演説

西村外務大臣政務官演説

シンポジウム「アフリカ統合の現在と未来-新しい日・アフリカ関係に向けて 」
西村政務官スピーチ

平成22年8月3日
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(冒頭)
 御列席の皆様,ただ今御紹介にあずかりました外務大臣政務官の西村智奈美です。

 本日はこのシンポジウムに多数の方々に御出席を頂き,ありがとうございます。シンポジウムを始めるに当たり,主催者を代表して,御来賓の皆様,また,シンポジウム開催に御協力下さった皆様に御礼申し上げます。特にピンAU委員長におかれては,お忙しい中,基調講演を行うことを快諾頂き,改めて感謝致します。

 本年は,17のアフリカ諸国が独立を果たした「アフリカの年」である1960年から50周年に当たります。この機会を捉え,これまでの日・アフリカ関係を振り返りながら,その将来像を展望すべく,外務省の主催で本日のシンポジウムを開催する運びとなりました。

1 明日のアフリカ ―10年後のアフリカ

(1)近年のアフリカの動き

 近年,アフリカは,様々な面で大きな躍進を遂げています。まず,アフリカ諸国は,昨今の金融危機の余波の影響を受けつつも,1999年から2008年の過去10年間,平均5.3%という高い経済成長を実現しました。また,90年代に比較すれば,多くの紛争や内戦が収束しています。さらに,アフリカ連合(AU)の発足に見られるように,アフリカの政治・経済・開発分野の統合プロセスは,発展途上とは言え,着実に進展しています。このような流れの中で,「希望と機会の大陸」として,国際社会のアフリカへの関心は高まっています。

(2)10年後のアフリカ

 ご列席の皆様,ここで,10年後のアフリカの姿を想像してみたいと思います。年率約2.3%という世界で最も高い人口増加率により,アフリカの人口は,現在の約10億人から数億人も増加しているでしょう。巨大な人口と豊かな天然資源とを活かして飛躍に成功すれば,アフリカは高い持続的な経済成長を実現できるでしょう。さらに,アフリカ自身の平和と安定に向けた取組が功を奏すれば,多くの紛争が解決し,復興の歩みを進めているでしょう。このような好ましい動きの連鎖の中で,アフリカの人々が自身の能力を発揮できるような社会が出現しているでしょう。

2.日本の取組

(1)総論

 このような「希望と機会のアフリカ大陸」の実現は,決して夢ではありません。アフリカ自身のオーナーシップと,それを支える国際社会のパートナーシップとがあれば,アフリカの有する大きな潜在性を現実のものとすることは可能です。

 その道のりを確かなものとすべく,日本は,関係国や国際機関等の幅広い参画を得て,TICADプロセスを継続・強化していきます。私自身,先般カンパラで開催された第17回AU閣僚執行理事会に出席し,菅政権としてTICAD IVの公約を着実に実現していく方針に変わりないことを表明したところです。本日は,この菅政権の方針の下で,1)貿易・投資の促進,2)開発支援,3)平和・安全保障の3つの分野においていかなる取組を進めていくかについて御説明したいと思います。

(2)貿易・投資の促進

 まず第1に,貿易・投資の促進です。2007年以降,世界各国からのサブサハラ・アフリカ諸国への海外直接投資の合計額が援助額を上回っていることに示されているように,アフリカを「希望と機会の大陸」とするための最大のカギは,民間セクターの活動が握っています。

 菅政権は「新成長戦略」を定め,国策として,新興国・資源国をはじめとする海外へのインフラ・パッケージ輸出等,貿易・投資を拡大する方針を打ち出しています。アフリカについても,この取組を強化し,日・アフリカ間の経済関係を緊密なものとしていきます。このため,本年秋には南部アフリカ地域に官民合同ミッションを派遣し,官民連携を一層強化します。また,国際協力銀行(JBIC),(独)日本貿易保険(NEXI) ,国際協力機構(JICA)等の提供する政策手段も拡充し,日本の民間企業の貿易・投資活動を支援していきます。

 日本政府は,TICAD IVで,日本の対アフリカ直接投資の倍増に向けた支援を約束しました。すなわち,2002-2006年の投資残高の平均値17億ドルを2008~2012年までに倍増させ34億ドルを達成するという目標です。日本としては,投資倍増の目標に向かって,ただ今申し上げた施策を実施していきたいと考えています。

(3)開発支援

 第2に,開発支援の強化です。日本は今,厳しい財政状況に直面しており,開発援助額も減少傾向にありますが,アフリカ支援を倍増する公約については,特別な配慮を払い,その実現に向けて着実に支援を上積みしていきます。

 先月,私はウガンダで,日本の技術協力である「ネリカ振興プロジェクト」の現場を訪れました。そこで,日本の技術がアフリカの人々の食糧事情の改善に貢献している様子を目の当たりにしました。アフリカの経済成長には,インフラ整備や農業振興が欠かせません。このような認識の下,岡田大臣が5月のアルーシャでのTICADフォローアップ閣僚級会合で表明したとおり,日本は,今後2年間で最大20億ドル相当のインフラ向け円借款を実施してアフリカ大陸を経済回廊で結ぶ取組を行います。そして,資源の開発,農村の振興,市場統合のシナジーを追求しながら,アフリカの経済成長に貢献していきたいと思います。

 同時に,日本はMDGs達成を支援するためにもODAを活用していきます。人々の貧困からの脱却や社会の底上げが実現しなければ,高成長が続いたとしても,本当の意味での成長とは言えません。アフリカの人々の最低限の衣食住が保証され,人々が安心して成長の果実を実感できるような社会を実現しなければなりません。そのような社会を実現するために,日本としては,人間の安全保障という概念を推進しながら,アフリカ諸国におけるMDGs達成のため,保健,水・衛生,教育,食料等の分野の取組を強化する考えです。日本は,次回TICADフォローアップ会合までに,MDGs関連分野で約10億ドルの支援を着実に実施していきます。

 特に本年9月には,NYでMDGs国連首脳会合が開催されます。日本としては,保健,教育の分野を中心に,他のドナーと連携しつつ,取組を強化していきたいと考えています。

(4)平和・安全保障分野の協力

 第3に,平和・安全保障分野の協力です。平和と安定がアフリカの開発と成長の大前提であることは論を待ちません。1990年代と比べ,アフリカの紛争は全般的に鎮静化しつつあるといえますが,スーダンやソマリア等の紛争や,マダガスカル,ギニア,ニジェール等の憲法に基づかない政権交代の問題も依然として生じています。

 このような状況を踏まえ,日本としては,アフリカの平和・安全保障分野での協力を強化していきます。実際,私自身,先般,スーダンを訪問し,スーダン政府要人に対し,南北包括和平合意(CPA)履行と,和平合意期間の終了後すなわち「ポストCPA」の諸課題に関する南北間の対話の重要性について,働きかけを行いました。先日,日本として,スーダン南部住民投票に対する約800万ドル規模(約7億7千万円)の支援を行うことを決定したのも,アフリカの平和と安定に対する日本の強いコミットメントの表れです。

 アフリカにおける平和の定着を実現するためには,アフリカが自らの手で紛争を予防し,解決できるようにしなければなりません。ソマリアへのAUミッションの派遣,スーダンのダルフールへのAUと国連の合同ミッションの派遣等に見られるような取組がAU主導で進められていることは歓迎すべき動きです。このような流れの中で,日本は,エジプトやガーナ等,アフリカ諸国に設立されたPKO訓練センター支援を通じて,アフリカ人自身の取組と能力強化を後押ししていきます。

 平和の定着とあいまって,民主化プロセスを進展させていくことも重要です。日本は,民主化を進める重要なステップとなるアフリカ諸国の大統領・議会選挙への支援についても可能な限り行っていく考えです。

3 結び

 昨日,岡田外務大臣とピンAU委員長の会談を受け,「日本・AU協力強化に関する共同コミュニケ」が発出されました。日本は,アフリカ各国との関係に加えて,AUとの関係においても,様々な分野において互いに協力し合うパートナーになっていきたいと考えております。

 本日のシンポジウムには,ピンAU委員長をはじめ,アフリカに関する内外の政策責任者や専門家に御参加頂いております。歴史的転換点に立つアフリカの将来と日・アフリカ関係の方向性について,本日の機会に有意義な意見交換が行われることを期待し,私からの挨拶とさせて頂きます。

 御清聴有難うございました。

 
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