演説

西村外務大臣政務官演説

国際セミナー
平和と人材育成に対する日本の貢献:
「平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業」の
総括と将来に向けた課題及び展望
西村康稔外務大臣政務官による開会の辞

平成21年3月24日
於:国連大学

(写真)


パネリストの皆様、
ご列席の皆様、
 本日は、私どもの主催しますセミナーにお越し頂き誠にありがとうございます。
 2007年に開始されました、平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業は、2年間という短い期間で、約60名の平和構築の専門家を育成し、また、既に多くの卒業生が世界各地の平和構築の現場で活躍するなど、大きな成果をあげています。また、4月よりは、この2年間の経験及び関係の方々の御意見を踏まえ、事業を拡充する予定です。本日のセミナーは、この節目の機会を捉え、平和構築人材育成のあるべき姿について率直なご議論を頂くべく開催することとしました。ご出席の皆様にあらためて御礼を申し上げるとともに、忌憚なきご意見を賜れますようお願い申し上げます。

(平和維持・平和構築をめぐる課題)

ご列席の皆様、
 近年、国際紛争の様相は大きく変化し、民族的・宗教的対立による国内紛争やテロなどが多発するようになっています。このような変化を受け、国連PKOの設立数が増え、また、その活動も小規模で機能が限られたものから、大規模で多機能なものへと変化してきました。
 この結果、国連PKOの軍事・警察要員は、昨年末までの過去8年間で約2.3倍(約9万人)に増大しました。また、国連PKO予算も、同じ期間に3倍以上(約76億ドル)に増加し、国連の通常予算(約19億ドル)の約4倍という規模に達しています。我が国のPKO分担金も約1370億円(約12億ドル)に達しています。外務省の全体予算が約6700億円(約59億ドル)ですから、その2割という規模です。
 さらに、国連以外の主体による活動も増大してきています。米国及び他の関係国がアフガニスタンへの派遣要員を増加させようとしています。ボスニアやコソボでは、NATOやEUのミッションが重要な役割を果たしています。アジア太平洋でも、ソロモン諸島では多国籍ミッションが活動しています。
 こうした国連及び多国間の取組の急速な増大により、国際社会による国際平和協力活動の増大は限界に達しつつあり、現に、スーダンのダルフールでも、コンゴ民主共和国でも国連PKO要員が不足しています。さらに、現下の深刻な経済・金融危機の中、先進国の一部にはNATOやEUのミッションへの派遣を優先し、国連PKOへの派遣を縮小する国も出てきています。
 こうした状況の中、国連PKOについて包括的な見直しが必要ではないかとの問題提起が行われています。1月には安保理において討論が行われ、国際的な議論が開始されました。国連事務局では、本日発表者としておこしいただいている中満泉(なかみついずみ)国連PKO局政策・評価・訓練部長がこの問題を担当されています。

(文民の役割)

 要員が不足しているのは、軍事・警察要員だけではありません。
 近年、文民の役割の重要性も再認識されています。冷戦直後の国連PKOでは文民の数はわずか600名でしたが、その後、PKOが国造りに関与し、任務も多様化する中で、文民要員の数も大幅に増大し、9倍増の約5700名へと増加しています。特に、2001年以降のイラクやアフガニスタンでの経験は、安定と復興は車の両輪であることを示し、軍のみならず警察・文民も一体として取り組む統合的アプローチの重要性が広く国際社会に再認識されました。
 こうした認識の下、イラクやアフガニスタンでは、PRT(地方復興チーム)が地方に展開し、軍事部門が治安維持を図りつつ、文民が人道復興支援活動に取り組んでいます。米国をはじめ、各国は文民専門家の育成に乗り出し、研修や派遣を行う体制を整え始めています。

(我が国の取組)

 我が国もこうした国際社会の状況を踏まえ、平和構築を主要外交課題の一つと位置づけています。昨年我が国が主催したG8洞爺湖サミットでも、平和構築を主要議題の一つとし、軍、警察、文民の平和構築・平和維持能力向上のための支援強化を打ち出しました。本日は、我が国の取組の中でも、特に、(1)安保理における取組、(2)国連PKOや多国籍ミッションへの貢献、(3)アフリカの平和維持能力強化のための取組、そして(4)平和構築分野における文民の育成と派遣という四つの取組について申し上げます。

<安保理における取組>

 我が国は、本年1月から国連安保理で非常任理事国を務めており、国際の平和と安全に特別の責任を負う立場にあります。また、安保理の下でのPKO作業部会の議長も務めています。もはや限界に達しつつある、国連のPKOの現状を見直し、本当に国連PKOが必要とされる地域に迅速に十分な要員を展開できるよう、この作業部会の議論を主導してまいります。さらに、安保理の諮問機関で、昨年まで我が国が議長を務めた平和構築委員会においても、引き続きその活動に積極的に参加していきます。

<国連PKOや多国籍ミッションへの貢献>

 第2に、このためには、我が国自身としても、国連PKOへの要員の派遣をもっと拡大していくことが重要です。現在我が国は、ゴラン高原、ネパール及びスーダンの国連ミッションに合計53名を派遣しておりますが、派遣要員数は世界第81位にとどまっています。欧米諸国は、国連PKOのみならず、NATOやEU等にも部隊を派遣していることを考えれば、国際社会の主要な一員たる我が国として、国連PKOや多国間の取組に一層積極的に貢献していくべきことは明らかです。昨年10月、我が国は13年ぶりにアフリカに要員2名を派遣しました。また、東ティモールのUNMITに対する要員派遣を含め、東ティモールの平和と安定に対する日本の更なる貢献についても、東ティモール側からの要請を踏まえ、何ができるか検討していく考えです。さらに、各国が国連PKOに提供可能な要員の種類、規模等を予め通報しておく国連待機制度についても、その参加を検討していく考えです。こうした取組を積み重ねることにより、我が国の国連PKOへの参加を拡大していきたいと考えます。

<アフリカの平和維持能力の強化>

 第3に、洞爺湖サミットでも焦点となったアフリカの平和と安定のため、アフリカ自身の平和維持能力の強化に努めます。昨年、我が国は、アフリカ5カ国(ガーナ、マリ、ケニア、エジプト及びルワンダ)のPKO訓練センターに対する支援を行いました。特に、エジプトのPKO訓練センターについては、昨年11月、防衛省、陸上自衛隊の2名及び広島平和構築人材育成センター事務局長篠田准教授(しのだ・じゅんきょうじゅ)を講師として派遣し、高い評価を得ました。来年度は、ナイジェリア、ベナン及び南アフリカのPKO訓練センターに対する支援を行う予定です。我が国としては、今後もこうした取組により、アフリカ自身による平和維持活動の能力強化を支援していきたいと考えます。

(文民の育成と派遣)

 第4に、文民の人材育成は、我が国の平和構築に向けた取組の重要な柱です。広島大学の篠田准教授(しのだ・じゅんきょうじゅ)を事務局長として発足した広島平和構築人材育成センター(HPC)は、この2年間で約60名の文民専門家を育成し、昨年3月に研修を終えた1期生は、スーダンやシエラレオネなど世界各地の平和構築の現場で既に活躍されています。第2期生のみなさんも、コソボやレバノンなどの国際機関やNGOの現地事務所で勤務をされ、立派にその職責を果たし、帰国しました。
 今日までこの事業を進めてこられた篠田事務局長はじめ、広島大学・ピースビルダーズや国連ボランティア計画の関係の方々、本事業にご協力頂いた内外の関係機関の方々、本事業を後押しいただいている山中燁子(あきこ)先生、浜田昌良(まさよし)先生をはじめ関係の方々に対し感謝を申し上げます。
 この2年間、世界平和を祈るヒロシマの地で、そして、世界各地の平和を形作る現場で研修を積まれた皆さんには、今後、アジアからの平和構築の「担い手」として立派に活躍していただきたいと思います。
 これまでのパイロット事業の成果を踏まえ、来年度からは、この事業の予算が2倍弱の3.2億円に拡充されます。この予算を使って、本事業を拡充してまいります。
 第1に、現在6ヶ月の海外実務研修の期間を1年間に延長し、平和構築の現場で研修員が一層しっかりと職務にとりくみ、ネットワークが構築できるようにいたします。
 第2に、新たにシニア専門家コースを開始します。自衛官OBなど元公務員やロジスティックス関連の会社で働いた方など官民を問わず、平和構築に必要となる専門知識や経験のあるシニアな方で、海外の平和構築の現場で働いてみたいという方向けのコースを新設します。
 第3に、平和構築を進める上での重要なパートナーであるNGOとの協力を進めてまいります。このため、NGOの方々をはじめ、官民を問わず今後平和構築に携わる可能性のある方々を対象に、平和構築に関する基礎的な理解を深めることを目的とする短期間の研修コースを新設します。
 第4に、これまで育成されてきた人材が今後も平和構築分野で活躍していけるように、平和構築人材のデータベースを構築してまいります。

 こうした人材育成の取組とともに、育成された文民を派遣していく仕組みを整備していくことも重要です。近年、我が国は、多国間のミッションへの文民の派遣を開始しており、2006年からフィリピン・ミンダナオの国際監視団に開発専門家を派遣しており、昨年、派遣人数を1名から2名に増員しました。さらに、アフガニスタンの、特に地方における開発援助活動を強化するため、近く、地方復興チーム(PRT)への文民派遣を実施する予定です。

(結語)

 これまで我が国は、人道支援や復興支援をはじめ様々な分野で平和の構築を支援してきました。今後、我が国は、さらに、かつてカンボジアで実績をあげたように、和平の仲介などにもより積極的に取り組んでいくことが必要です。和平合意の達成やその実施を含め平和構築の様々な分野で国際社会をリードできるような人材を育てていくことは我々の責務であります。このためにも、平和構築人材育成事業という小さな種をしっかりと育て、立派な大木に育てていくことは、この事業にかかわっている我々の責務であります。そのためには、平和構築に携わられている様々な関係者の方々、この事業に関心をもっていただいている皆様からの率直なご意見、ご批判をよく伺い、うまく取り入れていくことが重要です。本日のセミナーにおきまして、皆様からの活発で率直なご議論を期待していることを申し上げまして、私のご挨拶とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました。

このページのトップへ戻る
政務官演説平成21年演説目次へ戻る