演説

伊藤外務大臣政務官演説

文化遺産国際協力フォーラム懇親会・伊藤大臣政務官挨拶

平成18年7月5日(水曜日)18時~
於:キャピトル東急ホテル 紅真珠の間

(写真)文化遺産国際協力フォーラム懇親会・伊藤大臣政務官挨拶


 今から約60年前の1945年11月16日、ロンドンにおいて、国際連合教育科学文化機関・通称ユネスコの設立総会が開催されました。その場で、ユネスコにとっての憲法にあたる「ユネスコ憲章」が採択されましたが、そのユネスコ憲章前文に、次のような言葉があります。
 「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない。」
 第二次世界大戦を経験した国際社会が、文化や生活習慣が異なる各国国民同士がお互いをよく理解し、尊重することこそが平和をもたらすとの認識に立って紡ぎ出したのがこの一文と言えます。この言葉は、60年たった現在においても、文化面での相互理解が我々人類にとって如何に重要なものかを端的に示すものと考えます。
 しかしながら、昨今の世界情勢を見ますと文明間、宗教間、民族間の対立が深まっているというのが現状です。これは対立する者同士に相手の文化に対する理解が不足しているところに根本的な原因があると思います。そのような状況の中で、その国の文化を凝縮したエッセンスともいうべき文化遺産に関し、我が国がこれまで以上に積極的な国際協力に乗り出すべく、今国会で「海外の文化遺産の保護に係る国際的な協力の推進に関する法律」が成立し、あわせて文化遺産国際協力コンソーシアムが設立されたことは、世界平和の希求という理想の実現に大きな一助になると確信しております。この法律及びコンソーシアム設立に御尽力されました先生方に、改めて心から敬意を表し、感謝申し上げます。

 折しも先週、パリにあるユネスコ本部におきまして、無形文化遺産条約第1回締約国総会が開催されました。無形文化遺産条約は、すでに世界遺産条約により国際的保護の対象となっている、いわゆる有形の文化遺産や自然遺産のみならず、伝統的な音楽、踊り、演劇、工芸技術といった無形文化遺産も、これからは国際的水準で保存・振興していこうという考え方に基づき、本年4月に発効したばかりの条約です。有形の文化遺産と同様、その国民の歴史と伝統の象徴である無形文化遺産も保護していこうとする姿勢は、先ほど述べました国際的な相互理解の促進に、なくてはならない要素です。我が国は、1950年に制定された文化財保護法により、戦後の早い時期から有形・無形、両方の文化遺産保護に努めてきた、いわば文化財保護の分野における先進国であることから、ユネスコにおけるこの無形文化遺産条約の作成作業を主導してきました。このような我が国の貢献は、先週の締約国総会において、締約国の中から、条約の実際の運用について実質的な審議をしていく無形文化遺産委員国メンバーに選出されるという形でひとつの実を結びました。今後とも、国際的な無形文化遺産保護の分野において積極的な役割を果たして参ります。

 国際文化協力の推進は我が国の重点外交政策のひとつの柱であります。そして、日本国民の持つ伝統文化を大切にする心と、文化遺産の保護・研究分野での豊富な実績、そして高い保存修復技術をもって、人類共通の宝というべき世界各地の貴重な文化遺産を先頭に立って守っていく態勢が整いました。日本の心・知識・技術を結集し、具体的な国際的支援を如何に効果的に行っていくか、これから我々に課せられた使命は重く、かつ極めて重要なものであると認識しております。
 本日お集まりの先生方には、文化遺産国際協力についてどうぞこれからもよろしく御指導、御鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。