演説

橋本外務副大臣演説

南極条約/北極評議会合同閣僚会合
橋本副大臣ステートメント

平成21年4月6日

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1.はじめに

 1959年に南極条約が署名されたここワシントンDCで南極条約採択50周年を祝うことが叶い、大変喜ばしく思います。米国政府の寛大な支援と南極条約事務局の甚大なる努力に心より感謝申し上げます。

 南極は、普段の私たちの生活からはかけ離れた未知なる場所です。それ故に南極大陸は、過去2世紀近くにわたり多くの人々を魅了し、我が国の白瀬矗(ノブ)中尉を含む先人が南極探検に成功して以来、多くの探検家達が南極探検の歴史を作ってきました。その間、南極に対する科学的な関心が高まり、我が国も観測活動に積極的に取り組み、多くの成果を挙げてきました。

2.我が国による観測の実績と意義

 1980年代に南極で初めてオゾンホールが発見されたことはよく知られていますが、我が国は、1961年に大気中に含まれるオゾン全量の観測を開始し、その後の継続的な定期観測を経て、我が国の第23次観測隊員によるオゾンホールの発見に至りました。1988年には地表付近のオゾン濃度の観測も開始しており、これらの観測結果が、モントリオール議定書の下でのオゾン破壊物質の削減・撤廃に向けた国際合意に大いに貢献してきました。

 また、南極での観測は、地球の過去の姿を解明し、将来の予測をする上で極めて重要なデータを提供しています。我が国のドームふじ基地では、2007年に深度3035メートルまでの氷床掘削に成功し、過去72万年に及ぶ気温や温室効果ガスなどの変化を示すデータを入手しております。これらは、地球環境史の解明に貴重な成果をもたらすと共に、気候変動問題の解決に向けた有意義な活用が期待されます。そのような意味で、南極はこれからの地球環境保護のあり方に指針を与える重要な地域だと考えます。

3.南極条約による平和利用と国際協力の原則

 科学的観測の分野においてこのような多大な実績があげられたのも、南極条約体制の下で「平和的利用」と「科学調査の自由と国際協力」との基本原則が確立された故であると考えます。南極の利用が平和目的に限定されたことで、南極が科学的調査を含む平和利用の場所であることが明確になり、南極における各国間の国際協力のために不可欠な信頼醸成が促されたのではないでしょうか。

 我が国は、原署名国の一国として南極条約に署名し、今日まで、南極条約協議国としての責務を果たしてきました。今後とも、南極の平和利用、科学調査の自由を堅持するため、南極条約協議国の一員として着実に責務を果たすと共に、積極的な取り組みを進めていきます。

4.南極観光問題

 南極における今後の活動を考える上で、最近観光問題が注目されていると承知します。南極観光は、科学的調査活動の場としての南極の価値や南極環境に悪影響を与えないように責任を持って行われなければならないと考えています。本来守られるべき南極環境や科学調査の場が観光活動によって破壊されることは避けなければならないはずです。他方、南極観光は、南極に対する一般人の意識向上や環境学習の機会を提供しているのも事実であり、それ自体は人類にとって有益な活動であります。

 我が国は、「環境保護に関する南極条約議定書」に定められた事項を国内で実施するために、1997年に「南極地域の環境の保護に関する法律」を整備し、南極地域における環境保全を促進しています。

 今後とも、我が国は南極の観光活動に対する必要な規制に関する議論に誠実に対応していく考えであり、客観的かつ科学的な予測と評価に基づき、活動の形態や場所、時期等に応じた対応がなされるよう、議論に貢献していきたいと考えています。

5.北極評議会

 近年、北極海においては、気候変動により海氷面積の減少が進んでいます。これに伴って北極海の活用可能性が高まり、航路、資源開発、環境問題等に関する国際的な議論が高まっていると承知しています。

 貿易の大部分を海上輸送に頼る、四方を海に囲まれた「海洋国家」として、我が国は、これらの可能性に大きな関心を寄せています。また、特に、北極海洋環境汚染の危険については、国際的な環境問題に積極的に取り組む我が国として看過することはできない問題となりうるものであると考えています。

 よって我が国は、これらの問題をめぐる国際的議論に参画していきたいと考えており、近く北極評議会にオブザーバー参加申請をしたいと考えています。議長国であるノルウェーをはじめ、加盟各国の皆様には、ご協力方宜しくお願いします。

6.その他

 来月には、我が国の新しい砕氷船「しらせ」が就役します。新「しらせ」は、環境対策のための様々な設備を搭載しており、我が国の環境技術を代表する南極活動のモデルとなると確信しています。

7.おわりに

 南極は、特別な環境にある特別な地域であり、ここに集まった私たちは南極を守る特別な責任を負っています。このことを忘れずに、我が国は、今後とも南極条約の基本精神に則り、南極における一層の研究・観測及び環境保護の推進に取り組んでいく所存です。


<参考>

(北極評議会(Arctic Council))

 北極圏の8カ国(カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、米国)で構成され、北極圏に係る共通の話題(特に持続可能な開発、環境保護等)に関し、先住民社会等の関与を得つつ、北極圏諸国間の協力・調和・交流を促進することを目的として1996年に設立された政府間機関。北極圏に位置しない国はオブザーバーとして参加可能。アジアでは中国、韓国が常任オブザーバー資格を申請済み(本年4月末の閣僚会合において承認される見込み。)。

(我が国の北極観測)

(南極における観光)

(日本の国際極年(IPY)への取組)

(IPY期間中に我が国が取り組んだ主な研究)

《研究》
《アウトリーチ活動》
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