平成18年11月6日
於:京都大学桂キャンパス
おはようございます。外務大臣政務官の浜田昌良でございます。昨日はよく眠れたでしょうか? 京都はこの時期が一番良い時期と言われます。空気は澄み、紅葉も美しい時期です。しかし、京都は会議や旅行で来るところであって、住むには適していないと思います。夏は暑いし、冬は寒い、自分はここに5年間住みましたが、住み心地はあまりよくありませんでした。是非この時期の京都の美しさを逃さず、満喫していただきたいと思います。
今朝、新聞を読んでいますと、アジア・太平洋地域のダイナミズムを感じさせる記事を二つ読みました。一つ目は、読売新聞の社説ですが、ベトナムのWTO加盟を歓迎する記事です。ベトナムは、日本のODA最大の供与先であり、同国のWTO加盟はアジア・太平洋にインパクトを与えるものであり、この地域のダイナミックな経済の動きを促進させるものであります。
二つ目の記事は、日経の囲み記事ですが、11月のAPECで、アメリカがAPECワイドのFTA構想を打ち出すという記事です。
それはさておき、アジア太平洋地域から遠路、ここ日本の古都京都にいらっしゃった皆様を心より歓迎申し上げます。本日、皆様をお迎えし、「アジア太平洋の持続的成長に向けて」と題して、外務省と京都大学の共催で、国際会議が開かれるのは、私にとっては特に感慨深いものがあります。京都大学は、私の母校であります。専攻は建築であり、当時学生時代は、市民のニーズのあり方を把握するため、社会統計学の授業に出たりしました。30年以上経ちまして、政治家になりまして、現在は統計と言えば選挙の票読みなどですが、役に立っているかどうか分かりません。残念ながら全て忘れてしまいました。それはさておき、本日の国際会議を、このような素晴らしい会議場で開くことができたのは、京都大学のご厚意によるものです。この国際会議実現のために、京都大学から多大の御協力を頂いたことに、心より御礼申し上げます。有難うございました。
皆様ご承知のとおり、アジア太平洋地域が世界経済に占める重要性は、近年非常に大きなものとなっています。APEC地域のGDPは2005年には、世界経済の約56%を占めています。世界経済においてこのように大きな比重を占めるようになったアジア太平洋地域は、それに応じてどのような責任を負っているのでしょうか。私は、そのような責任としてここにありますように「持続的成長の確保」と、「透明性の向上」の2点を挙げたいと思います。
まず、持続的成長について、私の考えを述べたいと思います。
(1)ここで私は、持続的成長とは、(イ)経済活動の規模が拡大するという狭義の概念ではなく、(ロ)もっと人間生活をとりまく経済、社会的環境が維持、改善されることと捉えたいと思います。もっとロング・タームの経済発展を考えるには、そのほうがいいのではないでしょうか。それでは、持続的成長を達成するためには、何が必要でしょうか。
(2)まず、現在の世界においては、ヒト、モノ、カネあるいは情報が目にもとまらぬスピードで、しかも大量に国境を超えて移動しています。このような中、早い変化を的確に捉えリスクを回避することは大変重要です。アジアにおける金融危機やSARSといった衛生面の問題を思い起こすだけでも、この点の重要性は誰の目にも明らかだと思います。
(3)次に、環境、食糧を含めた資源、エネルギー、少子高齢化といった諸問題が、中長期的にこの地域の成長の制約要因となる可能性に留意しなければなりません。特に、日・韓・中において、これらの諸問題の中長期的な趨勢を把握し、適切な対応を取っていくことも大変重要です。
(4)今申し上げた(イ)短期的なリスク回避、及び(ロ)中長期的な成長阻害要因への対応は、いずれが欠けても、持続的成長を達成することはできません。そしてリスクを回避し、成長阻害要因への対応をとるためには、その前提として、まずは、経済、社会に関する情報を正確に把握する必要があります。
(1)さて、次に、アジア太平洋地域経済の透明性の向上について、私の考えを述べたいと思います。ここでいう透明性の向上とは、信頼性の高い、最新のデータや統計が、利用し易い形で、全ての人に提供されることです。信頼性は、データの収集、作成過程を専門家の間で吟味されることにより初めて得られるものでありましょう。また、データが存在していても、それが検索し易い形で提供されなければ、大多数の人々にとっては存在しないのと同様です。さらに、データは常に新鮮なものでなくてはならないことには多言を要しません。
(2)私は、アジア太平洋地域は、信頼性、利便性、迅速性という3つの要素を備えた正確なデータによって、自らの経済、社会の実態を正しく対外的に明らかにする責任があると考えます。それによって、この地域におけるビジネス活動が、十分な透明性と予測可能性の下で拡大できることになりましょう。例えばこれは、投資家の行動を思い浮かべて頂けると容易に分かると思います。
また、私が特に強調しておきたいのは、アジア太平洋地域の透明性の向上は、この地域が決して世界経済の混乱要因にはならないという決意表明であり、かつ、この地域が真に国際社会における「責任ある利害関係者」となるとのメッセージであるということです。
既に述べたとおり、「持続的成長の確保」及び「透明性の向上」いずれの視点からも、経済、社会状況についての情報を的確に把握し、正確な統計として整備し、地域レベルで共有することが必要不可欠です。このような情報共有の仕組み造りは、「言うは易く行うは難い」地道な作業となるでしょう。しかしながら、アジア太平洋地域が国際社会の福利に負っている責任の大きさを考えれば、それがいかにLong winding road であろうとも、それは今こそ、その作業を開始すべき時期ではないでしょうか。
今回の会議が、実り多いものとなり、アジア太平洋の情報共有メカニズム(Economic Information Sharing Mechanism of the Asia-Pacific : EiSMAP)の成功へとつながることを祈念しております。
私は、23年間経済産業省に勤めておりましたが、その際、液晶部品の工程間分業(日本→韓国→ベトナム)などを担当し、アジア太平洋地域の経済がお互いに影響を与えあっているということを知りました。
これから外務省は、本件EiSMAPの旗振りとなりたいと考えております。できれば2010年のAPECにおいてEiSMAPを正面から取り上げたいと思います。
なお、皆様の議論を拝聴したいと存じておりましたが、国会開会中であり東京に戻る必要が生じてしまいました。ここで失礼させて頂くことをお許し頂ければ幸いです。
ご静聴ありがとうございました。