平成22年3月4日
於:国際文化会館
ユスフ・ワナンディPECC共同議長、野上PECC日本委員会委員長、ご来場の皆様、一言ご挨拶させていただきます。
ご紹介いただきました外務副大臣の武正公一です。
私の挨拶を始める前に、地震により被害を被られた、太平洋地域の友人であるチリ国民に対し、私の心からのお悔やみを表明したいと思います。日本政府は、チリに対し支援策をすでに発表しており、さらなる協力を検討する用意があります。
奇しくも、本シンポジウムの主催団体である日本PECCの初代委員長は、故大来佐武郎元外務大臣であります。私は、国会議員になる前に大来先生の事務所でたいへんお世話になりました。時は移り、私が日本政府を代表して日本PECC主催のシンポジウムに出席できたことは感慨深いものがあります。
本日、日本が重視し、APECを始め国際場裡において積極的に進めている「危機に打たれ強い社会経済基盤の構築」をテーマに本シンポジウムが開催されますことを、心より歓迎いたします。
2010年は、我が国が、大阪APECに続き、15年振りにしてAPECの議長を務める重要な年です。11月の横浜における首脳・閣僚会議を頂点として、北は札幌から南は沖縄に至る各地で、年間を通じ、APEC関連会合が開催されます。2月22日からは、早速、広島において、第1回高級実務者会合及び関連会合が開催されています。本日のシンポジウムの主催者である太平洋経済協力会議(PECC)は、その独立性を保持しつつも、高い専門性を活かした研究成果をAPECに提供する等、APECを有機的に支えておられます。こうした皆様の活動に心から敬意を表したいと思います。
我が国が掲げる2010年APECのテーマは、「チェンジ・アンド・アクション」です。APECは1989年の創設以来、昨年で満20周年を迎えました。しかし、この間、情報通信技術の発展に裏付けられた経済のグルーバル化、気候変動等新たな環境・エネルギー問題の顕在化、ASEAN+3、ASEAN+6等他の地域的枠組みの誕生・発展など、国際・地域経済をめぐる状況は大きく変貌してきました。また、一昨年来の経済・金融危機は、これら新たな状況の少なくとも一部について、それへの対応を誤ることが域内の社会・人々に及ぼし得る重大な悪影響、これを防止し克服するために取るべき課題を浮き彫りにしました。こうした中、APECが、アジア太平洋地域において引き続き重要な役割を果たし続けることができるよう、必要な「変革」を構想し、それを具体的な「行動」に移すことで、こうした21世紀の諸課題に効果的に取り組むことの可能な枠組みとして、その意味を再構築していこうというのが、その核心です。
具体的には、本年のAPECの主たるアジェンダの3つの柱として、APECが創設以来伝統的に取り組んできた貿易・投資の自由化・円滑化を通じた地域経済統合、及び、より安心してビジネスに取り組める環境を整備するため人間の安全保障問題とともに、一昨年来のいわゆる金融・経済危機に対処していくための地域における新たな成長戦略の策定を据えております。本日のシンポジウムは、まさにこの成長戦略に密接に関連するイシューを取り上げており、政府としても高い関心を有しております。
昨年シンガポールで行われたAPEC首脳会議では、成長戦略の中の重要な要素として、Inclusive Growthという考えが共有されました。これには、「あまねく広がる成長」という和訳を当てておりますが、成長の恩恵を社会の全ての層の人々が享受できるような機会を高める構造調整を実施すること、及び、最も脆弱な層に焦点を当てつつ、個々人が短期的な困難を克服し、長期的なインセンティブを得るような「たくましい社会」を強化すること、と理解しております。
この「あまねく広がる成長」を達成するための具体的な方法としては、中小企業や女性起業家が世界の市場と資金により良いアクセスを得られるようにしたり、労働者の再訓練、技術向上及び国内における労働の移動を促進したり、良質の仕事に就くために個人の能力を高めるための基盤としての教育に投資したり、失業保険や医療保険などのソーシャル・セーフティ・ネットを構築したりするようなことが挙げられます。このような分野については、経済成長に必ずしも結びつかないというイメージがかつてはありましたが、今ではむしろ、今後の成長を支える分野として、大いに注目されつつあります。
「あまねく広がる成長」の重要性は、様々な場所や国際機関でも提唱されつつありますが、APECには、この考えを実現するための具体的な行動をとる手段もあります。それは、Ecotech(エコテク)と呼ばれる経済技術協力という方法で、メンバー間でベスト・プラクティスを共有したり、人材養成を促進したりしてきました。我が国は、本年のAPEC議長として、この「あまねく広がる成長」についての議論を深め、考え方を取り纏めて、出来るだけ多くの具体的なアクション(行動)につなげていきたいと考えています。
言葉を結ぶにあたりまして、本日のシンポジウムが「危機に打たれ強い経済基盤構築」に関する日本及び国際社会の取組を様々な角度から検討し、2010年日本APECに向けて有益な提言を取り纏める場となることを強く期待して、私の挨拶とさせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。