平成21年5月28日
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クシュネール外務大臣、ジョイヤンデ協力・仏語圏担当長官
発言の機会を頂いたことに感謝する。
議長国である仏に感謝する。
日本は昨年9月にリーディング・グループに参加し、今回正式メンバーとしては2回目だが、ハイレベルの参加者が集まっており、関心の高まりを感じる。
世界は、100年に一度と言われる世界経済・金融危機という新たな地球規模課題に直面。特に、途上国の脆弱層への影響は深刻であり、これまでのMDGs達成に向けた努力が水泡に帰す可能性がある。
日本政府としても、ミレニアム開発目標の中間年を過ぎてもサブサハラ・アフリカ等で進捗が遅れていることに懸念を有している。
我が国は、ミレニアム開発目標(MDGs、The Millennium Development Goals)達成等、世界の開発需要に対応するためには幅広い開発資金の動員が必要と認識している。そして、昨今の金融危機による厳しい状況だからこそ、追加的資金調達について国際社会が知恵を出し合うことは有意義と考えている。
革新的資金調達メカニズムを議論するに当たって、次の3点の視点は是非指摘しておきたい。
第一に、開発資金には限りがあることから、ドナー諸国間の一層緊密な協調、開発資金の効果的・効率的活用が重要である。さらに、途上国からドナー、新興経済国、国際機関、民間財団、企業、学界に至るまで幅広い関係者の力を結集する「全員参加型」のアプローチが重視されるべきである。
第二に、同時に、日本政府は、ドナー諸国が危機の状況にあっても、既存のコミットメントを着実かつ迅速に実施し、MDGs達成に向けた歩みを後退させないことが重要であると考えている。したがって、我が国は新たな革新的資金調達の議論がODA代替のための手段になってはならないとの立場である。新旧のメカニズムがともに補完しあう関係になければならない。
日本国政府は、人間の安全保障に直結する問題として、保健分野を開発途上国支援政策の柱の一つとして位置づけている。我が国は従来より国際保健の取組を重視しており、航空券連帯税、UNITAID、予防接種のための国際金融ファシリティ(IFFIm: International Finance Facility for Immunization)、ワクチンの事前購入制度(AMC: Advance Market Commitments for pneumococcal vaccines)といった他国の取組が焦点を当てている感染症対策を含む保健分野での協力としては、2005年に「保健と開発」に関するイニシアティブを打ち出した。同イニシアティブに基づき、2005年から5年間で総額50億ドルを目処とする協力や世界エイズ・結核・マラリア対策基金への拠出を通じ、保健分野のMDGs達成に向けて積極的に貢献してきている。
特に昨年の北海道洞爺湖サミット及びそのフォローアップの過程においては、保健システム強化・母子保健・感染症対策への包括的な取組に向けた国際的な政策形成を主導してきた経緯がある。本年7月の国連経済社会理事会の自発的国家プレゼンテーションにおいても、我が国の立場・取組を改めて説明する予定である。
第三に、危機の状況を脱するためにも、途上国のオーナーシップに基づく持続的経済成長の達成がこれまで以上に重要。ODAのみならず、開発途上国自身の国内資金動員、海外直接投資等の幅広い財源確保も重要である。新たな資金調達の追求と同時に、途上国の国内資金が効率的かつ公平に配分されvulnerableな人々に届くようなシステムが必要であり、その点について検討されるべきということである。
以上を述べた上で、我が国における革新的資金メカニズムに関する議論の動向について紹介したい。
我が国政府としては、昨年7月の閣議決定「低炭素社会づくり行動計画」において、「先進国が中心となり、革新技術の開発や途上国の支援を共同して実施するための財源として、国際社会が連携した地球環境税の在り方についても、これまでの国際機関等での議論や様々な課題を含めて研究し、2008年度末を目途に一定の研究の成果を公表する」とされており、2009年3月、様々な資金調達手段について論点を整理した報告書を発表したところ。
なお、気候変動分野における2013年以降の次期枠組みにおける資金メカニズムのあり方は、現在行われている次期枠組み交渉の大きな論点の一つとなっているところ、実効的な2013年以降の次期枠組みの構築を目指し、我が国は、今後の気候変動交渉における資金の議論に積極的に参加(貢献)していく考えである。
政府以外の場でも議論が行われており、国際連帯税(international solidarity levy/contribution)を巡る国際的な議論が高まる中、我が国においても、昨年2月、超党派国会議員による「国際連帯税創設を求める議員連盟」(The Parliamentary Group on International Solidarity Levy)が立ち上げられ、活動を行っている。
また、同議連との関連で、民間が主体となり、「国際連帯税推進協議会」が立ち上げられ、国際連帯税に我が国としていかに取組むべきかにつき、同協議会において活発に意見交換が行われている。同協議会は、2010年度中に最終報告書を策定する予定と承知。この協議会には、外務省、財務省、環境省もオブザーバー参加が要請され、参加している。
また、与党は、2009年度税制改正大綱において、今後の検討事項として、「金融危機の中、世界的に開発資金の確保が一層困難になることが予想される一方、途上国支援のための資金の需要は依然として大きい。こうした状況を踏まえ、また地球温暖化対策の一環として、国際社会が共同して途上国を支援するための税制のあり方について、国際的な議論の動向、経済や金融に与える影響、目的税としての妥当性、実務上の執行可能性などに考慮を払いながら、納税者の理解と協力を得つつ、総合的に検討する。」旨を盛り込んだ。
以上のように、我が国においては、革新的資金メカニズムにつき、現時点においてはその是非も含めて、検討・議論している段階である。他方で、我が国には、小規模ではあるが、市民が開発に貢献するためのシステムがすでに存在する。いずれも、市民の多くが関心を持っている仕組みを利用して、ボランタリーに募金に参加できるシステムである。
例えば、
(1)ゆうちょボランティア貯金は、ゆうちょ銀行(旧郵便局)が行っている、通常貯金の税引後の受取利子の20%が寄附金として、JICA基金を通じて開発途上地域の生活向上や環境保全に活用される仕組み。2008年度までの加入状況は約1,000万件。
(2)その他、途上国からの留学生支援も一部対象とする年賀寄附金、国内学校設備品購入のためのベルマーク運動、絶滅の危機にさらされている野生の類人猿保護を支援する社会貢献型クレジットカード、ショッピングの利用によるポイント寄付、CO2排出権付月刊誌等がある。
また、日本で行われた、あるアンケート調査によると、約半数の消費者が環境対応品や寄附に繋がる商品の購買経験があるなど、我が国には国内外の人々を支援しようとする「連帯」感が広く存在している。様々なボランタリー・ベースの支援には重複や効率性の問題点等整理すべき点はあるであろうが、私が先ほど申し上げた「全員参加型」のアプローチという観点からも、本会合における議論との関連でも有意義な活動であると考える。
本リーディング・グループにおいて、活発な議論が行われ、国際的な開発目標達成に対する一助となることを期待する。また、我が国としても各国・各機関の取組みを聴取し、様々なメカニズムについて各参加国・機関と経験・情報を共有していきたい。