演説

山花外務大臣政務官演説

個人通報制度に関するEUセミナー
山花外務大臣政務官・歓迎スピーチ

(平成22年11月4日(木曜日)13時10分 於:早稲田大学大隈講堂)

  • (写真)個人通報制度に関するEUセミナー 山花政務官・歓迎スピーチ

 外務大臣政務官の山花でございます。本日,早稲田大学及び在京EU代表部が,OHCHR(国連人権高等弁務官事務所),ICJ(国際法律家委員会),EU加盟国からのパネリストの皆様及び有識者の方々のご出席を得て,このような素晴らしいセミナーを開催してくださることに敬意を表します。外務省を代表して,一言ご挨拶申し上げます。

 戦後の国際社会は,国連憲章第1条が人権及び基本的自由の尊重を国連の目的の一つとして掲げ,また,1948年に世界人権宣言が採択されるなど,世界の人権問題への対処や国際的枠組みにおける人権の保護・促進に積極的に取り組んできました。例えば,世界人権宣言の内容を基礎とし,自由権規約・社会権規約,女子差別撤廃条約,児童の権利条約,人種差別撤廃条約,拷問等禁止条約,障害者権利条約等が作成されてきました。我が国は主要な人権条約を締結し,その誠実な実施に努めています。また,人権理事会を始めとする国連の場における議論や,二国間会談における働きかけ等を通じて,人権の保護・促進のための取組を進めています。具体的には,これまで中国,イラン,EUを始めとする国及び地域との間で人権対話を実施してきており,双方の人権分野での取組や,人権理事会での協力等について率直な意見交換を実施してきました。

 さて,国際社会は,人権諸条約を作成したにとどまらず,これらの条約の実効性を確保するための制度を構築してきました。例えば,各条約の締約国は,その条約の実施状況を定期的に報告し,審査を受け,改善すべき点等に対する勧告を受けるといったシステムです。また,人権理事会の普遍的・定期的レビュー(UPR)では,各国がお互いの国内人権状況を審査しています。

 本日のセミナーのテーマである個人通報制度も,この人権諸条約の実施の国際的なフォローアップシステムの一つの例であると位置付けることができるのではないかと思います。

 私自身,以前から一貫して人権に大きな関心をもってまいりました。中でも,国際社会における人権の普遍的保障,我が国による主要人権条約の締結及び着実な実施が重要であると考えており,その観点から,条約の求める内容と実際に享有できる人権が乖離しているときに,その条約に関する委員会の意見を求めることができる個人通報制度にも高い関心を有しています。

 私は,我が国が個人通報制度を受け入れる意義は,大きく2つあると思います。一つは,同制度の導入によって国内の人権をめぐる議論を活発にするということです。我が国では,国内法制や制度について,自由な議論に基づき様々な改善と変遷を経てきました。個人通報制度を受け入れることは,このような議論に国際的な視点を追加し,国内の議論を更に活発にするものだと考えています。また,もう一つの意義として,我が国の人権尊重の姿勢を改めて内外に表明するとともに,国際社会における人権保障の発展に貢献することがあるのではないかと考えています。

 我が国は,現時点では,個人通報制度を受け入れていませんが,人権諸条約の実施の効果的な担保を図るという趣旨から,注目すべき制度であると考えています。このような意義を念頭に置き,各方面から寄せられる意見も踏まえつつ,受入れの是非について真剣に検討を進めています。

 個人通報制度を受け入れた場合には,委員会から見解又は勧告が出されますが,各締約国がこれに対し,いかに誠実に対応するかは極めて重要であると考えています。制度のみを受け入れたとしても,委員会の見解に対する誠実な考慮といった実行が伴わない限り,個人通報制度は有益なものとはなり得ません。そのような点を含め,政府では,個人通報制度の受入れの是非について,真剣な検討を進めているところです。

 本日のセミナーには,既に個人通報制度を受け入れているEU各国からのパネリストの皆様,また,同制度に関し,豊富な知見を有する各条約委員会委員の方々,さらに,有識者の方々がご出席です。本日は,ご出席の皆様から,個人通報制度の導入後,各国が各委員会の見解を踏まえてどのように対応したのか,各委員会から出された見解は国内の議論にどのような影響を与えたのか,これらを通じて国際社会における人権が保護・促進されてきたとお考えなのか等,貴重なご意見,ご経験をお聞かせいただけるものと期待しております。また,我が国政府としても,個人通報制度受入れの是非に関する検討に資するべく,このセミナーでの議論を大いに吸収していきたいと考えています。

 最後に,本日のセミナーのご成功をお祈りし,私からのご挨拶とさせていただきます。



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