演説

山中外務大臣政務官演説

無形文化遺産保護条約発効記念シンポジウム
山中大臣政務官挨拶

平成18年8月23日 18時30分~
於:丸ビルホール

(写真)山中外務大臣政務官

 松浦ユネスコ事務局長、白石ユネスコ・アジア文化センター会長、ご来場の皆さま、

 多数の国々とその専門家たちの情熱により、無形文化遺産保護条約が作られ、今年の春に発効したことを、外務省の代表として、そして日本人の一人として、大変うれしく思っております。

 無形文化遺産、と、ややかたくるしい言葉でひとくちに言っておりますが、それは何かと言えば、私たちが今話している言葉であり、伝統的に受け継がれてきた音楽や踊り、お芝居であり、また、様々なモノを生み出す職人の手が伝えるわざです。どれも長い長い時間をかけてつくられてきたものです。私たちは誰か、という、アイデンティティの土台にあるものです。一人ひとりにとっての血であり、生きていく糧なのです。それほど根源的なものでありながら、手でさわることが難しいものですから、伝え手がいなくなれば永久に失われてしまいます。

 専門家によれば、世界で話されている言語は約6千にのぼりますが、その約半数が、近い将来に消滅する危険があると推測されているそうです。例えば、ある小さなコミュニティで話されている独自の言語があるとします。その国の都市化が進み、人々が村から大都市に移り住むようになると、若い世代から徐々に大都市の標準語を使うようになるでしょう。やがては、以前話されていた言語は失われ、同時に、その言語が伝えてきた豊かな口承の伝説や詩などの周辺文化も失われる、ということが、今この瞬間にも世界のどこかで起きているかもしれません。

 幸い、私たち日本人は、半世紀以上も前から、歴史的な建物などのいわゆる有形の文化財だけでなく、無形の文化財も法律で大切に保護してきました。今度この無形文化遺産条約を作るにあたっても、日本は条約交渉をリードしてきましたし、1993年からユネスコに無形文化遺産保護を専門にした日本信託基金を作り、世界各国の舞踊や音楽、あるいは工芸技術に対して支援してきています。例えば、「クティヤタムのサンスクリット劇」は、実に2000年以上も続くインドで最も古い劇ですが、後継者不足に直面しています。そこで、記録映画を作成したり、若い俳優を訓練したりするプログラムを行いました。

 条約が発効した今、具体的にどんな方法を用いて世界の無形文化遺産を保存していくか、条約の締約国が決めていく必要がありますが、無形文化財の保存にかけては、私たちの国が最も豊富なノウハウを持っています。今年の6月に開かれた、無形条約の第1回締約国総会で、条約の実際の運用についてこの先責任を持つ政府間委員会のメンバーが決まり、日本はその一員に選ばれました。来年には、この委員会を日本で開きたいと考えています。私たちのノウハウを、これまで以上に様々な形で世界の無形文化遺産保護に役立てていく、そういう貢献ができるのです。また、世界各国からもそれを期待されています。

 文化を通じた外交は、日本のお金とモノだけではなく、日本人が昔から持ち続けてきた知識と技術、そして心を世界中に届けることができるという素晴らしい面を持っています。今日のシンポジウムが、私たち自身がそのことをもう一度考える契機となることを願って、ご挨拶の言葉とさせて頂きます。

このページのトップへ戻る
政務官演説平成18年演説目次へ戻る