寄稿・インタビュー
ハンデルスブラット紙(令和5年5月19日付)
「寄稿:広島から力強いメッセージを/ウクライナ戦争にとってもG7サミットはシグナル効果がある。岸田総理は国際秩序の堅持とグローバル・サウスへの関与強化を訴える。」
国際社会は、今、歴史的岐路にある。ショルツ首相は「時代の転換点」と表現した。世界はエネルギー危機、気候危機、パンデミック、ロシアによるウクライナ侵略といった複合的な危機に直面している。日本はドイツからG7議長国を引き継いだ。私は、G7広島サミットでは、2つの視点に基づき議論を深めたい。第1の視点は、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持する決意を示すこと。
脆弱な国にこそ「法の支配」が必要であり、主権や領土の一体性の尊重、紛争の平和的な解決、武力の不行使など、国連憲章の原則が守られていることが、国際社会で「自由」が享受される重要な前提と言える。
第2の視点は、グローバル・サウスとよばれる国々への関与の強化。ロシアによるウクライナ侵略は、途上国を始めとする世界の人々への暮らしに大きな打撃を与えた。
グローバル・サウスが直面する課題に耳を傾け、その解決に取り組まずして、彼らとの信頼関係を構築することはできない。そして、国際社会の諸課題は、こうした国との協力なくして解決することはできない。こうした観点からも、広島サミットではG7に加え、8か国の首脳と7つの国際機関の長を招待し、アウトリーチ会合を実施する。
これらの2つの視点に基づき、ウクライナ情勢、インド太平洋を含む地域情勢、経済的強靱性・経済安全保障、核軍縮・不拡散、食料・エネルギー安全保障を含む世界経済、気候変動、国際保健、開発といった地球規模課題について議論する。
まずは、ウクライナについて述べる。3月21日、私は、ウクライナを訪問した。なぜ、私はウクライナを訪問したのか。これはロシアによるウクライナ侵略が単に欧州だけの問題ではなく、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序への挑戦というグローバルな問題だからだ。市民の虐殺があったとされるブチャ市を訪れ、この目と耳で、ロシアによる暴挙を目の当たりにしてきた。G7広島サミットでは、G7のウクライナへの揺るぎない連帯を示したい。
ゼレンスキー大統領の参加を得て、ロシアに対し、全ての軍及び装備をウクライナから即時かつ無条件に撤退させることを求めるとともに、G7として厳しい対露制裁及び強力なウクライナ支援を継続することを確認したい。
次にインド太平洋に目を向けたい。我が国は、G7の中で唯一アジアの国。G7広島サミットでは、自由で開かれたインド太平洋に関するG7のコミットメントを確認する機会としたい。欧州とインド太平洋の安全保障は不可分。近年、独が同地域への関与と関心を深め、日本との間で安全保障分野を含む様々な協力が進展していることを歓迎する。
ショルツ首相が昨年4月、就任後のアジア初の訪問先として日本を選んだことは重要な政治的シグナル。また、3月にショルツ首相が再び訪日して日独政府間協議を実施した。このような形式の会議は日本政府として初めてであった。価値観を共有するパートナーとしての緊密な日独関係を新たな高みに引き上げた。首脳間の緊密な意思疎通を通じ、日独関係はかつてないほど強固かつ緊密なものとなっている。
その日独政府間協議では、経済安全保障が主要なテーマであった。今、我々の経済の強靭性が問われている。世界は重要資源の供給途絶や、相互依存的な経済関係に潜む脆弱性を含め、経済安全保障のリスクに備えなければならない。
G7広島サミットでは、サプライチェーンや基幹インフラの強靭化、非市場的政策・慣行や経済的威圧等への対応等、経済的強靱性や経済安全保障について率直な議論をしたい。気候変動・エネルギーについては、ロシアによるウクライナ侵略によりエネルギー安全保障の重要性が再認識される中においても、温室効果ガス排出ネット・ゼロに向けた目標は不変である。あらゆる適切なエネルギー源、技術を活用する必要性や地政学的リスクを認識しつつ、エネルギー安全保障を確保した脱炭素化に向けた多様な道筋を示していく必要がある。
最後に触れたいのは、核軍縮・不拡散。広島出身の総理大臣である私のライフワークである。広島と長崎に原爆が投下されてから77年間、核兵器が使用されていない歴史をないがしろにすることは決して許されない。
このメッセージを力強く世界に発信したい。「核兵器のない世界」の実現に向け、現実的かつ実践的な取組を進め国際的な機運を高めていくことが重要。G7首脳と議論を深めていきたい。
歴史的な転換期にある中で開催されるG7広島サミット。ロシアによるウクライナ侵略により、法の支配に基づく国際秩序が脅かされている。昨年のG7議長国ドイツのリーダーシップの下、G7が結束した対応を取る中で、G7の重要性が高まった。私は、G7やグローバル・サウスを始めとするパートナーと協力し、広島から力強いメッセージを届けたい。