オーストラリア連邦
豪州ダーウィン「イクシス式典」における安倍内閣総理大臣挨拶
(平成30年11月16日)
「サルベージ、サルベーション、魂の友人に」

(写真提供:内閣広報室)

(写真提供:内閣広報室)

(写真提供:内閣広報室)
スコット・モリソン首相,土地と水の,伝統的オウナーである,ララキア族の代表,ビル・リスクさん,INPEXの関係者の皆様,そして,お集まりの皆様,
イクシスLNGプロジェクトの本格スタートを,本日は,大いにお祝いしましょう。
400億米ドルという額は,日本企業の対外投資として,記録的。
海底パイプラインの総延長890kmは,いかにも壮大。
生産量の7割が日本向けで,それが40年続くという,頼もしい事業です。
この場をお借りして,北部準州政府,地元ダーウィンの皆様のご支援に,私からの,御礼を申しあげます。有難うございました。
日豪EPAを経て,TPP11へ。われわれの経済関係は,幅と深みを増しています。
協力を物語る例に,当地,北部準州における,ブラックタイガーの養殖があります。
また,褐炭で水素をつくり,途中でできるCO2を地中に戻しつつ,水素を液化して日本に送るという,日豪をつなぐ水素の流れが,ビクトリア州から始まります。
モリソン首相,皆さま,日豪の未来は,こうした胸躍る協力によって,これからもっと,豊かになります。
本日私は,当地の,戦没者慰霊碑を訪れました。
日本軍の空襲によって斃れた方,お一人,お一人の魂に,日本国総理大臣として,祈りを捧げることができました。モリソン首相,ご一緒くださり,有難うございます。
私はまた明日,伊124潜水艦と共に没した,日本海軍将卒の慰霊碑を訪れ,御霊に,黙礼を捧げるつもりであります。
慰霊の碑は,北部準州豪日協会の皆さんが作られたと聞きました。
なかんずくトム・ルイス博士は,今も艦内に眠る80名全員の氏名をご著書に記録して下さいました。
これらすべて,友情の証でなくて,なんでしょうか。
「日本に対する敵意は,去るべし。回顧を常とするよりも,未来に希望をもつがよし」。
モリソン首相,お集まりの皆様,
日本との関係再開を前に,こうおっしゃった,ロバート・メンジーズ首相の寛容は,いまも私の胸を打ちます。
1957年,当時日本の総理だった,また私の祖父に当たる,岸信介と,メンジーズ首相が,日豪通商協定を結んだところから,戦後両国関係の歩みは始まりました。
同じ年,一人の日本人がダーウィンに現れます。サルベージ会社を営む,藤田柳吾という人物でした。
日本軍が沈め,ダーウィン港に残っていた船の数々を引き揚げるため,大勢の作業員と一緒に,当地へやってきたのです。
引き揚げた船の一隻に小屋を建て,そこで質素に暮らしながら,彼らは黙々,仕事に励みました。
かたわら藤田氏は,船の金属から十字架を70あまりもこしらえ,近くの教会へ寄進しました。
藤田氏の献身を,当地の人たちは多としてくれた。程なくして芽生えたのが,互いに対する敬愛です。ほかならぬダーウィンで,最も早くから日豪の和解が始まったのです。
サルベージは,サルベーション(魂の救済)をもたらした。赦しがもつ力の偉大さに,私は,感動を禁じ得ません。
藤田氏が,サルベージした,その同じ港に,いま,わが海上保安庁の巡視船が初めて訪れ,停泊中です。ヘリコプター搭載,総トン数3100トンの「えちご」です。
偉大な太平洋国家,そしてインド洋国家でもあって,民主主義を尊ぶ豪州は,自由で開かれたインド太平洋の,平和と繁栄,法の支配を推し進めるうえで,日本が,敬愛してやまないパートナーです。
そのことを伝えに,「えちご」は,やってまいりました。
わたしたちの間柄は,今日,地域と世界の,繁栄と秩序を守り,育てていく,崇高な責任を共有する,魂の友人同士のそれとなりました。
日豪の絆をいっそう太くする,イクシスの始まりは,いかにも時宜にかない,シンボリックなうえにも,シンボリックではありませんか。
いまいちど,本事業の開始をみなさまとともに祝い,関係した,すべての方々のご努力に,心からなる敬意を表しまして,私からの挨拶といたします。
ありがとうございました。