平成21年7月7日 16時00分~17時30分
於ブリュッセル エグモン宮殿
ジャコブズ議長、
佐々木議長(代行)、
フェアホイゲン欧州委員会副委員長、
BRTプリンシパルメンバーの皆様
(冒頭)
本日は、BRTの官民合同セッションに出席し、日欧の産業界のリーダーの皆様と意見交換の機会をいただけることをとてもうれしく思います。
(経済・金融危機の影響)
今般のBRTでは、やはり経済・金融危機が主要な論点となったと伺っています。最近、世界経済にはやや明るい兆しがでてきたとはいえ、日欧の産業界は依然として厳しい環境にあります。しかし、このような時こそ、繁栄の源である活発な貿易・投資について議論することは重要です。
世界の貿易は、2009年には9%の減少が予想され、日欧間貿易も、例えば2009年5月は前年同月比約40%の減少です。また、欧州で営業・操業する日本企業についても、一部では生産が前年同期比(2009年1-3月期)の約半分まで落ち込んでいます。
(保護主義の抑止)
このような経済危機下では、世論の関心は国内の雇用や所得の保全であり、政治も強い保護主義的圧力にさらされます。しかし、保護主義の台頭に対しては断固これを抑止していくべきです。我が国は、これまでロンドン・サミットでの保護主義の抑止に関する首脳レベルのメッセージ、WTOでのモニタリングへの協力、二国間での申し入れ等様々な取組みを行ってきました。
一方で、米国のバイアメリカン条項、中国における政府調達の自国製品の優先購入、ロシアの自動車に対する関税引き上げなど保護主義的な動きは後を絶ちません。世界経済回復のため、日欧を始めすべての国が力を合わせて保護主義の抑止に取り組む必要があります。ここで改めて、自由な貿易、自由な投資こそが、経済成長の源泉であり、世界の繁栄に不可欠なものであることを、確認したいと思います。
(WTO)
この自由貿易推進の観点からは、WTOドーハ・ラウンドの早期妥結も重要です。6月25日、日米欧と新興国の20カ国がWTO非公式閣僚会合を開催し、ドーハ・ラウンド交渉の早期妥結に向け、7月末までに次官級の交渉会合を開催することで合意しました。交渉の主要プレーヤーである米国は貿易政策レビューを終えつつあり、また、インドでは新内閣が発足するなど、交渉体制が整ってきています。
明日(8日)から開催されるG8サミットでもWTO交渉について議論されます。我が国は、引き続き交渉の進展に向けて積極的貢献を行います。
(欧州における経済・金融危機への取り組み)
現在、世界は、日米に比して弱く遅いと予測される欧州の景気回復に注目しています。欧州経済の回復には、金融システムの安定、輸出の回復、加盟各国の一致した取り組みなどの課題があると認識しています。
「欧州経済回復プラン」に沿って、これまで加盟各国が財政措置を講じてきたこと、また、新しい金融監督システムが構築されつつあることを歓迎します。引き続き、経済情勢に応じて景気刺激策を実施し、また、今後新たな金融監督機関の権限などが明確化され、金融システムの信認が回復されることを期待します。
我が国は、世界の貿易を支えるために、通常の900億ドル規模(年間)の短期貿易金融支援に加え、日本貿易保険(NEXI)が160億ドルの貿易保険の追加枠を確保し、また、国際協力銀行(JBIC)が貿易金融支援を60億ドル規模相当拡充して、合計2年間で総額220億ドルの追加支援を行うことを決定しました。さらに、各国の輸出信用機関が相互に再保険を提供する「貿易保険ネットワーク」を世界各国で推進するなど、NEXI及びJBICの各国輸出信用機関等との連携を強化しています。欧州の産業界・金融界にも、日本が提供するこの支援をもっと活用していただきたいと思います。
(日欧経済関係の強化)
では、日欧経済関係の文脈では、貿易・投資拡大のために何をしなければならないでしょうか。
欧州では、リスボン条約発効の見通しが立ち、6月には欧州議会選挙が行われ、また、本年中に欧州委員会も交替の時期を迎えます。欧州は政治の節目の時期にあります。一方、日本も、今後1か月以内に衆議院選挙が行われるという政治的に重要なタイミングです。このような時期ではありますが、私は、日本にとって欧州との関係は非常に重要であると考えており、こうしてブリュッセルまで参った次第です。
この日欧双方の大きな節目を捉え、成熟した現在の日EU経済関係を如何にしてより戦略的なものとし、かつ、飛躍的に深めていけるか、大局的見地から議論することが必要です。日本のGDPに迫りつつある中国と、EUとの間の貿易額は、4000億ドル以上(2007年)であり、約10年前の6倍以上となっている一方、日欧間の貿易は、近年は約1600億ドル(2007年)にとどまり、しかも概ね横ばいで推移しています。この数字からも、日欧経済関係は、成熟している反面、十分にポテンシャルを発掘し尽くせていないことが分かります。
5月のチェコにおける日EU定期首脳協議では、新たな日EU経済関係強化の方向性を打ち出せるよう今後一年間検討することとされました。その具体策として、現在、日本政府と欧州委員会は、非関税分野における協力案件を選定するため協議しています。不合理な仕組み・制度があれば、政治的なリーダーシップの下で解決していきたいと考えていますので、双方の産業界からも是非率直にご提案いただき、日欧で建設的に協力していきたいと考えています。
(日本の貿易・投資拡大への取り組み)
一方で、日本としては、これまでも様々な形で構造改革を推進し、貿易・投資の拡大のための環境整備に取り組むことを通じて、内需拡大に重点をおいた経済回復を目指しています。
例えば、日EU規制改革対話では、これまで欧州側から、日本の医薬品の承認に要する期間の短縮が要望されてきています。我が国は、2007年に「革新的医薬品・医療機器創出のための5カ年計画」を策定し、医薬品医療機器総合機構の審査部門を増強するなどの審査体制の強化を通じ、審査の迅速化・質の向上をはかっています。私自身、与党のプロジェクト・チームのメンバーとして、この計画の策定に深く関わりました。これは、高い技術力と競争力を有する欧州の医薬品・医療機器メーカーにとって日本市場へのアクセス改善となると同時に、もちろん、日本の医薬品・医療機器メーカーの研究開発も促進し、その結果として、日本国民に世界最高水準の医薬品・医療機器を提供することにも役立つことを期待したいと思います。
この他にも、欧州産業界が「非関税障壁」と考える日本の規制・制度について、先に述べた日EU首脳のイニシアティブのみならず、日EU規制改革対話など様々な場を活用し、オープンな立場で日欧双方の利益となるよう取り組んでいく所存です。
また、投資は、日EU経済関係においてますます重要な役割を果たしています。日本にとってEUは最大の直接投資元・直接投資先の一つです。日本は、2010年末までの対日直接投資倍増計画実現のため、対日投資促進に取り組んでいます。
こうした取り組みを加速し、日欧双方の貿易・投資を拡大していくことが重要です。将来の課題である日EU・EPAの締結も視野に入れながら、日欧双方の経済界で行われている議論を踏まえつつ、日EUのハイレベルでの政治的対話を進めていきたいと思います。私としては、近く行われるであろう総選挙後、農業分野の改革を実行し、オーストラリアとのEPA交渉も加速、さらに本年11月のシンガポール、来年日本の横浜で行われるAPEC首脳会議において、米国も含めたアジア太平洋地域の自由貿易の推進に向けて取組をおこなっていきたいと考えております。是非、EUにおかれても、日本とのEPAについて議論を進めるべく、ビジネス界の御理解と働きかけをお願いいたします。
(新しい時代のインフラ、低炭素社会の実現)
経済回復のためには、中長期的には、新しい時代のインフラ、社会システムの構築が必要です。とりわけ、低炭素社会の実現は非常に重要な課題です。我が国は低炭素社会の実現に向け、太陽光、風力、バイオマスをはじめとする再生可能エネルギーに関する国内的な取組みと共に国際的な取組みを強化する考えです。
国内的には、2020年に20%の再生可能エネルギーを導入し、国内措置だけで2005年比15%のCO2の削減を実現します。この数字は、市場からの排出権の取得、CDM、森林吸収を含まない数字です。今後の国際交渉を踏まえ、対応します。
また、国際的には、先週、私は日本代表団の団長として、エジプトにおいて国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の憲章に署名しました。同機関の暫定事務局長はフランスのエレン・プロス女史に決まり、また、事務局本部とは別にイノベーション・センターがドイツのボンに設立されることになったことに祝意を表します。
排出権取引については、日本は昨年秋より、国内統合市場を試行的に開始しています。その結果をしっかり評価し、実効性のある日本型モデルを構築したいと考えています。その一方で、日欧の産業界の皆様には、安易に排出権の購入に頼るのではなく、地球全体で排出量を削減するために、是非、革新的な環境技術の開発に取り組んでいただきたいと思います。
私は、研究開発こそが、持続可能な発展、すなわち、経済成長と環境保全の両立をはかるための唯一のブレイクスルーを生み出す鍵と考えています。ブラウン首相等から排出権市場に関連した国際的な資金メカニズムのアイデアが出されていると思いますが、個人的には、こうした資金を研究開発に活用する上でも検討に値する興味深いご提案だと考えています。
日EU間では、これまでも核融合エネルギー分野のITERにおける協力があり、本年2月には日EC科学技術協力協定が仮署名されるなど、科学技術面での協力も着実に進展しています。我が国の企業にとって、欧州の企業は再生可能エネルギー分野においてもなかなか手強い競争相手ですが、国際的な再生可能エネルギーの開発・普及に向けて、引き続きEUと協力していきたいと思います。また、原子力分野については、幸い欧州の多くの国のご支持により、我が国の天野大使が、IAEA事務局長選挙で当選しました。原子力の平和利用について実績ある日本と欧州各国が、相互に競争もありますが、民間企業協力や研究開発協力を推進することは、他の国に対しても原子力の平和利用に関するモデルにもなりますので、協力をさらに発展させていきたいと考えます。
(むすび)
さて、そろそろ締めくくりにしたいと思います。
日本と欧州が共に繁栄を享受するためには、自由な貿易・投資の拡大、規制改革の推進、低炭素社会の実現に向けた技術開発への投資などが如何に重要か述べてきました。BRTメンバーの皆様には、このために日欧が今後何をなすべきか、引き続き活発に御議論いただくことをお願いし、私の発言を終えさせていただきます。