平成17年6月21日(火曜日)09時30分~
於:三田共用会議所
各国閣僚、国際機関、援助機関高官の皆様、ご列席の皆様、
本日ここに、保健関連ミレニアム開発目標(MDGs)に関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラムを開会できますことは、私にとりこの上ない喜びであります。また、この場を借りて、これまで共に準備を行ってきたアジア開発銀行、世界銀行、世界保健機関に謝意を表明します。
ご列席の皆様、
ご存知の通り、本年は、2000年の国連ミレニアム・サミットで国際社会が合意した国連ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けた極めて重要な年であります。7月の先進8ヶ国首脳会議、9月に予定される国連ミレニアム宣言中間レビューのための首脳会議など、MDGsに関する重要な会議が目白押しとなっております。
ミレニアム開発目標では、8つの目標のうち3つが母子保健や感染症対策などの保健関連の目標とされており、保健医療の改善は国際社会が達成すべき最大の課題の一つと位置づけられております。このことは、保健が、途上国において、個々人の福利厚生を促進し、社会や経済の発展を支える質の高い人材の育成に欠かせないものとして、開発の中心的な課題であることを意味しています。
今回のフォーラムで議論を行うアジア太平洋地域においては、経済成長を通じた貧困人口の削減が比較的順調に進んでいます。所得の向上に伴って、栄養状態、平均寿命、乳幼児死亡率等の保健関連指標についても、全般的に進捗が見られます。
その一方で、この地域には、保健MDGs達成に関しいくつかの克服すべき課題も存在しています。まず、保健サービスのアクセスと質の両面において各国間の格差が大きく、さらに一国内においても地域間格差、階層間格差、ジェンダー間格差等様々な格差が存在しています。また、アジア太平洋地域は、結核による死亡者が世界でもっとも多いほか、近年では、急激なHIV/エイズ感染者の増加、SARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザといった新興感染症の発生など、新たな脅威への対応にも迫られています。
本会合は、こうした地域が抱える課題をアジアの視点から考察し、保健分野における域内各国の成功例や失敗例を共有し、各国の努力や地域協力の一層の強化を図るものであり、保健MDGsを実現する上で重要な意義があるものです。
ご列席の皆様、
本会合においては、アジア太平洋地域が直面している課題について、「資金の確保と援助効果向上」、「能力開発を通じた保健システムの強化」、「分野横断的な取り組み」、「保健サービスへの平等なアクセスの確保」の4つのテーマに絞って議論を深める予定です。
アジア・太平洋地域諸国の多くは、援助依存度の高いサブ・サハラ・アフリカ地域とは異なり、持続的な経済成長や民間セクター資金の動員を通じ、開発に必要な資金の多くを国内資金で賄ってきました。こうしたアプローチは、我が国が援助を実施する上での基本理念の根幹を為すものであり、アジア太平洋地域のオーナーシップと自助努力を高く評価致します。このような持続的な経済成長があったからこそ、アジア太平洋地域においては貧困人口の削減などの成果を生み出しました。
我が国を含む国際社会は、こうしたアジア太平洋地域諸国の自助努力を積極的に支援して参りました。本日ここに参集したドナー国や機関は、この地域の援助の約8割を担っており、我が国の支援は3割以上にのぼります。
我が国は、2000年の九州・沖縄サミットの機会に発表した「沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)」において、その後5年間で総額30億ドルを目処とする協力を行う旨表明しました。2003年度までの4年間で、当初の予定を大幅に上回る41億ドルの支援を実施し、その多くをアジア太平洋地域に向けて参りました。
沖縄感染症対策イニシアティブは本年3月を持って終了致しましたが、我が国は、IDIの下での実績を踏まえつつ、この度新たに策定した「保健と開発」に関するイニシアティブを通じ、保健関連MDGsの達成に向けた取り組みを拡充していく考えです。
ご列席の皆様、
MDGsの達成は、資金の動員のみでは達成され得ません。戦後の貧困の中から立ち上がり、世界有数の長寿国の一つとなった我が国自身の開発経験を振り返ってみても、その成功を支えたのは資金だけではなく、保健従事者や地域住民の能力構築、行政と住民の効果的な連携などがありました。こうした自身の経験に基づき、我が国は、途上国の保健システムを支える人材の育成を重要視し、沖縄感染症対策イニシアティブの下、これまでに1万5千人以上に対し研修を実施して参りました。
また、我が国においては、母子健康手帳の開発・普及や、地域の婦人ボランティアの参加による住民主体の公衆衛生活動が、かつて、最低のレベルにあった乳幼児死亡率を急速に減少させることに大きな役割を果たしました。我が国の母子健康手帳は一年間の流・死産数推計30数万人、妊産婦死亡数5千人、早産に起因する乳児死亡数6万人という状況を改善するため、1942年にその原案が考案され、妊娠から出産、育児の健康記録として、また、妊娠や出産を通じた日常生活上の注意や育児の手引きとして、重要な役割を果たしました。この手帳制度により、妊産婦は自ら健康管理を行うようになり、以後60年間で日本の母子保健水準は大きく向上しました。
我が国は、こうした自らの経験に基づき、インドネシアや東チモールを始めとする途上国において、地域のニーズに合った母子健康手帳の開発と普及への支援を実施しています。このうち、インドネシアでは、我が国の支援により、母子健康手帳プログラムが政府の母子保健施策に組み込まれ、WHOを初めとする国際機関や他ドナー国、NGOとの連携により、26州において母子手帳を通じて母と子の健康の改善に大きな役割を果たしています。
ご列席の皆様、
保健MDGsの達成には、保健分野における取り組みを強化するのみならず、教育、水・衛生などの関連分野での取り組みに際して保健の視点を盛り込むなど包括的なアプローチが重要です。我が国においても、母子手帳の活用、学校保健、上水道の整備、保健医療制度の整備等、保健に関係する横断的な取組が、乳幼児死亡を激減させ、平均寿命を世界最高水準へと引き上げることに大きく貢献しました。また、教育セクターと保健セクターの効果的な連携の下、小学校を中心に行われた寄生虫予防活動も、寄生虫疾患の流行の制圧に大きな役割を果たしました。こうした我が国自身の経験に基づき、新イニシアティブの下、分野横断的な取り組みを積極的に推進していきます。
一国内において、地域、所得レベル、性別等によるある特定の集団が極端に遅れた状況であっても、国全体としてMDGsを達成することは可能です。しかしながら、そうした状況は一人ひとりの人間を中心に据える「人間の安全保障」の視点から看過できません。保健サービスのアクセスが十分でない地域や少数民族、女性などの社会的弱者の保健サービスへのアクセスの改善やエンパワメント等を通じ、途上国の保健分野に存在する各種格差の是正を支援して参ります。更に、我が国は、保健MDGsの達成にはジェンダー平等の実現やリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)の推進が不可欠であると考え、「北京行動綱領」や「カイロ行動計画」を再確認し、これらの完全実施に向けて、国際社会との連携を強化しているところです。
最後に、この会議で、保健MDGsの達成に向け、参加国や機関の間で経験や知見の活発な共有と議論が行われ、「地域協力」や「南南協力」が一層推進されることを期待します。
特に、グローバル化が進展する中、先進国を含む域内の全ての国の一致協力が不可欠である感染症対策等について、一層効果的な協力のあり方について話し合われることを期待します。我が国は近時のSARS重症急性呼吸器疾患症候群対策や鳥インフルエンザといった新興感染症の対策においてWHOやFAOなど関係国際機関と連携しつつ、様々な協力を実施して参りましたが、今後も引き続きこのような域内協力を推進していきます。
更には、本会合で導き出される効果的なアプローチや学ぶべき教訓が、国際社会がアジア・太平洋地域内のみならずサブ・サハラ・アフリカを含む他の地域の開発問題を考える上での有効な視点を与え、G8首脳会議や、国連ミレニアム宣言に関する首脳会議等への有意義な貢献となることを期待します。
この会議を通じてアジア・太平洋地域の保健MDGsへの取り組みが更に強化されることを祈念して、私の挨拶と換えさせて頂きます。
御静聴ありがとうございました。