平成22年2月
イスラム世界と我が国の有識者の皆様、
御列席の皆様、
アッサラーム・アライコム
この度、ここ東京におきまして、中東・北アフリカ及びアジアのイスラム諸国、並びに、我が国の有識者の皆様に多数お集まりいただき、第8回文明間対話セミナーが開催されますことを大変うれしく思います。
今回のテーマは、「人々を幸福に導く普遍的価値の追求」です。昨年は、リーマン・ショック以来の金融・経済危機が中東でも顕在化し、歪んだ経済活動の影響から中東も無縁でないことが明らかになりました。世界第二位の経済大国である日本でも、貧困問題が深刻化しています。人間のあらゆる営みは、人々を幸せにするために行う必要があります。誰かの幸福を得るために、他の人の幸福を犠牲にするのでは、異なる社会・文明の共存は実現しません。今回のテーマは、文明間の相互理解、人間開発、環境といった問題についての議論を通じ、人類の共通利益を追求してきた「文明間対話」が取り扱うに相応しいものではないでしょうか。
昨年12月に東京で開催した第1回日本・アラブ経済フォーラムで、私は「人的つながり」に関するセッションの司会を務めました。その議論では、日本人がもつ調和の精神、思いやり、家族・地域の絆といった、生活の基盤にある倫理観の重要性が指摘されました。また、昨年中東地域で放映されたテレビ番組「ハワーティル」では、日本の発展とその成功に隠された理由について取り上げ、実際にはイスラム教徒でない日本人が日常において如何にイスラム教徒と共通する主義に従っているか、そして清潔さや時間に対する正確さ、謙虚さといった、日本人が重視する価値観が紹介されたと伺っております。アジア東端の島国である日本が、西の文明からの影響と日本古来の美徳との融合に腐心し築き上げてきた規範が、イスラム世界においても共通の価値として認識されたのだと思います。
近年我が国のみならず、イスラム諸国でも、若者を中心とした家族の絆の希薄化や倫理観欠如に対して危機感が高まっていると聞いています。このような時に、「人類を幸福に導く普遍的価値の追求」という高い目標を掲げ、日本とイスラム諸国の有識者の間で対話を実施することは、非常に意義のあることだと考えます。
本セミナーでは、青年交流セッションも実施されています。異なる文化を基盤とする青年たちが、様々な課題に対して、認識や見方の違いを認めつつ、どうすれば力を合わせて行動できるかを考えることにより、異文化を理解する世代の育成につながることを期待いたします。
日本とイスラム諸国との相互理解は、本セミナーを始め、多くの機会を通じて深まっています。私自身、9月の副大臣就任以来、イラクやヨルダン、モロッコといったイスラム諸国を訪問しました。また、国際社会においても、一昨年、アブドッラー・サウジアラビア国王が世界宗教者対話構想を提唱したことを始め、昨年6月オバマ米国大統領がカイロでイスラム世界との対話促進を提唱するなど、欧米とイスラム側双方で、より重層的な文明間対話への期待が高まっています。
しかし我々は、ここで満足するのではなく、更なる挑戦を続けていくべきです。今回のセミナーは、これまでの成果を総括し、将来に向けての新たな飛躍の第一歩になるものと期待しています。特に、第7回セミナーで打ち出された有識者ネットワーク「叡智の架け橋」構想が今回のセミナーで具体化し、日本とイスラム世界の相互理解を促進させる有効なツールとして、今後機能していくことを期待いたします。
最後に、本日に至るまで準備のために多大な努力を払ってこられた関係者の皆様に、この場を借りて深く感謝の意を表するとともに、これから2日間の議論が有意義なものとなるよう祈念し、私からの挨拶とさせていただきます。
ありがとうございました。