平成22年10月28日
名古屋国際会議場
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ご列席の皆様、
この会場から川を挟んで対岸の熱田神宮の森は、150年ほど前まで船の発着する海岸線に面しており、ここに住む人々は熱田神宮の森に守られ、磯の香りの中で豊かな暮らしを享受してきました。私も、ここ愛知・名古屋で自然に親しみを感じながら生まれ育った一人です。したがって、今回、自然との共生をテーマとするこのCOP10の機会に、世界からここ名古屋に集った皆様にお話しできることは、私自身大変な光栄です。
このCOP10は、生物多様性条約発効以来の関係者の長年の努力の成果を結実させる歴史的な機会です。既に、カルタヘナ議定書を補足する「名古屋・クアラルンプール補足議定書」がMOP5で採択されました。遺伝資源のアクセスと利益配分(ABS)と新・戦略計画についての合意に向けた交渉も大詰めを迎えています。我が国はCOP10に至る過程で、交渉促進のために知的、財政的な面で貢献してきたと考えていますが、あと残された時間はわずか、日本として最大限の努力を惜しみません。
そして、日本は将来を見据えて行動していきます。昨日、菅総理は、ポスト2010年目標の達成を目指す途上国の努力を支援するため、「いのちの共生イニシアティブ」として2010年から3年間で20億ドルの支援を打ち出しました。本日、私は、このイニシアティブの下での2つの具体的支援策についてご説明したいと思います。
第1は、遺伝資源に関する議定書の趣旨を実現するための新たなプロジェクトで、私は、有名な童話である「眠れる森の美女」に模し、「眠れる森のび(美・微)生物(Sleeping Microbial Beauties)プロジェクト」と呼びたいと思います。熱帯林などの森には、潜在的な価値を持ちながら未だ活用されていない微生物などの遺伝資源が多く眠っています。これを途上国自身の手で、現代の科学技術によって眠りから呼び覚まし、人類の福利に活用しようとするものです。このプロジェクトは、これまでの途上国との共同研究から更に踏み込んで、特に微生物の利用に関する途上国の研究開発能力の強化を目的としており、途上国における人材育成、技術移転など行います。
「いのちの共生イニシアティブ」の下での支援策の第2は、国際熱帯木材機関(ITTO)と生物多様性条約(CBD)事務局による新しい共同イニシアティブに対する支援策です。これは、両者が共同で、生物生息域として重要な価値を有する地域に重点を置いた森林保全の活動を支援していくものです。日本は、まず、カンボジア、タイ国境にある森林保護地域におけるトラなどの生物生息域に配慮した形での森林管理計画の改善、地域住民の収入源獲得のためのプロジェクトに約200万ドルの無償資金供与を行います。日本は、今後さらに、具体的な支援を検討していきます。
なお、遺伝資源のアクセスと利益配分のうち、植物遺伝資源については、既にFAOを事務局とする枠組みが実施されていますが、日本は、環境外交の一環として、この分野でも新たな一歩を踏み出したいと考えています。今般のCOP10を契機として、食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(ITPGR)の締結に向けて何が可能か国内的な検討を始めます。
私としては、ここ愛知・名古屋で大きな成果をあげることが、今後の地球環境分野での合意形成に向けた試金石であると考えます。各国の代表が最後まで努力を続けることをお願いしたいと思います。
御清聴ありがとうございました。