平成19年3月12日17時00分、於:ジュネーブ
議長、人権高等弁務官、ご列席の皆様、
日本国政府を代表して、この第4回人権理事会においてステートメントを行うことは、私の喜びとするところです。まず、人権理事会初代議長という重要かつ困難な責務を担われているデ・アルバ大使の努力に敬意を表します。
また、アルブール人権高等弁務官及び同事務所の活動を評価するとともに、本年1月、アルブール高等弁務官を日本に迎え、建設的な議論を行えたことを嬉しく思っています。
議長、
我が国は今、外交政策に新たな柱を加えました。昨年11月、「自由と繁栄の弧」と題する演説の中で、麻生外務大臣は人権や法の支配、民主主義といった普遍的価値をこれまで以上に重視し、特に、ユーラシア大陸の外周に沿った一帯でこうした基本的価値を基礎とする豊かで安定した地域が育まれることを支援していきたいと表明しました。これは、基本的人権が保障された、民主的な制度の下で、国民ひとりひとりが自由に自己を実現し、幸福な生活を送ることができる人間の安全保障が実現した社会こそが、政治的に安定し、経済的に繁栄するという、日本の経験から得た教訓に基づくものです。
議長、
我が国は、これまで近代科学技術文明のみならず人権や民主主義といった価値を受容し、根付かせ、血肉とすることで、豊かで平和で自由な社会を実現しました。そして、この経験を、今まさに人権・民主主義が根付こうとしている各国と共有し、平和で安定した国際社会の形成に、これまで以上に貢献していきたい、その思いこそが、今般の新しい外交方針に我々が込めたメッセージであります。もちろん、これは、価値観の押しつけを求めるものではなく、各国のオーナーシップを重視しつつ、各国の文化や歴史、発展段階の違いに配慮するものです。我々は、マラソンの先頭をぐいぐい引っ張る「先頭ランナー」としてではなく、若い民主主義国と相並び、共に駆けるランナーとして、例えばその国の人権状況の改善、民主化の推進といった普遍的価値の実現に向けて、共同作業を行いたいと考えているのです。
議長、
我が国は、こうした普遍的な価値を重視した外交の実践の一環として、今月、国連民主主義基金にはじめて1000万ドルを拠出しました。この基金への拠出を通じて、民主主義を根付かせるための国際社会の努力へ寄与していきたいと考えています。
議長、
国際社会においては人権の主流化の動きが着実に進行しております。我が国が掲げる普遍的な価値を重視した外交は、こうした国際社会の流れと軌を一にするものでもあります。一方で現在、人権理事会は国際社会が託した期待に応え得る体制を整えられるか否か、極めて重要な局面にさしかかっております。人権理事会は、現場での人権状況の改善に資する、現実的かつ実効的なものであるべきです。我が国はその機構造りの議論に積極的に参加していく考えです。具体的には、人権理事会の重要な柱の一つとなるべき普遍的定期的レビュー(UPR)は、平等で効率的な、しかし同時に実効性のあるものとすべきです。「対話と協力」を基本としつつも、協力を拒否する国や継続的な人権侵害等種々の状況にも対応できるよう、適切なフォローアップ・メカニズムを備えた制度とすることが不可欠です。もし人権理事会が実効的な手段を欠くようなこととなれば、機能後退を招き、国連の人権分野での中核的組織としての信頼を損ねることにもなりかねません。
議長、
同様の観点から、我が国は、これまで国際社会が培ってきた国別人権状況決議及び国別報告者制度は欠くことのできない手段の一つと考えます。「対話と協力」のアプローチが機能しない深刻な人権侵害については、状況に機敏かつ柔軟に対応するための方策を確保することが重要です。例えば、北朝鮮人権状況に関する特別報告者は北朝鮮が同報告者の受け入れを拒否する中、真摯に北朝鮮の人権状況の改善に取り組んでいます。北朝鮮においては、重大な人権侵害が継続しており、北朝鮮による日本人を含む複数の国の国民を対象とする拉致問題は未解決のままです。北朝鮮当局は、かつて我が国に対して日本人を拉致した事実を認めている一方で、12名の安否不明の拉致被害者に関し、被害を受けた家族の悲しみにもかかわらず十分な情報を提供していません。3月7日、8日に行われた第1回「日朝国交正常化のための作業部会」においても、北朝鮮は、拉致問題解決に向けた誠意ある対応を示しませんでした。このような北朝鮮の姿勢は遺憾です。我が国は改めて北朝鮮に対して、拉致被害者全員の安全確保、即時帰国、真相の究明、拉致実行犯の引き渡しなどを求め、拉致問題解決に真剣に対処するよう強く求めます。
昨年国連総会で採択された「北朝鮮の人権状況」決議では、外国人の拉致問題は、他の主権諸国家の国民の人権を侵害する、国際的な懸念事項とされています。北朝鮮による外国人の拉致問題の解決には、国際社会が連携・協力し、一致して解決を求めていくことが必要です。
私は、本年2月にパリで開催された署名式で、強制失踪条約に署名しました。57ヵ国による本条約への署名を契機として、拉致を含む強制失踪問題の解決に対する国際社会の関心が更に高まることを期待します。
議長、
本日、この議場において、拉致被害者のご家族の代表者が審議を傍聴していることを申し上げたいと思います。我が国は、人権理事会が彼らの切なる願いへの支援となることを改めて強く望みます。
議長、ご列席の皆様、
我が国の人権外交は、「対話と協力」と「社会的弱者の保護の視点」の基盤の上に成り立っています。我が国は、まず、全ての人権理事会のメンバーが粘り強く対話を通じて、受け入れ可能な形で人権理事会の組織・運営に早期に合意できることを切に希望します。第2に、我が国は冒頭に述べた新たな外交指針に基づき、人材育成といった長期的視点も踏まえ、各国との共同作業を通じ幅広い協力に取り組んでいきます。第3に、我が国は障害者権利条約の採択や児童兵に関する政治宣言の発出等最近の進展も踏まえ、様々な分野で人間の安全保障の視点を活かしつつ、社会的弱者の保護とエンパワーメントに取り組んでいきます。ハンセン病差別の問題はこれまで人権小委員会で議論されてきましたが、今後も人権理事会で取り上げて行くべき問題と考えます。
結語として、我が国は、人権理事会が世界に人権促進の新たな時代を担う礎を築こうとしている重要な試みに対し、ここにお集まりの皆様と協力して、建設的な役割を果たしていく決意を改めて表明致します。
ご静聴ありがとうございました。