寄稿・インタビュー
岸田総理大臣インタビュー(2022年10月11日付、フィナンシャル・タイムズ紙(英国))
「岸田文雄氏、円急落の中でも日銀の超金融緩和政策を支持」
総理は、コスト上昇を消費者に転嫁する企業に対し、賃上げも促す
岸田文雄氏は、円が実質ベースで1970年代以来の低水準に急落したにもかかわらず、日銀の超金融緩和政策を支持する意向を明らかにした。フィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューの中で、日本の総理は、賃金が上昇するまで中央銀行は政策を維持する必要があると述べ、価格を上げる企業には賃金も上げるよう促した。岸田氏は、引き続き黒田東彦氏と「緊密に連携する」と述べ、日銀総裁の任期を早々に終わらせる、あるいはマイナス金利を終わらせるために政治的圧力をかけるといった憶測を否定した。岸田氏は、来年春に終わりを迎える黒田氏の10年間の日銀総裁任期について、「今のところ、彼の任期を短くすることは考えていない」と述べた。「来年4月に予想される経済状況を見据えて、適切な人選を検討したい」と述べた。日本の経済的課題が、暴走するインフレから国民を守ろうと苦闘している他の先進国といかに対照的であるかを示す兆候として、岸田氏は、日本には賃金抑制よりも賃上げが必要と述べた。企業が増加する投入原価を転嫁する中でも、賃金を引き上げられるよう、政府は支援のための施策を準備すると岸田氏は語った。岸田氏の発言は、生活費の高騰に対する国民の懸念が高まり、総理の支持率が急落する中で行われた。11日午前安定した取引が行われていた円は、岸田氏の発言を受けて、対ドルで0.1%下落して145円83銭となり、政府が為替介入を行った9月の安値145円90銭に近づいた。「物価高騰を転嫁することによって、企業が賃上げをする余地が生まれることを期待している」と岸田氏は語った。「従来、賃上げはコスト要因として捉えられてきたが、今後は経済や企業自体が成長できるよう、企業は人に投資する必要がある」と述べた。日銀の政策スタンスは、円を対ドルで24年ぶりの安値に押し下げたが、政府のインフレ対策や、円安を利用して輸出や観光を促進するための施策によって相殺されることになる。
総理の発言は、円にとって不安定な時期、また10年近く超金融緩和政策を揺るぎなく続けてきた日銀が世界の混乱によってついに怯むことになるかもしれないとの憶測が高まったことを受けてのものだった。岸田氏がフィナンシャル・タイムズ紙の取材に応じる直前、円は1ドル=145円60銭まで下落し、先月日本当局が介入した水準まで30銭というところまで迫った。200億ドルを費やして円高に向かわせようと試みたものの、日米の金利差が拡大し続ける限り、ほとんど効果がないだろうと専門家は警鐘を鳴らす。日本は、世界的なエネルギーと食料価格の高騰から、米国や欧州と同じような圧力に直面している。しかし、物価高騰から賃金上昇への転嫁がほとんど行われていない中、消費者物価指数は3%と比較的低い水準にとどまっている。エネルギー価格の高騰は、日本が大量に輸入しているLNGの長期契約によって部分的に相殺されている。日銀は、日本経済の潜在的な消費者需要は弱いと主張し、来年度にはインフレ率は2%を下回ると予測している。企業、特に労働力の70%を雇用する中小企業は、コストの上昇を消費者に転嫁するのに苦労し、その結果、利益を圧迫して賃上げが難しくなっている。世界的なエネルギー危機によって企業が商品の価格の引き上げを迫られ、労働者が賃上げを要求するような圧力が生じる中、数十年にわたる断続的なデフレを経験した日本は歴史的な転換期を迎えているかもしれないとエコノミストは指摘する。「どの程度のインフレが適切か、数字的に示すのは難しい」と岸田氏は言う。「しかし、物価高騰に見合う賃上げがなければ、持続可能な経済は維持できない、国民の生活は守れないということを強く感じている」と述べた。