演説

浜田外務大臣政務官演説

2007東アジアラウンドテーブル
浜田外務大臣政務官挨拶

平成19年6月2日
於:立命館APU

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川口立命館総長、
カシム立命館アジア太平洋大学学長、
ご列席の皆様、

 ただいまご紹介にあずかりました外務大臣政務官の浜田昌良でございます。東アジアをはじめとする各国から来日された参加者の皆様に対し、日本国外務省を代表して心から歓迎申し上げます。また、川口総長、カシム学長をはじめ、この会議の開催に尽力された立命館及び関係者の皆様に深く敬意を表します。ここ別府は、外務省で私がご一緒させて頂いている岩屋毅副大臣の出身地ですが、副大臣は現在公務でアフリカを訪問中のため、こちらには私が代理で出席した次第です。また、この後基調講演をなされる広瀬勝貞大分県知事は、私が通商産業省に入省した際に人事を担当されており、大変お世話になった方でもあります。このような場でご挨拶させて頂き、非常に光栄に存じます。

 現在、東アジアは、歴史的に重大な転換点に立っています。地域協力が深化する端緒となった経済危機から今年でちょうど10年となりますが、急速な経済成長は、グローバル化の波とも相俟って、域内での相互依存関係をこれまでになく深化させています。貿易関係を例にとれば、東アジアにおいて域内の貿易が貿易量全体に占める割合は、1980年には33.6%だったのが、2004年には55.9%にまで上昇しております。これは、EUの65.7%には及びませんが、北米自由貿易地域(NAFTA)の43.5%を上回る緊密さであるといえます。また、インターネットや携帯電話の普及、日本のアニメや韓流ドラマに象徴されるポップカルチャーなどを通じ、域内各国の若者の間でのお互いへの親近感も増しています。観光を通じた人の移動も例外ではありません。ちなみに、ここ九州は、日本の中でも特にアジアとの関係が深い地域であり、九州を訪れる外国人のうちアジア人が占める割合は、全国平均よりも20%以上多くなっています。

 経済成長が人々の生活水準を大きく向上させ、東アジアは世界経済の成長センターに喩えられるようになった一方、この地域には様々な不確定要素も残されています。中国とインドという、人口がともに10億を超える二つの大国が同時に高い経済成長を遂げていますが、世界史的に見ても未曾有の地政学的変化が生じつつあると言えます。朝鮮半島や台湾海峡では、伝統的安全保障上の課題が依然として存在しているほか、近年は、鳥インフルエンザ、テロ、海賊、大規模自然災害といった、新しい種類の脅威も顕在化しています。東アジアにおいてASEAN+3、EAS、APECといった様々な地域協力の枠組が生起しているのは、こうした地域共通の課題を克服し、平和と安定を確保し、更なる繁栄を目指そうとする各国の努力の現れではないでしょうか。

 地域協力の促進を通じて東アジアの長期的な平和と繁栄を確保する上で重要なポイントとなるのは、この会議のテーマでもある「多様性」です。政治・経済体制から文化や宗教に至るまでの様々な面における多様性は、地域の不安定化の要因でもある一方、活力の源泉ともなり得るものです。この所与の条件でもある「多様性」を肯定的に捉えていくことが、本日の議論の出発点にもなり得るのではないでしょうか。換言すれば、「多様性」の中からいかに発展のエネルギーを最大化し、かつ国家、社会、文化間の不協和音を最小化するかという視点が必要ではないか、ということです。具体的に三点ほど申し上げます。

 域内の多様性を強みとするためには、第一に、地域協力にメンバー構成や組織の面ではじめからあまり固い「枠」をはめないことが重要です。対処すべき課題に応じて、関係国が各々の持ち味を活かして地域の発展のために貢献できるような、柔軟性の高い秩序を構想していかなければならないと考えます。日本が、APEC、ASEAN+3、東アジア首脳会議(EAS)をはじめとする様々な地域協力枠組みの発展に力を注いでいるのも、多様な課題の解決に最も資する「機能的」アプローチを重視しているからです。この点で、本年1月にフィリピンのセブで開催された第2回EASにおいて、エネルギー需要が急増する中国やインド、石炭やウラン等のエネルギー資源の主要生産国である豪州も加わって、地域共通の課題であるエネルギー安全保障が首脳間で集中的に議論されたことは、重要な進展であります。日本も地域全体の成長に責任を有する国として、EAS参加国における省エネの推進などに具体的支援を提供しています。

 一方、第二の点として、多様性の中での安定を確保するためには、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値を意識的に域内に定着させ、また、行政や軍事面での透明性を高めていく努力が必要であると考えます。これはもちろん、冷戦時のイデオロギーの対峙のようなことを考えているのではなく、日本が戦後の成功経験をASEANの原加盟国を中心に、ODAや海外直接投資といった手段を通じて分かち合ってきたことの延長線上にあります。麻生外務大臣が昨年11月の政策演説で打ち出した「自由と繁栄の弧」の形成という目標も、まさしくそうした取り組みの一環であります。そうした観点から言えば、ASEANが、より自由で繁栄した地域を実現するための「憲法」ともいえる「ASEAN憲章」の作成に取り組んでいることは、非常に勇気づけられる動きと言えます。

 そして、第三に、多様性の中から共同体意識を少しずつ涵養していくためには、若い世代の人々が地域内での活発な交流を通じて、相互に理解を深め、親近感をもつことが不可欠です。安倍総理は、第2回EASにおいて、今後5年間、毎年6,000人のアジアの青少年を日本に招く「21世紀東アジア青少年大交流計画」を発表しました。こうした大規模な青少年交流を通じて、日本は、アジアの強固な連帯の基盤づくりに貢献していきたいと考えています。

ご列席の皆様、

 東アジアは、欧州に比べても極めて多様性の高い地域です。その多様性を活力として地域の一層の繁栄を実現するためには、今申し上げた3つの点に基づく予見可能性と安定性を確保することが不可欠です。相互理解と共通利益の拡大に寄与する地域共同体の形成に向けて、日本としても努力を惜しまない考えです。このラウンドテーブルの開催に際しても、ASEANの統合、ひいては東アジアの地域統合に寄与するものとして、日本政府がASEAN事務局に拠出した「日ASEAN統合基金(JAIF)」を通じて支援させて頂いたことを光栄に思います。

 最後になりましたが、各国からお越しの参加者の皆様には、近年韓国や台湾をはじめアジア各国から多くの観光客が訪れ、日本でも有数の人気である別府温泉にも是非挑戦頂くとともに、今回の滞在を通じて日本の伝統文化や一般市民の生活にも触れて頂ければ幸いです。このラウンドテーブルでの議論が、東アジアにおける持続可能な機能的協力を基盤とする「開かれた地域統合」の実現に向けて実りあるものとなることを祈念して、私の挨拶とさせて頂きます。ご静聴ありがとうございました。

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