寄稿・インタビュー

令和8年7月30日

 メディアへの露出は少なく、欧米ではあまり知られていない高市早苗総理は、控えめでありながらも影響力のある人物だ。世界第4位の経済大国のトップとして、日本の女性総理は、東京からワシントン、北京からモスクワ、そして平壌に至るまで、地政学的な再編の渦中で存在感を強めている——。『ル・ポワン』誌は、強い国がひしめくエビアンでのG7デビューを果たした総理の姿を追った。中国との対立、トランプ大統領との関係、ウクライナ戦争、そして日本を悩ませる問い——軍備増強が進む世界の中で平和主義の道を貫き通せるのか——について質問した。記者はこれらの質問——そして個人的な質問も——を投げかけた。高市総理はインタビューに応じた。

 総理にとって、フランスはどのような位置づけの国ですか。

 日本とフランスは、価値や原則を共有する「特別なパートナー」です。また、フランスは太平洋に領土を有する「インド太平洋国家」でもあり、多岐にわたる分野での協力が進展しています。

 私は本年4月のマクロン大統領の訪日や6月の「G7エビアン・サミット」の機会に、マクロン大統領と首脳会談を行い、安全保障、重要鉱物を含む経済安全保障、経済、科学技術、AI、原子力、宇宙等の分野における戦略的連携の更なる強化を推進してきました。引き続き、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現及び、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けて協力していくことが重要です。

 2028年に日仏外交関係樹立170周年を迎えることを見据え、政府から民間まで多層的な交流を通じて、両国の友好関係を一層発展させていきたいと考えています。

 G7エビアン・サミットは総理にとって初のG7でした。どのようなメッセージを発信されましたか。

 サミットは、米イラン間の覚書合意成立直後に開催されました。トランプ大統領を含むG7首脳が一堂に会し、中東情勢の今後の見通しとG7の役割について議論しました。ロシアによるウクライナ侵略が継続し、世界経済の不確実性が高まる中で、自由、民主主義、法の支配といった価値を共有するG7が、結束して国際社会の平和と繁栄のために行動することの重要性を確認できました。

 アジアから唯一のG7メンバーとして、私はインド太平洋の視点も含めて日本の立場と取組を積極的に発信しました。特に、現下の中東情勢の影響を最も強く受けるアジアの代表として、世界のエネルギー安全保障、とりわけ原油市場の安定に向け、G7として主導して取り組むべきだと強調しました。

 その観点から、「自由で透明なエネルギー貿易の確保」、「石油備蓄の強化に関する国際協調」、「生産国と消費国の連携強化」の3点を国際社会に呼びかけ、各国の賛同を得て、成果文書にも盛り込みました。日本は既に「パワー・アジア(POWERR Asia: Partnership On Wide Energy and Resources Resilience Asia)」の下で先陣を切ってこうした取組を進めており、これを広く国際社会へと広げていきたいと考えています。

 重要鉱物分野では、グローバルなサプライチェーンに影響を及ぼし得る輸出規制や経済的威圧について、G7が一致して深刻な懸念を表明しました。今まさに重要なのは、レアアースなどの重要鉱物について、特定国への過度な依存を減らし、代替調達先を拡大することです。日本は、2010年に特定国によるレアアースの供給制限を経験し、代替調達先の開拓にいち早く取り組んできました。また、他のG7各国にも供給源の多角化を呼びかけてきました。日本はG7の中で唯一、民生用途で重要鉱物の備蓄制度を有しています。今回のG7サミットで日本が提案した重要鉱物の「共同備蓄連携構想」を通じ、フランスをはじめG7各国に対し、日本の経験とノウハウを惜しみなく共有していく考えです。

 総理就任以来、中国との関係が緊張しています。この悪化をどのように分析しますか。

 私の就任以降も、日本の対中政策は一貫しており、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築していく方針です。中国は重要な隣国であり、日中間に懸案と課題があるからこそ、意思疎通が重要です。日本としては、様々な対話にオープンであり、様々なレベルで中国側と意思疎通を継続しています。今後も、国益の観点から冷静に、適切に対応していきます。

 台湾海峡の危機は日本に直接影響します。どのように備えていますか。

 中国による一方的な現状変更の試みへの反対については、米国、フランスとの間やG7の場を含め、これまでも様々な機会に確認し、対外的に発信してきました。台湾海峡の平和と安定は、国際社会全体の安定にとって重要です。台湾をめぐる問題は、対話により平和的に解決されるべきだというのが、日本の従来から一貫した立場です。こうした立場は中国側に直接伝えるとともに、関係各国の共通の立場として明確に発信しており、今後とも外交努力を続けます。

 日本はウクライナを支持する一方、ロシアとは海を隔てて隣接しています。現在のロシアとの関係はどうなっていますか。

 ロシアによるウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがす暴挙です。日本は、G7をはじめとする国際社会と緊密に連携し、ウクライナ支援と対露制裁を実施しています。6月のG7首脳会合では、ウクライナの「公正かつ永続的な平和」の実現に向け、引き続き協力していくことで各国首脳と一致しました。

 同時に、ロシアは日本の隣国であり、二国間関係を適切にコントロールしていくことも重要です。両国間の懸案は積み重なっており、適切な意思疎通が必要です。引き続き、我が国の国益に資する観点から、外交全体を通じて適切に対応していきます。

 戦後、日米同盟は日本の外交を大きく規定してきましたが、トランプ大統領はこの関係に不確実性をもたらしています。米国は依然として信頼できる同盟国ですか。

 米国は日本にとって唯一の同盟国であり、日米同盟は我が国の外交・安全保障の基軸です。国際情勢が激動し、ますます不確実性が増す中で、強固な日米同盟は、日本の国益の最大化のためにも、また国際社会の平和と安定のためにも不可欠です。こうした時期だからこそ、日米間で首脳同士の意思疎通を緊密に行うことが極めて重要です。トランプ大統領とは、強固な信頼関係の下で、安全保障、経済、経済安全保障など幅広い分野で、日米協力を具体的に進めていきます。

 同時に、国際社会の平和と繁栄に向け、米国がリーダーシップを発揮し、建設的な役割を果たすことが重要です。日本として、米国がその役割を国際的な連携の下で発揮できるよう、引き続き後押ししていきます。

 故・安倍晋三元首相を師と仰ぎ、貴総理も日本の軍事的自律性の強化を目指しています。日本は平和国家であり続けられますか。

 言うまでもなく、我が国の平和と独立は、我が国自身が、自らの判断と責任の下で守り抜いていくべきものです。安全保障環境の急速な変化に対応するため、我が国は主体的に防衛力の抜本的強化を進めるとともに、外交力、経済力、技術力、情報力、人材力を含む「日本の総合的な国力」を徹底的に強くし、自らの国を自らの手で守り抜くための「自律」を確保することが重要です。

 これは、我が国が、戦後一貫して歩んできた「平和国家」としての姿勢を終わらせることを意味しません。多くの欧州諸国と同様、自らを守り抜く力を持つことは、力強い外交の基礎となり、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の実現や、地域の平和と安定の確保への一層の貢献につながります。

 日本は、日米同盟を基軸に、自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値や原則を共有するフランスなどの国々と手を携え、分断と対立が進む世界を開放と協調へと導き、積極的な役割を果たしていきます。

 経済面では、IMFによれば日本はGDPで世界3位から4位に後退しました。不利な人口動態やエネルギー価格の高騰がある中で、日本経済を立て直す余地はどの程度ありますか。

 国際経済秩序の変化や不確実性の高まりを背景に、世界では、政府が一歩前に出て官民が手を取り合い、重要な社会課題の解決を目指す新たな産業政策が大きな潮流となっています。

 こうした中で、日本列島を「強く、豊かに」していくことが私の使命です。我が国は、技術革新力や労働効率性の面で他国と遜色はありません。不足しているのは国内投資です。私の政権は、行き過ぎた緊縮志向と将来への投資不足の流れを断ち切り、国内投資を徹底的にてこ入れします。

 そのために「日本成長戦略」を策定し、日本の成長に資すると見込まれる17の戦略分野を特定しました。官民投資額は、現時点で2040年度までの累計で370兆円超を想定しています。この文脈で、経済外交の取組も加速させ、同盟国との具体的な連携を進めていきます。

 野党は、外国人を差別する反移民政策を進めていると批判しています。どのように応えますか。

 日本は、国民と外国人の双方が安全・安心に暮らせる「外国人との秩序ある共生社会」の実現を目指しています。外国人を排除・差別することを目的とする政策は一切行っていません。排外主義とは一線を画しつつ、一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱には政府として毅然と対応し、国民の不安や不公平感を解消していくことが、秩序ある共生社会の実現には不可欠だと考えます。同時に、こうした取組は、日本で適法に暮らし、ルールを守っている大多数の外国人にも資するものです。

 福島の事故から15年、日本は原子力を再び推進しようとしています。原子力は日本に不可欠ですか。

 エネルギー政策の原点は、東京電力福島第一原子力発電所事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて原子力政策を進めることにあります。福島第一原発事故の教訓を踏まえ、二度と安全神話に陥らないとの決意の下で策定された「新規制基準」は、地震、津波、竜巻、火山などあらゆる自然現象に対して厳しい条件を課しています。政府の一貫した方針は、原子力規制委員会がこうした「新規制基準に適合する」と認めない限り、原子力発電所の再稼働を認めない、というものです。

 エネルギー自給率の低さや火力発電への高い依存といった課題を克服するには、原子力など「エネルギー安全保障」に寄与し、高い「脱炭素効果」を有する電源を最大限活用することが不可欠です。安全性の確保と地域のご理解を大前提に、原子力を活用していきます。

 若い頃、いつかご自身が日本初の女性総理になると想像していましたか。

 私は「内閣総理大臣」を志していましたが、「初の女性総理」を特段に目指していたわけではありません。ただ、日本初の女性総理となり、いわゆる「ガラスの天井」を一つ破ったことで、「勇気づけられた」という声をいただくことがあり、嬉しく、光栄に思います。

 英国のマーガレット・サッチャー元首相が貴総理のロールモデルの一人だというのは本当ですか。だとすれば、どのような点を尊敬していますか。

 サッチャー元首相が「政治家として、女性であることが有利だったか不利だったか」と問われた際に、「私はまず政治家である。そして最後まで政治家である。たまたま女であったにすぎない」とお答えになったことに、大いに共感を覚えます。私はシンポジウムで一度ご一緒したことがありますが、第一印象は「女性であることに甘えず、女性であることを捨てず」でした。 サッチャー元首相は「信念」を重んじ、果敢な政策判断を臆せず下してきた方です。「親しい友を作ることなく権力の頂点に登りつめた」「国民から愛されはしなかったが、尊敬された」と評されますが、お会いして納得しました。私自身も、日々の政治活動や内閣総理大臣としての執務において、少しでも彼女に近づけるよう努めています。

 挑戦しない国に未来はありません。守るだけの政治に希望は生まれません。若者が日本に生まれたことを誇りに感じ、「未来は明るい」と自信を持って言える国をつくりたい。これが、サッチャー元首相を尊敬する私の「信念」です。

 子どもたちには何を最優先で教えるべきだとお考えですか。

 先ほど「挑戦しない国に未来はない」と申し上げましたが、国や世界の将来を担っていくのは次世代です。子どもたちの「挑戦」する心の芽生えを大切にし、家庭や社会でこれを育んでいくことが重要だと考えます。自分はどんな価値を生みたいのか、どんな姿でありたいのか、人生で何を守り、何を成し遂げたいのか。その内なる声が社会の期待と合致したとき、人はそれを「志」と呼びます。子どもたちには、「難しいけれど一番やりたいこと、やるべきこと」と「それより少し簡単だけれど二番目にやりたいこと、やるべきこと」の二者択一を迫られたなら、前者を選んでほしいと願っています。

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