議論を通じて,人道支援を行う方々の安全が確保され,真に支援を必要としている人々に必要な支援が届く一助となるよう祈念し,私の挨拶とさせて頂きます。
ご静聴ありがとうございました。