平成18年3月1日
外務省を代表してご挨拶をさせて頂きます。本日、国際的に評価の高いエネルギー関連機関から中国、インド、ロシアのエネルギー安全保障政策に関する4名の専門家にはるばるお越し頂き、また、各国大使館、多くの企業・団体、研究所などからご参加を頂いて、外交とエネルギー安全保障に関するセミナーを開催できますことを何より嬉しく思います。
我が国のエネルギー自給率は、原子力を含めても約16%程度に過ぎません。エネルギーの安定供給を確保することは、国家の安全保障に直結するという認識があります。我が国の外交政策を考えるにあたり、ここが常に一つの前提になります。
こうした認識に基づき、第1に、我が国は世界のエネルギー生産国及び消費国双方との友好関係の維持に努めております。世界のエネルギー市場が統合の度合いを高める中、安定したエネルギー市場を維持することは、消費国、生産国双方の利益につながるという認識のもと、二国間、多国間の対話を促進しています。アジア地域では、中国、インド、ロシアが、いずれも重要な対話のパートナーです。
第2に、エネルギーと環境の分野において、持続可能な開発を目指し、我が国自身1950年代及び60年代の公害問題や1970年代の石油危機を克服した経験を活かして、省エネやエネルギー効率の向上、太陽エネルギー等の再生可能エネルギーの開発・普及のための取組みに貢献しています。
我が国のエネルギー効率は、GDP当たりの一次エネルギー消費量で、OECD諸国平均の2分の1、世界全体平均の3分の1となっています。また、経済発展の過程で招いた公害への反省から、環境にやさしいクリーンな技術の開発に向け努力し、GDP1単位当たりのCO2排出量も、日本は世界で最も少ない国となっています。こうした経験や技術を活かし、我が国は開発途上国に対して、この分野の技術のみならず、制度や人材育成の面での協力を行っていきます。
既に例えば中国に対しては、クリーン・コール・テクノロジーや、環境にやさしい天然ガス供給施設の供与、省エネルギー関連の技術協力を行ってきました。また、インドや東南アジアに対しては、エネルギー効率の高い発電所の建設、森林保全等を通じたエネルギー・環境協力を実施してきました。今後とも、これらの分野で可能な協力を維持・拡大することは、我が国のみならず、この地域、ひいては国際社会全体の利益につながると確信しています。
第3に、日本には「備えあれば憂いなし」との諺がありますが、エネルギー安全保障外交においても、「国際エネルギー機関」(IEA)加盟国による石油備蓄の協調的放出制度があり、我が国は、この制度を積極的に支持してきています。昨年、米国におけるハリケーン・カトリーナの被害が国際石油市場に与える影響が懸念され、IEA加盟国が備蓄原油放出等の協調行動をとり、国際石油市場の安定化に寄与したのはご記憶に新しいでしょう。今後、緊急時における各国の協調行動がより一層機動的にとれるよう、体制を整備していく必要があります。
エネルギー需要の拡大や近年の原油価格の高騰を背景として、エネルギー安全保障の重要性はこれまで以上に高まっています。本年初めには天然ガス価格を巡るロシアとウクライナの交渉上の対立により、欧州地域へのガス供給の不安が高まりました。
また、最近ではイランの核問題が国際社会の深刻な懸念を呼んでいますが、イランは世界第2位の石油埋蔵量を有する資源大国であり、我が国にとって第3位の石油輸入元です。したがって、イランの核問題の深刻化は、石油の安定供給の観点からみても我が国を含む国際社会にとって大きな懸念です。我が国は、イランが核問題に関する対応ゆえに国際社会から孤立することがないよう、あらゆる機会に働きかけを行っています。
これらの出来事が示すように、世界のエネルギー市場は一体化の度合いを高めています。エネルギー安全保障の強化は、一国のみの努力で得られるものではなく、各国が応分の責任を果たすとともに、国際的協力を進めることが不可欠であると思います。
世界的な石油・天然ガスの大供給国であるロシアは、本年7月のG8サンクトペテルブルク・サミットの議長国として、エネルギー安全保障を主要テーマの一つに掲げております。また、アジア地域の主要なエネルギー消費国である日本、中国及びインドは、世界全体の消費量の2割を占めるに至っております。中国及びインドでは、人口増加と急速な経済成長を背景に今後も高いエネルギー需要が見込まれています。しかし、ロシアのGDP当たり一次エネルギー消費量は日本の20倍、中国及びインドについては日本の10倍の消費量であり、環境への影響やエネルギー効率の向上が重要な課題となっています。中国及びインド、そしてロシアのエネルギー政策は、世界のエネルギー安全保障、なかんずく我が国のエネルギー安全保障にも大きな影響を与えることから、これらを十分に把握した上で、先に述べたように、対話、省エネ・エネルギー効率の向上の為の協力、緊急時の対応等を強化し、国際的な協力を推進していきます。
このような状況において、主要なエネルギー生産国であるロシア、及びアジア地域の主要なエネルギー消費国である中国及びインドのエネルギー安全保障政策の現状と展望に関するエネルギー安全保障セミナーを実施することは、まさに時宜を得たものと考えております。
4名の専門家の皆様からの基調発言を受け、本日ご参加頂きました皆様と我が国を含む地域全体のエネルギー安全保障に関する自由闊達な意見交換を行い、今後、各国の外交政策の中で、エネルギー安全保障をどのように考慮して行くべきかについて様々なアイデアが交換できれば有益であると考えております。
改めて、遠路はるばる日本にお越し頂きました専門家の皆様に御礼申し上げるとともに、本日ご参加頂きました皆様にとって有意義なセミナーとなりますことをお祈り申し上げます。ご静聴ありがとうございました。