演説

伊藤外務大臣政務官演説

第3回国連改革に関するパブリックフォーラムにおける
伊藤外務大臣政務官開会挨拶・キーノートスピーチ

平成18年7月25日

(写真)伊藤外務大臣政務官

おはようございます。第3回国連改革に関するパブリックフォーラムに際し、私から一言ご挨拶申し上げたいと思います。

世界の平和と繁栄の実現に向けた国際社会の協力の中心的役割を担う国連は、地球市民である皆様一人ひとりの理解と支援によって支えられています。国連が現在の国際社会の実情に即した実効的・効率的な組織になるためにいろいろな改革が進められていますけれども、国連改革に関する政府と市民社会の間の対話促進を目的として、昨年8月及び本年2月に引き続き、今日ここに、多くの皆様の出席をもって、第3回「国連改革に関するパブリックフォーラム」を開催する運びとなりましたことを大変嬉しく思っております。

ちょうど10日前、国連安保理において、国連の歴史61年間で初めて、日本が主導した決議が全会一致で採択されました。日本の国連加盟から50年がたちましたが、国連の役割、またその中で果たすべき日本の役割というものも質、量ともに大きく変化しています。今、世界の人々・地球市民の関心は、環境、人権を含めた様々な意味での安全保障が確保された将来を作っていくために総合的な地球環境をどのようにすべきか、その中で国連がどのような主体的役割を果たすのか、また日本が、その国柄や歴史的発展段階にふさわしい役割をどのように果たしていくのかであると思います。安全保障という意味において、一つの転換点になったのが、先週土曜日の安保理決議の採択であろうかと思います。今日のパブリックフォーラムは、まさにこのような歴史的な転換点に行われる時宜を得たものだと思います。

本日のフォーラムが、国連加盟50周年を迎えた日本の国連に対する姿勢を再び見直し、国連改革において、開発、人権、軍縮、平和構築の各分野で日本がどのようなことができるか、またどのような役割を演じるかについて、NGOや企業を含む市民社会の皆様、国際機関関係者及び政府関係者が一緒に考え、議論を深める場として有意義なものとなることを期待します。

(日本の国連加盟50周年)

我が国は、戦後の荒廃から立ち直り、独立を回復し、ようやく1956年に国連に加盟したわけであります。これは、第二次世界大戦で辛酸をなめた敗戦国として、不戦と平和の希求の具現化を切望していた国民にとって、数年越しの国民の総意が結実した瞬間でもあったとともに、国際社会への真の復帰を示す象徴的意義を持つ出来事でした。そして、その50年後、日本が主導した安保理決議が全会一致で採択されたことは、まさにこの半世紀の間に、日本をとりまく国際環境や日本に対する国際社会の認識が大きく変容したことを示す証左ではないかと思います。

日本は、国連加盟以来、その成長に応じて、国連の場でも重要な役割を果たすようになりましたが、1986年以降、国連分担金の分担率で第2位となりましたが、安全保障理事会非常任理事国を1958年以降現在に至るまで9回、1960年以降、経済社会理事会理事国を15回に亘って務め、また、数多くの国連平和維持活動、人道的な国際救援活動、国際的な選挙監視活動に参加し、人間の安全保障を推進する等、財政的、人的、知的貢献を拡大し、国連において益々重要な役割を果たすようになってきています。

本年2006年は、日本が国連に加盟してから50周年にあたる節目の年です。日本がこれまで国連にどのように関わってきたのか、また今後どのように国連に関わっていくのかにつき、私たち一人ひとりが改めて考える大事な年です。

(国連をとりまく状況)

国連は、過去2度に亘る世界大戦という惨禍を再び繰り返さないことを最大の目標とし、世界の人々の理想や期待を背負って、1945年に51の加盟国により創設されました。国連創設から61年、我が国の国連加盟から50年を経て、その加盟国数は192ヶ国、約3.8倍になったわけでございます。そして、世界で唯一の普遍的かつ包括的な国際組織に成長しました。また、国連を取り巻く状況も大きく変わり、それとともに、平和と安全保障のみならず、経済、社会、環境等の分野においてもその役割を大きく増大させてきました。

国連は、東西冷戦構造の下で、その本来の機能を十分に発揮することができなかった時代を経て、冷戦終焉後の1990年代初頭には、国連はその機能を再び評価されるようになりました。しかし、その後、国際社会は、国内及び地域紛争の多発とそれに伴う難民・国内避難民の大量発生、大規模な人権侵害、環境問題、開発や貧困問題、HIV・エイズや新型インフルエンザ等感染症問題、国際組織犯罪、テロ、大量破壊兵器の拡散等のグローバリゼーションの進展に伴う地球規模の新たな諸問題に直面するようになりました。これに伴い、国際社会の安全保障の課題というのは、従来の「国家単位の安全保障」の考えでは不十分となり、個人一人ひとりに焦点を当てる「人間の安全保障」の考えに基づく取組が一層重要になるとともに、地域協力、国際協力及び市民社会との連携の重視が一層求められるようになりました。また、2003年に起こったイラク問題への対応は、国際社会の国連に対する信頼を揺るがしました。

現在直面しているこれらの課題に効果的に対処し、国際社会の期待に応えるためには、国連は、改革を通じてその機能を一層強化し、進化しなければなりません。我が国は、国連改革を包括的に捉え、安保理改革のみならず、行財政改革、開発、人権、平和構築等の課題についても国連の強化に向けて、これまでと同様、積極的に役割を果たしていく必要があります。

(国連改革の現状と我が国の取組)

昨年9月の国連首脳会合から早や一年近くが過ぎようとしています。昨年の国連首脳会合においては、安保理改革や行財政・マネジメント改革を含む国連改革、平和構築委員会及び人権理事会の創設、開発問題等が中心的な議論となりました。我が国からも小泉総理が出席して演説を行い、開発、平和構築やテロとの戦いに国連が指導力を発揮すべきであり、また、国連は今日の世界の現実を反映すべきであることを訴えました。より具体的には、安保理改革の早期実現、ミレニアム開発目標達成に向けた努力の強化とその実行の必要性、新たに創設された平和構築委員会への積極的参加を含め、平和構築の分野で日本として役割を果たす用意があること等を訴えたわけでございます。

これらを踏まえ、第60回国連総会においては、そのフォローアップにつき各国が努力を続けてまいりました。まず安保理改革については、我が国は、昨年、ドイツ、インド、ブラジルとG4案を推進し、安保理改革の機運を高めました。残念ながら具体的な決定には至りませんでしたが、国連加盟国の間で安保理拡大の必要性についての幅広い合意というものが維持されており、安保理改革の協議が続けられております。安保理改革の早期実現に向けて、我が国は、引き続き、より多くの加盟国から支持を得られる新たな案を模索し、今後とも改革実現に向けた努力というものを続けていきます。

平和構築委員会及び人権理事会については、我が国は双方のメンバー国に選出されました。国連の、紛争後の平和構築と復旧のための統合戦略の効果的実施、人権の主流化・人権問題への国連の対処能力強化に向けて、同委員会及び理事会の活動に積極的に参加し、建設的な役割を果たしていきます。

開発に関しては、我が国は、ミレニアム開発目標達成を含む開発課題の解決に向け、2009年までの5年間でODA事業量を100億ドル積み増し、「保健と開発に関するイニシアティブ」に基づいた50億ドルを目途とする保健分野への包括的支援、世界エイズ・結核・マラリア対策基金に対する当面5億ドルの拠出等、既に行ったコミットを着実に実施していく考えでございます。また、自然災害や鳥及び新型インフルエンザ対策についても、我が国の有する知見を活かし、引き続き積極的に貢献してまいります。

軍縮・不拡散については、2005年のNPT運用検討会議及び国連首脳会合の成果文書において実質的な合意ができなかったといういわゆる「2つの失敗」を受け、核軍縮に向け簡潔で力強いメッセージを伝えるべく「核兵器の全面的な廃絶に向けた新たな決意」と題した決議案を国連総会に提出しました。この決議案は過去最多の支持を得て採択されましたが、依然として軍縮・不拡散を巡る国際情勢は厳しい状況です。今後とも国際的な軍縮・不拡散体制の維持・強化のための様々な総合的な外交努力を行っていく考えです。

また、国連分担率の見直しについては、分担率が加盟国の経済情勢に即し、かつ国連における加盟国の地位と責任が適切に考慮された、より衡平かつ公正なものとなるようねばり強く交渉を続けています。マネジメント・事務局改革については、一つの区切りであった6月末までに十分な成果が得られなかったことは残念ですが、日本としても引き続き改革に取り組んでまいります。

(第61回国連総会の論点)

本年9月から始まる第61回国連総会においては、安保理や行財政改革を含む国連改革が引き続き中心的な課題となってまいります。これに加え、人権理事会や平和構築委員会の活性化、また、開発、人道支援及び環境分野における国連の事業活動のマネジメント強化を目指す国連システム一貫性の向上、国際移住と開発の問題等が主要な議題になると思われます。これらについても、我が国はより良い国際社会の実現を目指して積極的に貢献していく考えでございます。

また、今般の北朝鮮のミサイル発射問題は、私たちのみならず国際社会全体に大きな衝撃を与えています。これは、国連を中心として加盟国の互いの信頼と協力の下に進められている国際社会の平和と安定の実現への努力を水泡に帰すものです。私も11日間に亘り様々な交渉を精力的に行った国連安全保障理事会の会合において、北朝鮮の行為を非難し、各国、特に北朝鮮が取るべき措置を含む安保理決議1695が、中国、露を含む全会一致で採択されたことは、日本の外交に新しい1ページを開くものと思います。日本としては、引き続き国際社会と連携しつつ、北朝鮮に対し、国際社会の意思を示したこの決議に対して誠実な履行するように強く求めてまいりたいと思います。

(終わりに)

国連改革なくして世界の平和と安定はないわけでございます。日本は、国連加盟を果たしてから50年、戦後復興時に国際社会から支援を受け取っていた時代から経済大国へと成長し、民主主義・平和志向国家としての国柄や経験を蓄積してきました。二度と戦争への道を歩まないとの決意の下、日本はこれらの経験を生かして、国際社会のルールメイキングに一層貢献し、国連と協力して国際平和と安定を追求していかなければなりません。私たち一人ひとりにとってのより良い国連の実現を目指して、国連改革全般にわたって、政府、市民社会、企業の皆様が一緒になって考えていくことが重要であると思います。

本年、日本の国連加盟50周年を記念して、国内外において、様々な記念行事が実施・予定されております。各種セミナー、シンポジウムの開催の他、国連加盟日である12月18日には、外務省と日本国際連合協会共催で、国連加盟50周年記念講演及び記念式典の開催を予定しております。また、「日本と国連の50年」に関する書籍の出版、記念貨幣や記念切手の発行等も行われる予定でございます。これら各種記念行事を通じて、皆様が、国連及び国連に対する日本の取組について関心と理解を更に深めていただければ大変嬉しく存じます。

本日のご参加に感謝を申し上げ、本フォーラムが、国連加盟50周年を迎えた日本のこれまでの国連への貢献、現在の国連改革の現状と方向性につき皆様の理解や関心を一層高め、より良い国連の実現に向けて実り多いものになることを確信しつつ、私からの挨拶とさせていただきます。

ご静聴ありがとうございました。