平成18年1月18日
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議長閣下、各国及び国際機関の代表並びにご列席の皆様、
最近の鳥インフルエンザのアジア地域における蔓延と他地域への感染の拡大、更に人への感染例と犠牲者の増加は、憂うべき状態にあります。今後、人から人へ感染する新型インフルエンザが出現する可能性が高まっており、1918年のスペインかぜのように我々の経済活動その他の基礎的な活動に深刻な損害を与える可能性があります。その脅威にどのように対処していくかは、先進国であるか、途上国であるか、また政治・経済・社会システムの違いを問わず、我々すべてにとって喫緊の課題となっています。今日我々は、この場で示されているように、各国間での緊密な協力と協調という強力な武器をもって、新型インフルエンザの脅威に対処することができます。
日本が1999年に国連に人間の安全保障基金を設立して以来、我々は、様々な脅威に晒された個人及び地域社会の保護と能力強化を通じて、各人が尊厳ある生命を全うできる社会作りを目指す「人間の安全保障」に特に重点を置いてきています。ここで言う脅威の中には、鳥及び新型インフルエンザに代表される感染症が当然含まれます。この「人間の安全保障」の考え方に基づき、各国が連携して鳥及び新型インフルエンザの脅威と闘っていかなければなりません。今次会合は、人間の安全保障を世界に広めていくための我々の努力の一環と認識しており、開催のイニシアティブを取った中国政府、欧州委員会及び世界銀行に心から感謝したいと思います。
鳥及び新型インフルエンザの被害を最小限に食い止めるには、その発生を予防し、出現した場合に早期かつ効果的に対応するために最善を尽くす必要があります。そのためのキーワードは、「各国のオーナーシップ」、「住民一人一人の意識の向上」、そして「国際社会全体の連携」です。
第一に、各国が自国の現状に合った適切な対策を早期に講じるべく、オーナーシップを発揮することが必須です。必要に応じて関係国際機関を含む国際社会の知見、支援を得て、鳥インフルエンザの更なる拡大を抑え、また新型インフルエンザの発生に備えるための国家行動計画を策定することは、一義的には各国政府の責務です。いずれにせよ、各国の作業は、国際的な透明性を確保した形で進められる必要があります。ドナー側は、各国のオーナーシップを尊重しつつその能力強化を支援していくために、各国における現実のニーズとそのために割くことのできる財源との間のギャップを特定すべきです。
第二に、新型インフルエンザの脅威に対処するための措置は、脅威に晒された住民一人一人の意識を高め、究極的には、彼らが自らを護れるようにするものでなければなりません。都市部のみならず農村地域まで、正確な知識と衛生的な生活習慣を広めることによって、すべての人々が日々の暮らしの中で予防措置をとれるようにすることを第一に重視すべきです。これは、今後、新型インフルエンザが発生した場合に、これを可能な限り早期に検知し、地域社会の十分な理解と協力を得て封じ込めのための措置を効果的に実施する上でも不可欠です。こうしたアプローチは、先に述べた「人間の安全保障」の考え方に立脚するものです。
第三のキーワードである「国際社会全体の連携」については、詳しく述べる必要もないでしょう。インフルエンザは、容易に国境を越えて拡散する感染症であり、国際協調の下で、国際的な監視を効果的に行い、情報共有を図り、予防及び早期封じ込めのために限られた人的・物的資源を必要な場所に迅速に投入する必要があります。そのために、世界保健機関(WHO)、国連食糧農業機関(FAO)、国際獣疫事務局(OIE)等の関係国際機関の役割が極めて重要であり、各国がこれらの機関と緊密な協力を行うことが、最も効率的です。
これらのキーワードを踏まえ、我々は早急に対策を取らなければなりません。特に、対策の遅れている途上国においては、知見・物的資源の両面において国際社会の支援が必要です。本日プレッジされる資金は、専門的知見に基づく慎重な検討を経て、効率的に配分・使用されて初めて効果を持ちます。このため、我が国は先週東京で、アジアにおける新型インフルエンザへの早期対応に関する専門家会合をWHOと共催しました。その結果、アジア諸国、WHO及びドナーがそれぞれとるべき具体的な措置が明らかにされました。本日、ドナーからプレッジされる資金は、こうした専門的知見と相まって、真に有効な鳥及び新型インフルエンザ対策に結実すると信じております。
今日我々は、過去とは比べものにならないほど進歩した医学的知見・技術を享受しています。こうした人類の叡智を最大限活用し、国際社会が力を合わせ、鳥及び新型インフルエンザの脅威に対抗していこうではありませんか。最後に、本日、ここに参加されたすべての国・国際機関の代表が、この会議の成功に向けて積極的な貢献をされることを期待しまして、私の発言とさせて頂きます。