平成21年10月23日
於:国連大学本部
(英文はこちら)
(写真提供:国連大学)
パライル国連大学副学長、ご来場の皆様、 一言ご挨拶をさせていただきます。
ご紹介いただきました外務副大臣の武正公一です。
本日、国連デーにあわせて、日本が重視し、国連始め国際社会において積極的に推進している「人間の安全保障」をテーマに本シンポジウムが開催されますことを、心より歓迎いたします。本日のシンポジウムの主催者である国連大学は、高い専門性を活かした研究活動を通して、国連の活動を支えておられ、日本政府としても常日頃より、その知的貢献に高い関心を払っております。皆様の活動に心から敬意を表したいと思います。
今から1か月前の9月24日、新しい政権発足から1週間という時期に、鳩山総理は国連総会に出席し、日本の新政権の基本的な外交方針と国連重視の姿勢を世界に発信いたしました。世界は現在、様々な挑戦や激しい変化の中にあります。核軍縮・不拡散を始めとする国際の平和と安全に関わる問題、環境、経済・金融、開発問題などの地球規模の課題は、一つの国だけで対応していくことはできません。このような諸問題の解決に国際的な努力を結集していく上で、国連の果たす役割は極めて大きくなっております。日本としては、そのような役割を担う国連を活かし、実効性と効率性を高めていきたいと考えております。また、日本は、国連の一員として、中でも安保理において、現在は非常任理事国として、より大きな役割を果たし、また更に国際的努力を主導できると確信しています。鳩山総理は、国連の演説で、「安全保障理事会の常任・非常任理事国の議席の拡大と日本の常任理事国入りを目指し、そのための安保理改革に関する政府間交渉に積極的に取り組んでまいります。」と述べ、早急な安保理改革の必要性を強調いたしました。
日本は、核軍縮や気候変動など我が国が強みを持つ分野を中心に、国連における取組の中で、世界の平和と繁栄の実現に向けて、人的、財政的な資源を投入し、また技術、経験、構想力を提供し、貢献していきたいと思っております。このような形で、日本の新政権は、国連重視の政策を進めてまいります。
本日のシンポジウムのテーマである人間の安全保障は、日本が重視し、推進し、そして国際社会が共同で取り組んでいく課題として実践されてきている考え方であります。国連設立時の64年前に比べると、世界の人々が直面する脅威は多様化し、また、国境を容易に越え、相互に密接に関連しています。このような脅威に対して、個々の国々や地域のみで対処することは限界があり、そのためにも、伝統的な国家の安全保障を補完する考え方として、この人間の安全保障の考え方が注目を集めております。人間の安全保障は、人間一人ひとりに着目し、紛争、貧困、地雷、麻薬、感染症等の様々な脅威から人々を保護し、自らの可能性を実現できるよう、個人及びコミュニティの能力強化を通じて、人々の生存、生活、尊厳を守ることを目指す考え方であります。民主党は、マニフェストで、「ひとつひとつの生命を大切にする。他人の幸せを自分の幸せと感じられる社会」を創ることを目指すと掲げました。私たちの政権と、人間の安全保障の推進は、まさに同じ方向を向いていると思います。それは、個人の尊厳と安全を大切にし、その積み重ねにより、平和で豊かな社会を実現していきたいという、共通の理念に基づくものであります。
人間の安全保障の概念が国際社会で取り上げられるようになってから約15年が経ちました。日本は、国際社会におけるこの概念の普及はもとより、開発の現場での実践を通じた人間の安全保障の実現に、特に力を注いで参りました。2003年に改訂されたODA大綱においても、日本が二国間支援や国際機関を通じた支援を行うに当たっては、人間の安全保障の視点に立つことを基本方針としております。
具体的な例を挙げたいと思います。日本は、国連に設置した人間の安全保障基金を通じ、武力紛争からの復興途上にあるリベリアで、「紛争後のリベリアにおけるコミュニティ再生」というプロジェクトを支援しております。これは、保健や教育、水などの基礎社会サービスへのアクセス改善や、リベリアの主要産業である農業への支援等を、国際機関と地域コミュニティが一体となって実施するもので、リベリアの復興、平和と安定に貢献しています。このプロジェクトは、他の国連機関等が実施する支援のモデル・ケースとして位置付けられております。
このような努力と実績の積み重ねにより、今日、人間の安全保障は、国連が世界の平和と繁栄のために新たな基盤を築く上で不可欠な概念として、着実に定着してきました。
しかし、世界、特に途上国の人々は依然として、様々な脅威から解放されているわけではありません。昨今の金融経済危機は、途上国の人々の生活にも深刻な影響を及ぼしています。鳩山総理が国連総会で表明したように、平和構築・開発・貧困への取組は、新政権にとって外交上の優先課題の一つであります。我々は、一人でも多くの人々が命、生活を脅かされる恐怖から解放され、その豊かな可能性を実現できる世界を目指して、人間の安全保障の視点に立った途上国支援を推し進めていく所存であります。これに当たり、例えば保健や教育などの分野において、日本の取組と国際機関の専門性や現場感覚を有機的に結びつけることが効果的であり、日本は国連関連機関の活動を引き続き支援してまいります。
言葉を結ぶにあたりまして、本日のシンポジウムが、「人間の安全保障」に関する日本及び国際社会のこれまでの取組を様々な角度から検討し、今後の活動に向けて有益な提言を投ずる場となることを期待して、私の挨拶とさせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。 Thank you very much