寄稿・インタビュー
岸田総理大臣対面インタビュー(ワシントンポスト紙 令和6年4月9日掲載)
「日本の総理、ホワイトハウスで日米同盟の強さを誇示する」
日本の岸田総理は 1963 年、わずか 6 歳のときに家族とともに東京からニューヨークに引越した。ニューヨークは地球の半周分も離れていて、限りない文化の違いがあった。
単一民族の日本出身の少年は、クイーンズの公立学校に3年間通った際、クラスメートの多様性と寛大さに衝撃を受けたが、その印象を岸田総理は60年経った今でも懐かしく思い出している。
岸田総理は今週の公式訪問で米国に戻る際、単に日本の総理としてだけでなく、日米同盟を最善の状態に導いた人物として、温かい歓迎を受けるだろう。
米国公式訪問に先立ち東京の公邸で行われたワシントンポスト紙との個別インタビューにおいて、岸田総理は、「世界は現在、ロシアのウクライナ侵略、中東のイスラエル・パレスチナ紛争、東アジアの安全保障環境という歴史的転換点に直面している」と述べた。「日米同盟の重要性と、今日の先行き不透明な国際社会において同盟がいかに強力であるかを世界に示すことが重要だ。」
バイデン大統領は水曜日に岸田総理をホワイトハウスに迎えて公式晩餐会を開く。岸田総理は木曜日に議会合同会議で演説する予定だ。いずれも日本の総理としては9年ぶりとなる。
今次訪問は、ますます激動化する東アジアの安全保障環境の懸念に縛られながら、両国のパートナーシップが拡大していることを強調するものとなるだろう。両首脳は、在日米軍と自衛隊の緊密な連携や防衛装備品の共同開発・生産等、新たな協力分野について話し合う予定だ。
首脳らは安全保障以外に、宇宙分野での協力、人工知能、世界的なサプライチェーン等についても話し合う予定だ。岸田総理はまた、最大の対米投資国としての日本の経済的重要性を強調するため、ノースカロライナ州にあるトヨタとホンダの新工場を視察する予定だ。
「訪問中、日米同盟は両国の指導者間だけではなく、議会間、政府間、多くの民間企業間、地方自治体間等でも形成されるものであることを強調したい」と岸田総理は語った。
こうした強調は、両党の議員や力のある全米鉄鋼労働組合からの反発を引き起こしている日本製鉄によるUSスチール買収計画をめぐる論争を間違いなく想起させる。
日本製鉄は雇用を削減しないと約束しているが、それでもこの取引は、USスチールが本社を置く重要なスウィングステートであるペンシルベニア州で火種となっている。岸田総理はバイデン大統領と本件について話し合う予定はないと述べた。
その他の摩擦点としては、米国の同盟国を苛立たせている600億ドルの米国の対ウクライナ支援策をめぐる議会の行き詰まりや、米国政府関係者が同盟の弱点と考えている日本のサイバーセキュリティ能力強化の必要性などが挙げられるだろう。そして両国の政府関係者は、予測不可能な米国大統領の復帰に備えて計画を固めることに努めるだろう。
日本は現在、米国政府関係者が「格子(latticework)」と呼ぶ、同志国間のグループを通じて中国に対抗する米国の戦略の中心にある。
この戦略を固める最新のステップは、木曜日に行われるバイデン大統領、岸田総理、マルコス大統領による初の三か国首脳会談となる。中国が南シナ海で攻勢を強め、海上の緊張が高まる中、フィリピン政府は日本や米国政府に近づくことになった。3首脳は海洋・経済安全保障を含む新たな措置を発表するとみられる。
しかし、今週の華やかな式典は主に岸田総理と、戦後長年の平和主義による制約を払拭するために岸田総理のリーダーシップの下で日本政府が行った劇的な変化を称賛するものになるだろう。
過去2年間、日本は防衛力を強化するために以前では考えられなかった措置を講じてきた。その中には、防衛予算を5年間でGDPの2%に増額し、世界第3位の規模にし、長距離ミサイルで敵基地を攻撃する「反撃」能力を獲得することも含まれる。
これらの動きは、日本が自国を守り、世界秩序の強化に貢献したいという願望の高まりを示している。ロシアによるウクライナ侵略以来、岸田総理は「今日のウクライナは明日の東アジアになるかもしれない」と繰り返し警告してきた。この侵略は、強力な対応がなければ中国による台湾侵攻を促し、アジア太平洋地域での戦争につながる可能性があるという日本国内の深い警戒を引き起こした。
もしロシアが勝てば、「たとえ国際法に違反したとしても、武力が実際に利益をもたらすことができることを示すことになるだろう。もしそうなら、東アジアはどうなるだろうか?いかなる国も誤ったメッセージを受け取るようなことがあってはならない」と岸田総理は語った。
岸田総理は2023年にキーウを訪問し、ロシア軍により民間人が虐殺されたブチャで被害者らと話をしたことを振り返り、「残虐行為に憤慨した」と述べた。
「昨年3月のキーウ及びブチャ訪問は私に非常に大きな影響を与えた」と岸田総理は語った。 「訪問を通じて実際に戦争の厳しく悲劇的な現実に触れたことで、可能な限り早期にウクライナにおける永続的平和を追求する決意をさらに強めた。」
穏やかな態度は劇的な変化とは裏腹に
こうした劇的な変化を乗り越えて日本を導いてきた男は、決して劇的ではない。温和な態度の指導者は、あらかじめ用意されたトーキングポイントから逸脱することはほとんどなく、伝統的な政治キャリアを歩んできた。
東京に住んでいた幼少期、岸田総理は毎年夏を家族の故郷である広島で過ごした。彼は祖母や他の生存者から核による惨状の計り知れない恐怖についての話をよく聞いた。
66歳の岸田総理は、最も記憶に残る功績の一つとして、2016年のオバマ大統領の現職米国大統領として初めての広島訪問を外務大臣として仲介したことを挙げた。現在、岸田総理はG7首脳を2度この地に迎え、「核兵器のない世界」という岸田総理が頻繁に語る夢に注目を集めている。
「多くの指導者はこのこと(核軍縮の必要性)を頭では理解しているが、真剣かつ具体的な行動を起こすためには、悲劇的で厳しい現実を実際に自分の目で見て、心で感じることが重要だ」と彼は言った。
岸田総理の政治家への道は日本ではよくあることだ。彼は議員だった父と祖父の足跡をたどった。
彼は父親の選挙運動を手伝い、腕を磨いた。岸田総理は3世代の中で最も高い政界での肩書きを持つに至ったが、公務の基本的価値観を教えてくれたのは父親のおかげだという。
1992年に父親が亡くなった後、岸田総理は広島で議席を獲得し、2021年10月に首相に就任するまで上り詰めた。
外交は、岸田総理の在任期間の中で数少ないスキャンダルに無縁な明るい点の一つだ。国内では、岸田総理の与党自民党は、首相としての将来を脅かす巨額の政治資金スキャンダルを含む問題に陥っている。岸田総理とその内閣に対する支持率は歴史的な低さである。
安倍元総理は、日本が世界の舞台でより大きな役割を果たすことを期待して、日本の積極的な外交・防衛政策の基礎を築いた。しかし、その計画を実行に移したのは岸田総理であり、その理由の一つは岸田総理が安倍氏ほど意見が分かれる(divisive)人間ではないことだと、多くのアナリストは指摘する。
ダニエル・ラッセル元国務次官補(東アジア・太平洋担当)は「彼は安倍革命の重要な要素のいくつかを取り上げ、それを巧妙かつ効果的な方法で前進させた。安倍元総理にはできなかったことを彼はできた」と語った。「彼はハト派の政治理念とオーラを持っているが、それが実際に意味しているのは、彼が安倍元首相とは違った形で信頼されているということである。…それは大きな資産であり、彼はそれを本当に機敏に活用している。」
これまでの彼の任期で最も劇的な瞬間の一つは、2022年7月に日本で最長の在任期間を誇る安倍元総理が暗殺されたことだった。1年後、岸田総理を襲おうとした男がいた。どちらの場合も、両政治家は遊説中だった。そして、どちらの場合も岸田総理は民主化プロセスが暴力的な攻撃によって妨げられることはないと述べ、選挙活動の即時再開を主張した。
今回の訪問で米当局者らが称賛する可能性が高い分野の一つは、岸田総理が韓国の尹大統領と協力して12年間にわたる外交の行き詰まりを打開し、地域の脅威に対抗するために米政府と協力して取り組んだことだ。尹大統領の申し出は「シャトル外交」の再開につながり、両氏は20世紀前半の日本の植民地化に伴う厄介な歴史問題を脇に置くことに真剣であることを示そうとしている。
歴史問題は両国の和解の試みを悩ませてきた。両国の国内政治の変化により、同じことが再び起こる可能性がある。実際、岸田・バイデン首脳会談は韓国の国会選挙と同日に行われる予定で、場合によっては2027年の任期終了よりかなり前に尹大統領がレームダックになる可能性がある。
しかし岸田総理は、個人的な関係が外交に大きな違いをもたらすことを外務大臣として学んだとし、尹大統領との関係がいずれ両国の信頼構築に役立つことを期待していると述べた。二人は昨年7回会っており、野球への愛とお互いの高いアルコール耐性を通じて親交を深めたと伝えられている。岸田総理は、尹大統領は「少なくとも私の経験では、約束や決断が揺らいだことは一度もなかった」と述べた。
岸田総理は「最終的には外交を決定する首脳間の関係に帰着する」と述べた。