寄稿・インタビュー
フィナンシャル・タイムズ紙(令和5年5月19日、電子版)(仮訳)
「議長国日本の下、G7は法の秩序を守るだろう」【寄稿】(岸田文雄総理)
3月、私はウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した際、厳しい対露制裁とウクライナに寄り添った支援を継続し、G7の揺るぎない団結を維持することを表明した。私からの招待で、ゼレンスキー大統領は今週末のG7広島サミットに参加を予定している。日本はウクライナに76億ドルの支援を約束した。なぜ、地理的に離れた日本がウクライナ情勢にコミットしているのか。ウクライナ侵略が欧州の安全保障の問題だけでなく、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序に対する挑戦だからである。今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない。我々は、力による支配を認めず、法の支配を貫徹するという決意を持っている。
世界は気候危機、パンデミック、地政学的危機といった複合的な危機に直面している。G7広島サミットでは、ウクライナ情勢や中国・北朝鮮など東アジアを含むインド太平洋の地域情勢を取り上げ、食糧・エネルギー安保を含む世界経済、経済的強靭性・経済安全保障、核軍縮・不拡散、デジタル、気候変動、国際保健、開発といった地球規模問題について議論する。複合的危機への対応をG7議長国として主導したい。各国の関心はこれらの問題に対処するにあたり様々だが、世界のどこで起こったとしても既存の国際秩序への挑戦に結束し対応するG7の決意は揺るぎない。この揺るぎない決意が今回のG7広島サミットの最重要メッセージだ。
インド太平洋地域はダイナミックな経済成長やイノベーションが約束され、将来的に国際社会の重心となることが見込まれる。とは言え、力による一方的な現状変更の試みや非市場的慣行・経済的威圧、経済成長と気候変動の両立など国際社会全体に影響を与える問題も顕在化している。
本年3月、英国は安全保障、防衛、開発、外交政策の統合的見直しを発表し、また、英国のCPTPP加入交渉が実質的に妥結した。インド太平洋地域へのコミットメントを具体化することで、英国は同地域の平和、繁栄が自身の利益であることを十分に認識していることを示している。この地域との恒久的な関わりは戦略的、地政学的に的確であり、英国が数十年先の未来を見据え、長期的な視点で投資を行っていることは心強い。それは単に貿易といった経済的利益や半導体や資源のサプライ・チェーンの確保という観点だけではない。英国、そして欧州全体の国益を支える世界的な課題への国際的協力は地域の境がない取組である。
同時に、世界が今日直面している課題への対応はグローバル・サウスと言われる国々を含む国際社会全体での取組が必要であり、G7として、グローバル・サウスへの関与を強化したい。だからこそ、私は最近エジプト、ガーナ、ケニア、モザンビークを訪問し、サミットにも豪州、ブラジル、コモロ、クック諸島、インド、インドネシア、韓国、ベトナムを招待している。
ウクライナ情勢も、気候変動も、国際社会全体の協力を得るためには、押しつけではなく、自らの判断で、グローバル・サウスの国々が納得し、G7の取組との連携を深めることが不可欠だ。G7をはじめとする国際社会が世界のどこでウクライナのような事態が起きても同様に結束し毅然と対応し、また、脆弱な国を中心とする各国にG7がどれだけ寄り添うことができるかが鍵を握る。
こうした観点からも、私は3月にインドを訪問した際に、自由で開かれたインド太平洋の新しいプランを発表した。自由で公正な経済秩序の構築、インフラ支援などによる多層的な連結性の強化、海洋の平和と安定の確保などを通じ、インド太平洋各国の成長と経済的強靭性の確保などの支援を発表した。各国との対話により、国際社会を分断ではなく協調へと導きたい。
広島でのG7サミットには特別な意味がある。広島と長崎に原爆が投下されてから77年間、人類は核兵器を使用せずにきた。この重大な歴史をないがしろにしてはならない。 核兵器は二度と使用されてはならないし、ロシアが行っているような核兵器による威嚇を含め、無責任な核のレトリックは受け入れられない。「核兵器のない世界」に向けたメッセージを発信するのに、広島よりふさわしい場所はない。G7首脳と議論を深め、現実的かつ実践的な取組を進めていく。
世界が複合的な危機に直面する中で、G7が取組を主導することが重要である。日本はG7議長国としてリーダーシップを取る決意であり、G7の各メンバーとの協力が不可欠である。