御列席の皆様,
(はじめに)
外務副大臣として,アジア太平洋地域におけるMDGs達成の機運を高める重要な会合で発言の機会を得たことを喜ばしく思います。ミレニアム開発目標の達成に向け,日本は最大限努力することを,まずはここに表明いたします。
(我々の歩んできた道:現状と課題)
御列席の皆様,
ミレニアム開発目標が設定されてから,およそ10年の歳月が経過しました。達成期限までのあと5年を前に,今我々が立つ場所をどのように評価すべきでしょうか。
開発協力の主体の増加を始め,この10年で開発をめぐる国際情勢は大きく変化しました。変化の過程で,MDGsは開発分野における羅針盤として,国際社会を導いてきました。世界の長い歴史の中で,今ほど国際社会において開発課題の重要性が認識されたことはないでしょう。また,MDGsが実現可能な成果指標へ焦点を当てたことにより,開発分野における,成果重視の新しい考え方が広まりました。
このように,国際社会は,課せられた困難な課題の多くを強い決意と不屈の努力で解決し,大きな成果を上げてきたのです。
しかしながら,目指すべきゴールはまだ先にあります。国際社会による開発の努力は,1990年当時に年間1,000万人を超えていた5歳未満児の死亡数を880万人にまで削減し,大きな成果をもたらしましたが,依然としてその進展は地域によって,あるいは国内においても不均衡です。妊産婦と新生児の死亡率削減は大幅に遅れており,保健システムの改善が不可欠となっております。また,多くの子どもたちが初等教育の恩恵を享受できるようになった一方,質の向上や,初等教育修了後の教育のニーズ拡大への対応が,新たな課題となっています。
これまで歩んできた道を振り返り,学んだ上で新しい一歩を踏み出すことが今求められています。
(日本が掲げるヴィジョンとアプローチ)
御列席の皆様,
21世紀において,我々の世代において,依然として恐怖や欠乏に囚われている個人がいるという事実を,看過することはできません。MDGsの開発分野への多大なる貢献を正当に評価しつつも,我々は全体の集計値で成長や発展を測るだけでなく,人間一人ひとりが開発の恩恵を受け,尊厳ある生を実現しているかに目を配る必要があります。
第二次大戦後,日本を始めとするアジア各国は社会経済上の発展及び安定を実現し,国民の力を活かしつつ復興を成し遂げてきました。国家の発展は究極的には国民の力にその源泉があるということに,我々は今一度目を向けるべきです。複雑で多様化した脅威を前にして無力な,貧困に喘ぐ人々の姿(profiles in poverty)から,目を逸らすことは許されません。彼らの目から問題を眺めずして,MDGsの達成はあり得ません。
2015年までのMDGsの達成に向けて,日本は人間の安全保障と経済成長をMDGs達成のためのヴィジョンに掲げます。一人ひとりの視点から見たとき,真に重要なのは,相互に関連し合う様々な脅威から人々及び地域社会を「保護」し,自ら選択・行動できるよう「能力強化」を図ることを通じて長期的に幸福な生活を送ることができるような支援を行うことです。その実現のための方策として,何が必要でしょうか。まずは,開発分野間の相乗効果を図り,また幅広い関係者すべての力を結集して取り組むアプローチが不可欠です。さらに,得られた成果が逆行することのないよう,個人やコミュニティの自助能力向上を目指すアプローチも重要です。
日本は,このヴィジョンとアプローチを,MDGs達成の鍵として国際社会に訴えます。
(アジア太平洋地域におけるMDGs達成)
御列席の皆様,
アジア太平洋地域は,全体として比較的順調にMDGsに向けた進展をして参りました。この背景には,この地域における目覚ましい経済成長があります。経済成長を通じてMDGs達成の原資を作りだすことが,MDGs達成の王道であることを示しています。この地域は引き続き世界の成長センターとして力強い成長を続けることが予測されます。我々アジア太平洋諸国は,成長を通じたMDGsの達成を成功モデルとして世界に提示し,各国を勇気付けるべきでしょう。
我が国はこれまで揺るぎない決意で,アジア太平洋地域のMDGs達成を支援して参りました。経済危機においては,昨年の4月のロンドン・サミットで,最大2兆円のアジア貢献策を発表しました。太平洋島嶼国についても,昨年5月に,以後3年間で総額約500億円規模の支援を行うことを表明しています。これまでしてきた約束やそれを守る決意は今後も変わるものではありません。
しかしながら,アジアにおけるMDGsの進捗は一様でなく,地域や国,グループによっては深刻な格差が存在することもまた事実です。これからのMDGs対策は,この点に対処する必要があります。
国連首脳会合が行われる本年,日本はこれまでの努力に加えて,MDGs達成に対する関心を高め,国際社会の行動の触媒となろうとしています。先般のG8ムスコカ・サミットでは,「ムスコカ・イニシアティブ」の下,母子保健分野で,2011年から5年間で,最大500億円規模,約5億ドル相当の支援を追加的に行う旨表明しました。さらに日本は,9月国連首脳会合において,MDGsの中で保健と教育を優先分野と位置づけ,重点政策を発表します。これら政策は,我が国の援助の方針であるのみならず,プログラム型の支援を行うことで国際社会にモデルを提示し,援助の望ましいあり方,行動の規範を示すものです。このアジア地域においても,このモデルを多くのステークホルダーが共有し,実行することで,これまで支援が届かないことにより進展に遅れの目立つ地域や人々の命を守り,育む支援を行うことができます。一例を挙げると,母子保健の最大の障害は,多くの妊産婦が適切な治療にたどり着く前に亡くなっていることです。我が国は,この点に着目し,産前から産後まで切れ目なく適切な治療やサービスを提供することに焦点を当てた支援を重点的に行います。
(結語)
御列席の皆様,
5年後の世界で,よりたくさんの守られるべき命が守られ,育まれるべき命が育まれるよう,我々は努力を緩めてはなりません。日本は,9月のMDGs国連首脳会合に向け,国際社会の先頭に立って貢献していく決意です。
ご清聴ありがとうございました。